第22話 1700
「はい、ちょっと急ぐからドンドン行くよ」
世紀末くんたちは、こちらへ向かってくるか、逃げるかを迷って動揺している間に石を投げ終わり、全滅させた。そして、奴らが現れた方へ走っていく。
「おー。早かっ──てめっ、誰だっ!!」
アジトの入り口に門番らしきメンバーがいた。
「ん? 侵入者だよ」
言い終わると同時に男の頭をぐわしと掴み、ドアへと叩きつける。男の頭はトマトのように潰れ、ドアはそのままバタンと倒れた。
「あー。仲間を返してくれませんかー。そしたら今生きている人たちは見逃してあげますよー。さもなくば全員殺します」
クリムゾンのアジトに入り、そう宣言すると一人の人影が現れた。
「ん? 人形?」
それは人ではなく人形だった。そして次の瞬間、真っ白い閃光が僕の視界を覆い、爆発音。僕の身体が吹き飛ぶ。
「……久しぶりに死んだなぁ。カウントをプラスしてくれてありがとう。おかげでまた強くなれるよ」
人の死より、自分の死の方が圧倒的に理力や能力補正が上がる。強力な爆弾なら死ねるということが分かったので成長の壁にぶち当たったら爆弾自殺でレベル上げもいいかも知れない。
「さて、じゃあ殺しにいくね」
アジトへと本格的に侵入した。部屋を開ける度、銃弾やら毒ガス、スキルなのだろうか槍だの斧だのを持ったヤツから、火を吹いたり、ナイフを投げてきたり、大道芸レベルのヤツまでよくもまぁこんな連中を寄せ集めたものだと感心しながら、全て殺していく。
「雑魚ばっかだね」
しらみ潰しにサキたちを探すが、思った以上に部屋が多く、入り組んでいる。侵入から三十分程が経っていた。ここまでに数百人は殺したろうから、敵の数も大分減っている筈だと思いたい。
「と。ようやくそれっぽい部屋だな」
今までの軽い木の扉とは違う、黒鉄のトゲが装飾された樫の分厚い扉だ。ノックがわりに蹴破る。
「よう。侵入者。随分派手にヤってくれたなぁ?」
金髪ホウキ頭の男と、その奥にサトシ君とルーカスがパンツ一丁で壁に手足を縛られて拘束されていた。その体は傷だらけで死んでもおかしくない量の流血だ。
「キミがやったの?」
金髪ホウキ頭の手には有刺鉄線を太くしたような鞭があり、血液で赤黒く染まっている。
「そうだ。んで、お前も同じようになるわけだ」
「ふーん。二人は生きてるかな?」
「……カイ、逃げ、ろ。こいつはケルベロスと呼ばれる幹部たちの一人、だ。理力は四桁越え。殺される、ぞ……」
ルーカスが息も絶え絶えにそう伝えてくる。
「うんうん。生きてて良かった。サトシ君は生きてるかな?」
「……新入り、俺たちのことはいい。サキを、サキを……」
「オーケー。生きてるならいい。金髪ホウキ君。もう一人攫ってきた子いるでしょ? どこにいる? 案内してくれない?」
「クク、アーハッハッハッ!!」
金髪ホウキ頭は心底愉快そうに大笑いをした。
「? 何がそんなに面白い?」
「クク。白髪小僧、お前のあまりの無知さについつい笑っちまったよ。俺の名はジャスパー。クリムゾンのケルベロスが一首。理力は1700。1700だ」
二回言った。しかもドヤ顔で。金髪ホウキ頭改めジャスパーにとっては大事なことなのだろう。
「で? 無知って?」
「ハァ、お前聞いてた? 理力1700だぞ? 無知過ぎるお前に教えてやろう。俺のスキルは『鞭術」だが、理力100でこっちに来る前の世界だったらその道の頂点に立てるレベルだ。その17倍。単純に17倍強いんじゃねぇ。三つくらい次元が違ぇのよ。理解出来たらブルブルと震えて小便チビって逃げろよ。ま、逃がさねぇけどな』
「あそ。どうでもいいから案内しろ。素直に従うなら案内し終わった後、楽に死なせてやる。ま、キミバカそうだか素直に従わないと思うんだけどね。その場合は痛みを以って案内させる。どうする?」
たかだか四桁ごときのマウントに付き合うほど暇じゃない。最初で最後の通告だ。
「あぁん? そこまでクソバカだと面白くねぇわ。とりあえず死んどけ」
ジャスパーの鞭が振るわれる。その先端は軽く音速を越え、強烈な破裂音を響かせながら鼻先をかすめる。
「で? 1700ってのは次元が三つ違うんだっけ? 避けたけど?」
「クソガキァァアア!!」
最近の無法者はキレやすくて困る。四方八方から鞭が飛んでくるが、いちいち避け続けたんじゃ時間がもったいない。ビシビシと体に当たって服は破けるが皮膚は傷一つつ付いていない。
「な、なんだテメェ!?」
「はい。到着」
ゆっくりと歩いて僕の間合いまで詰めた。まずはローキック。左スネの脛骨と腓骨をへし折る。
「グギャァアア!!」
ジャスパーはゴブリンのような悲鳴を上げながら崩れ落ちた。痛みに悶えているジャスパーの右肘を両手で挟むように掴み、雑巾を絞るように捩じり上げた。
「ハギャァアアアア!!」
手の平が三周ほど回った。肘は完全に壊れ、皮膚だけでぶら下がってるような状態だ。ジャスパーはよだれを撒き散らし、ハヒハヒ言いながら涙を流している。
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