第27話 お食事

 カオスがそう言った途端、くるくる浮かせていたカオスがピタリと宙で動きを止め、その刃先がこちらを向く。


 ヒュンッ。


 見つめ合い(?)数瞬。カオスは笑みを浮かべながらこちらへ一直線。丁度左手にラベッジが収まったタイミングで、ラベッジによって左手は引っ張られるように振り払われた。


『カオス。マスターに対して不遜ですよ』


『ッハ、俺たちァ、呪いの武器だろ。それにご丁寧に説明書に書いてある。稀に装備者を殺しますってなァ。ギャハハハ』


「いいね。退屈しないで済みそうだ」


 短剣のことは短剣に聞くのが一番早い。この二人に短剣術を体に染みつくまで教えてもらおう。




 それから二時間ほど経っただろうか。


「全然襲ってこないどころか、人がいないね」


『ギャハハハ、おい相棒、正気か? 誰もいないのに短剣をブンブン振り回しながら移動しているイカレポンチを襲うヤツなんていねぇよ。そらみんな裸足で逃げ出すわな』


『……』


 イカレポンチって……。これに対してラベッジからのフォローはない。どうやら同意見らしい。


「いや、ようやく攻撃面のスキルが習得できる機会だからね。もういい加減、力任せに殴る蹴る潰すは飽きたんだよ」


 実際、このトレース訓練(僕が名付けた)は、実に効果的だと感じる。カオスとラベッジの太刀筋や動きをなぞると心地よい。動きに美しさがある。


『これが誰の動きか教えてやろうか?』


 僕が感動しているとカオスがニヤけながらそんなことを言ってくる。


「ん?」


『カオス。コード。いい加減にしないとへし折るわよ』


『へーへー。まるで俺たちの動きに魅入ってる相棒があまりにトンチンカンでな』


「カオス、どういうこと」


『ケケ。おい、相棒この太刀筋どう感じる?』


 カオスが先ほどの何倍もの速さで動く。あまりの速さに腕の筋肉と関節が軋み、悲鳴を上げる。


「……すごいね。これは前の使用者の動きってこと?」


『クク。そうとも言えるし、そうじゃねぇとも言える。さて、これ以上はラベッジがうるせーからな。それより、いい加減腹が減ってイライラしてきたぜェ?』


 カオスの刀身に走っている赤い模様が色濃く浮かび上がり、脈動し始める。なるほど、確かにイライラしているようだ。


「そうだね、じゃあここら辺で誘い出してみようか。よっこいしょ」


 カオスとラベッジを鞘に収め、代わりにスマホを取り出して、地べたに寝そべる。やる気のない感じでスマホをポチポチしていれば、いずれラッキーキルポイントとばかりに襲ってくるヤツも出てくるだろう。


 そして15分後。


 パンッ。


 遠くで銃声が響き、その直後僕の左腕が弾け飛んだ。


「うしっ、釣れた。弾一発当たるごとに、十回殺すことにしよう」


 立ち上がり、弾道からおおよその場所の見当を付ける。


『マスター、あの灰褐色のビルの上から三フロア目。窓のところです』


 ラベッジが先に見つけてくれた。ビルは、ここから二百メートルほど離れているだろうか。目を凝らせば銃口とレンズが僅かに光りを反射し、確認できる。


『さぁ、食事の時間だ!! ヒャッハー!!』


「はいはい。ご挨拶に行くとしよう」


 左腕を即座に復元し、よーい、ドン。ビルまで三秒程で辿り着く。


『おい、相棒。待ちきれねェ。壁から行こうぜ』


『マスター、私たちがサポートします』


「なるほど。了解」


 カオスとラベッジを両手に構え、助走をつけて壁を駆け上がる。二人が押し上げ、壁に張り付くように動いてくれているため、垂直に駆け上がるのも容易だ。


「っと」


 上から狙撃された。ビルを駆け上がりながら避けるのは少々難しい。カオスとラベッジなら弾をはじき返すこともできただろうに銃弾は右肩を貫いた。どうやら十回では足りないらしい。これで二十回だ。


「とーちゃく、と。やぁイモスナイパーさんこんにちは」


「ヒッ!? バ、バケモノッ!!」


 全身黒づくめの男が叫びながらショットガンを撃ってくる。


「遠距離はスナイパーライフル、近距離にショットガン。いいね、スタンダードにこのゲームを楽しんでる感じだ。ちなみにスナイパーライフルもショットガンもちょっとだけ痛かったんだよね。キミは50回食べさせてもらう」


『ひゃっほー!! さ、喰おうぜ』


『カオス、がっつかないの。あら、私としたことが涎が……』


 カオスもラベッジも限界のようで、口元から赤い涎を垂れ流している。


「では、いただきます」


「ひ、ひぃぃああああ!!」

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