第20話 サトシ視点②

 無人のロビーを抜け、上を目指す。どこから電気が来ているかは知らないが、照明もつけばエレベーターだって動く。とはいえエレベーターが動けばそれはプレイヤーが来たと知らせることになるから俺たちは使わない。


『階段発見。クリア』


 ビルの中に階段を見つける。サッと踊り場や遥か上まで見上げてみるが、人の気配はしない。小声でそう伝えてから、階段を音を立てずに上がり始める。


『二階クリア』


『三階クリア』


『四階クリア』


 一つ一つのフロアを確認しながら上がっていく。低階層に人がいることは滅多にない。いるとしたら真ん中辺りか最上階付近だ。そして、今回は後者だった。


『二十八階、痕跡あり』


 オフィスフロアのその階層。デスクの奥まったところにゴミが散乱しており、寝袋が敷かれている。プレイヤーのものだろう。


 ルーカスは退路の確保のため入口付近に残り、サキは俺のサポートのためひらけた場所に立つ。そして俺はフロアの中をプレイヤーがいないか探し回った。


「……!?」


 いた。一人だ。机の下に黒い外套で全身を覆って隠れている。


『いたぞ』


『『了解』』


 二人が合流し、ハンドガンを向けながらうずくまって隠れている人影に近づく。

「見えてるぞ。危害を加えるつもりはない。出てこい」


 俺が声を掛ける。だが、人影はうずくまったまま微動だにしない。


「おい。聞いてるか? おいっ」


 大きめの声で話しかけるが無視したままだ。俺は二人に目線を配る。二人はこくりと頷いた。俺はゆっくりと近付き、肩に触れる。その瞬間──。


「きしゃああああ!!」


「うおっ!!」


 グルンと180度首が後ろに向き。歯をむき出しにしてきた。俺は慌てて飛びのく。


「ケタタタタタ」


 机の下から這って出てきたのは──。


「……人形?」


 マネキンではなくからくり人形のようだ


「ッチ。誰かのスキルか。悪趣味だぜ。おい、こいつどうす──」


 どうするか聞こうとした時だ。


「ヒィアアアアアァァ!!」


 突如、人形が目を赤く発光させながら、信じられない程の大声で叫んだ。


「うるせぇ!!」


 俺は反射的に駆け寄り回し蹴りで人形の頭を吹っ飛ばす。頭は千切れ、床をバウンドしていく。


「何だったんだよ、今の」


 そう俺が言った時、ルーカスが指を口に当て、静かにとハンドサインを寄越し、耳を澄ましている。俺は黙って、ルーカスと同じように耳を澄ませた。


「「「!?」」」


 三人ともが聞こえた。これはバイクの音・・・・・だ。この世界でバイクの音と言えば奴らの専売特許。無法集団クリムゾンだ。


「罠だ。サキ、サトシ、急げ。エレベーターだ」


 俺とサキは頷き、すぐにエレベーターへと向かう。まさかこの人形がクリムゾンの連中のトラップだったとは。乗り込み扉を閉め、すぐに一階へと向かう。


「チッ!!」


 遅い。一秒でも早く車へ戻り、逃げ出さなきゃいけないのに二十八階という位置にイライラする。


「カズトにルインしたわ」


 サキだ。内容はクリムゾンの罠にかかった。逃げる。無事なら5分置きに連絡する。10分以上途切れたら助けにきて、との内容。ようやく一階だ。扉が開いた。


「ウェルカーム。うさぎちゃんたちぃ」


 そこには、数十人のプレイヤーが待ち構えていた。


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