第24話 別れ

「飼い主と違ってイイ子だ」


 鼻先を撫で、アッシュを睨む。


「で、ご自慢のワンちゃんはこう・・だけど、お前ひとりで戦えるの?」


「ふ、ふざけるなぁ!! クリムゾン命令だっ!! 死んでも戦えっ!!」


 シーン。


「おいっ。マジでふざ──」


「ふざけんなは僕のセリフだ」


 喚いているアッシュの元まで一足飛びで詰め、喉をわしづかみにし、そのまま頭を床に叩きつける。


「ゲハッ!!」


「死ね」


 首を握り潰す。簡単に死んだ。アッシュが死ぬのと同時にクリムゾンは魔法のように消えた。


死の復元リターン。さ、あと何回殺されるまで折れないでいられるかな」

 

「……なっ、俺は一体、ク、クリム──ギャアアア」


 ナイフを耳から脳まで突き刺す。これで二回目。


死の復元リターン


「ヒッ、ヒッ、なんだお前っ!! げ、幻覚使いかっ!?」


「いや、お前を殺して、生き返して、また殺してるだけだ。手を出した相手が悪かったな」


「お、おい、ちょっと待──」


「死ね」


 目にハンドガンを押し付け、トリガーを引く。理力が8000だろうが、ハンドガンで死ぬのだから1と10と8000に大して変わりはない。そう言えば、自分も初期理力3000だったが、簡単にナイフで殺されたし。


 それから数回殺す間にアッシュは簡単に折れた。宣言通り百回殺して、最後は復元せずに打ち捨てておく。


「ヒッ、ヒィィッ!!」


 部屋を出ようとしたら、入口から小さな悲鳴とそのあとに銃声が聞こえた。金髪ホウキ頭のジャスパーが自殺したようだ。僕はその死体を一瞥し、またいで外に出る。


「サキ。『死の復元リターン』『死の復元リターン』『死の復元リターン』……。やっぱり無理か……」


 サキを生き返そうとしたがそれは叶わなかった。僕が関わった死でないと、復元することはできない。少なくとも今の理力では。


「……さ、帰ろうか」


 僕はサキを抱え上げ、二人のいる部屋へと歩いていく。


「!? サキッ、サキは無事なのかっ!?」


 随分と元気になったサトシ君が駆け寄ってきた。僕は首を横に振る。


「そんな……。サキ……。サキッ!!」


 膝から崩れ落ち、サキの名前を呼びながら泣きじゃくる。


「……クリムゾンの連中は?」


 ルーカスが聞いてくる。


「頭と幹部は潰したよ」


「そうか、助かった。助けに来てくれてありがとう」


「いいさ」


 ルーカスが深々と頭を下げてくる。


「……良くねぇ。何も良くねぇよ!! サキが、サキが死んじまったんだぞ!!」


 サトシ君がひどい顔で叫んでいる。


「……そういう世界だ」


「てめっ、ルーカス!! チームのメンバーだろがっ!!」


「うるさいっ!! いくら泣こうが、喚こうがサキは帰ってこないっ!! サキがっ! 俺が! お前が!! ……弱かった、只それだけだ。その結果だっ……」


 ルーカスはサトシ君の襟首をグッと持ち上げながらそう吐き捨て、最後は力なく手を放した。


「サキを埋めてあげよう。あと二時間もしない内に消えてしまう。こんな場所が最後なんてあんまりでしょ」


「……そうだな。その通りだ。カイ、サキを連れて帰ってきてくれてありがとう」


 サトシ君に名前を呼ばれて、頭を下げられた。鳥肌が立ちそうだったが、なんとか我慢して、いいさと答える。


 こうして、僕たち三人とサキはクリムゾンのアジトを後にした。


「お疲れ様っス……。その、姐さんのことは残念っス」


 ルインで連絡を取ったカズトには簡潔に状況をシェアしておいた。カズトはそれ以上口を開かず、男四人で外周ギリギリにある小高い丘にサキを埋め、墓標を立てて手を合わせる。


「……サキッ、サキッ」


 サトシ君はサキのことが好きだったんだろう。サキの方は相手にしていなかったが、こんな世界じゃなければ案外上手くいったのかも知れない。


「サトシ。行くぞ」


「……あぁ」


 うずくまり、嗚咽を漏らすサトシ君にルーカスが声を掛け、ようやく立ち上がる。こうして僕たちは仲間を一人失い、チームを一つ潰し、アジトへと帰ったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る