第26話 怨嗟の呪双剣
「えーっと、怨嗟の呪双剣、と。ぽちっ」
スマホをかざして、決済完了。取り出し口には入らなかったようで、最初のハンドガンと同じように宝箱に入って出てくる。パカリ。開けてみると、黒刃に赤い模様が血管のように走った短剣が二本。グリップには古びた包帯が巻かれており、ところどころ血痕のような赤茶色の汚れがある。
「中古……かな? まぁいっか」
鞘とベルトもセットのようで助かった。左右の腰にそれぞれ鞘を付け、両手でクルクルと短剣を回しながら出したり、仕舞ったりしてみる。
「いいね。うん」
何十年来使い続けてきたような、ものすごいしっくり来る。
「よし、気に入った。名前を付けてやろう。右手のお前はカオス。左手のお前はラベッジだ」
『ギャハハハ。今回も俺がカオスで、お前がラベッジだってよ』
『素晴らしい名前です。あと、カオスその下品な笑い方はやめなさい』
「え」
名前を付けた途端、刀身の一部がパクパク動いて、まるで喋ってるかのように喋った(?)。カオスからはガラの悪い男の声が。ラベッジからは澄んだ女性の声が。
「いやいや落ち着け。疲れてるのかな。短剣が喋ってるかのように喋るわけ……」
『それがあるんだなぁ。よぉ久しぶりだな相棒。今回も頼むぜ?』
『マスター。お久しぶりです。今回もよろしくお願いします』
「あ、やっぱ喋ってる。いよいよファンタジーだね。ま、暇つぶしにはいいか。で、えーっと、どこかで会ったことあるっけ?」
カオスとラベッジは久しぶりと言っているが、この世界に来てから短剣と喋った記憶はないし、この世界に来る前も短剣が喋るということはない世界だった気がする。つまり、僕としては初対面だと思うのだが。
『ハ。相変わらず、相棒は忘れっぽいな。一度脳みそクリーニングした方がいいぜ』
カオスは口が悪い、と。
『マスターお気になさらないで下さい。私たちの戯言です』
「そ。まぁなんでもいいさ。で、キミたちみたいな喋る武器って他にもいるの? 例えば聖剣エクスカリバーとか」
『あー、エクスカリババアな。あの偏屈ババアに会ったらぜってー叩き割ってやるぜ、ギャハハハ!!』
あ、聖剣エクスカリバーは女性なんだ。
『えぇ、マスター。インテリジェンスウェポンはいくつか存在します。ちなみに聖剣は舐めてかからない方が良いかと』
「へー。覚えておくよ」
どうやら聖剣はネタ武器ではなく強いらしい。そりゃそうか。少なくとも二万人の命の上に立つ武器だ。
『さて、相棒。早速誰かぶっ殺しに行こうぜ。俺ァ喉が渇いちまった』
『ハァ、カオス。品がなさすぎますよ』
『ッハ、るせー、お前だってカラカラのくせに何を強がってんだか』
『……』
どうやらカオスとラベッジは喉が渇いているらしい。まぁこの雰囲気からして血とか命を啜る系なんだろうな。
「じゃあまぁ襲い掛かられるまで歩こうか」
『カカカ、相変わらず相棒は悠長だが、まぁいい、頼むぜ』
『すみません、ご足労おかけしますマスタ―』
「はいはい、それじゃ行こ、あ、銃とかも買って──」
『いらねぇよ』
『いりませんね』
「……了解」
どうやら銃はいらないらしい。僕は協調性の塊かつ民主主義なので、二人がそう言うのであれば無理に覆そうとも思わない。
「じゃあ今度こそ、行こうか。プレイヤー数は3万人を切ったね」
スマホでマップとプレイヤー数を確認した後、歩きはじめる。この二週間でプレイヤー数は大分減った。そりゃそうだ。食事に1キルポイント必要なのだから、最大でも半分のプレイヤーしか生き残れない。更に聖剣使いのように大量のポイントを持ってるプレイヤーがいるだろうから、これからもドンドン減るだろう。
「世知辛い世の中だねぇ」
『カカカ、これからもっと楽しくなるぜ?』
『カオス。あんまり調子に乗るとコードに引っかかるわよ』
『ッケ。へぇへぇ』
カオスとラベッジは何かを知っているようだが、それを言えないらしい。運営が用意した武器なのだから、運営のことを知っててもおかしくない。
「カオスとラベッジは運営のことも知ってるのかな?」
『クク。
『マスター、申し訳ありません』
なるほど。知ってるようだ。
「ま、いいさ。楽しみがなくなってしまうのもつまらないからね」
『ギャハハハ、流石だぜ相棒』
『寛大なお心感謝いたします』
「あ、そうそう。キミたち必殺技とかないの?」
カオスとラベッジをくるくると浮かせながら尋ねる。僕のスキルはいわゆる生存、防御といったものに極振りだ。攻撃面の引き出しが心もとない。インテリジェンスウェポンであるならば、必殺技の一つや二つあるだろう。
『ねぇな』
『申し訳ありません』
なかった。
「……ま、仕方ないね」
『ギャハハハ、そうシケた面すんなよ。そん代わり俺たちァ、自分で動ける』
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