第25話 再出発


 それから数日が経った。


「団長、申し訳ないね。出ていくことにするよ」


 団長の部屋で僕はそう告げる。


「そうか。……仕方ないね」


 団長は引き留めることもなく、目を閉じて小さく首を横に振るだけだ。


「じゃあフェーズ6でね」


 僕がこの団から抜ける理由はいくつかあるが、総じて言えば“思ったより面白くなかった”それだけだ。


「あぁ、お互い生き残ってクリアしようじゃないか」


 団長は僕の退団の理由すら聞かない。謎スキルでそれすら読んでいるのだろうか。いや、僕の表情が物語ってるのかも知れない。


「じゃあね」


 そしてそれ以上、何の言葉を交わすこともなく部屋を出る。


「ビリーもバイバイ」


 コクリ。静かに小さく一つ頷くだけ。ビリーらしい。それからカズトに別れを告げ、何人かの親しくなったメンバーに声を掛けて去る。


「おい、新入り出てくのか」


「あぁ。清々したかい?」


 サトシ君だ。


「ッチ。あぁ、そうだな」


「そこまで固執していると逆に気持ち悪いな」


「るせー、ルーカス」


 あれからサトシ君とルーカスはチームを解体して、別のチームに割り振られた。一見いつも通りにも見えるが、二人の雰囲気は重く暗いままだ。


「じゃあルーカスお世話になったね。サトシ君にもほんのちょびっとお世話に……なってないか。ま、二人とも生き残れることを願うよ」


 それから二人は別れの言葉を口にし、それに手を上げて応え、アジトを後にする。





「さて、一人に戻ったわけだけど……」


 フェーズ3までは残り二週間ほど。クリムゾンを壊滅させたことにより、ユニークキルポイントが408、消費キルポイントが1790ほどになった。


「何か買い物でもしようかな」


 団にいた頃はそんな気分にならなかったため、死体使いの時のシャワーパスと替えの服一着しか使っていない。


「えーっと、マップに自販機が載ってて、そこに品物とポイントが書いてあるんだっけ?」


 メンバーに使い方を教えてもらった機能を使い、早速スマホで自販機を調べてみる。


「まずは武器屋さんかな。どれどれ」


 ハンドガン消費1 

 サブマシンガン消費3

 ショットガン消費10

 アサルトライフル消費15

 スナイパーライフル消費30

  対物ライフル消費100

 ロケットランチャー消費200

 ナイフ消費1

 ダガー消費2

 などなど。


「うーん。有りすぎ。何買おう。防弾だの防刃チョッキ、ポリカーボネートシールド……防具系はいらないな。一番高い武器はっと……」


 聖剣エクスカリバ― 消費20000。


「……2万は無理ゲーだね。プレイヤーから奪える消費ポイントが半分にならなきゃ最後の方でなんとかなるかもだけど」


 これを手に入れるとしたら最初期から純粋にキルポイントを搔き集めるしかないだろうから。よほどの大量殺戮者ジェノサイダーだ。


「しかし、どんな武器か興味は──あ」


 冷やかしがてら詳細を見ようとしたらSOLD OUTになってしまった。どうやらこのゲームに大量殺戮者が一人紛れ込んでいるようだ。


「くわばらくわばら。二万キルもしているイカレ殺人鬼には会いたくないね。ボクも用心のために装備をっと、ん?」


 上からスクロールしていくと、目を引く武器があった。怨嗟の呪双剣 消費666。


「タップして、詳細をっと」


 怨嗟の呪双剣──死に惹かれ、より鋭く、より美しく。死を振りまく双短剣。死に触れる度成長していく。気分次第で装備者を殺す。


「ふーん。気分次第で装備者を殺す、ね。ボクにとってはデメリットでもなんでもないね。そんなクソデメリットがあって尚且つ消費666ポイントも使わせるんだから、そこそこ強いでしょ」


 そう考察していたら買う人はいないだろうに売り切れが怖くなり、武器屋自販機へいそいそと向かっていた。

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