第17話 非常識
「みんな、どうしたの?」
「……いえ、なんでもないわ」
「そ」
こうして、僕の初任務は終わり、アジトへと帰ってくる。
「おかえりなさーいっス。あれれー。皆さん顔暗めっスね。何かあったんスかー?」
「なんでもないわ。報告をしたいんだけど、ボスはいる?」
「いるっスよー」
「そう、ありがとう」
カズトは僕に対して声は出さず表情で何かあったのかと聞いてくるが、僕も分からないので困った顔をして肩をすくめるだけだ。そしてそのまま無言で団長の部屋へと到着する。
「やぁ、みんなおかえり。カイが無事な様子を見るに死体使いを倒したかな?」
「まぁね。イージーだったよ」
「フフ、そうか。それでサキたちは何でそんな表情なんだい? カイにいじめられたかな?」
「……ボス、説明して下さい。ボスはカイが
サキが不機嫌(?)だった理由は、そこら辺にあるみたいだ。でも、何がそんなに不満なのか分からない。僕が強いから? 団長がそれをサキたちに言わなかったから?
「そうだね。僕はカイが
「……それはボスのスキルの効果でしょうか」
「半分はね」
団長はニコリと笑う。そうか、僕は団長にそこまで信頼されていたのか。うんうん。
「ボス。カイの強さはすさまじいものだと認めます。ですが、彼のメンタリティや行動基準には不安を覚えます。サトシとも相性が悪い。彼の配置換えを提案させて下さい」
どうやら僕はルーカスにも嫌われているようだ。悲しいね。
「了承だ」
「え!?」
驚いたのは僕ではない。サキだ。この提案は通ると思っていなかったようだ。
「死体使いは現段階では上位プレイヤーだ。ゾンビの大群はかなり強い。それを撃破できるカイ。キミには有事の際に飛び出して全てを破壊し尽くす孤軍の遊撃隊になってもらいたい。つまりボクたちの切り札。ジョーカーだ」
「……おーけー」
サキたちと班行動できなくなるのはちょっぴり退屈だけど、わずらわしさの方が勝つことが分かったので、一人の方が楽だ。別にアジト内で口を聞いちゃいけないわけじゃないし。
「となれば、死体使いをゲームから排除した褒美も与えなくちゃいけないね。はい、僕の連絡先と個室の鍵だ」
団長とルインを交換し、鍵を貰う。サトシ君とルーカスとのギスギス相部屋もちょっぴり楽しみだったけど、これでいいのだろう。
「ありがとう」
「うん。じゃあ三人は下がっていいよ。あぁ、カイはちょっと残ってくれ」
「? はーい」
三人が退室し、団長と二人だけになる。
「どうしたの?」
「カイ、キミはこの世界の情報が欲しいんだろ?」
「うん。団長、何か教えてくれるのかい?」
「フフ、いやボクも知ってることはほとんどないよ。だけどそうだね、いくつかボクの推察したことはある。カイも気付いているだろう? この世界が
「そうだね。まだ鳥の一羽も見ていないね」
「鳥どころじゃないさ。虫一匹すらいない。カイ知ってるかい。この世界の食べ物は腐らないし、カビも生えない。これがどういうことか分かるかい?」
「冷蔵庫いらず?」
「ハハ。確かにそれも正解の一つだ。でもボクが意図した回答ではないね。つまりこういうことさ。この世界には我々プレイヤーしか生命体が存在しない。目に見えない菌類や微生物に至るまで、だ」
「へぇ、それは非常識だね」
「あぁ実に非常識だ。そして、そんなことは
この気候、この街並みでそれは不可能だろう。人類の技術では滅菌室の中でだって完璧に0にはできない。
「不可能なことが起きている。ここは一体どこなんだい?」
「公式が最初に言った言葉通りさ。これは神々が催したゲーム。そう、ゲームだ。つまり現実ではなく仮想世界。世界を全て再現するだけのリソースが足りないからこんな静かな世界になった。空想家すぎるかな?」
その言葉に辺りを見渡す。目に映るものは全て質量を伴っているように見える。
「そうだね、ゲームだとしたらすごいなとは思うね。あ、でもゾンビは腐ってたよ?」
あの臭いを思い出す。おもいっきり腐ってた。
「そうだね。ボクの中では二つ仮説がある。一つはプレイヤーの中にのみ常在菌と言われる微生物が存在して、死体が腐るという考え。もう一方は、死体使いの理によるもの。死体使いがゾンビは腐っているものと決めた。その理力によって世界の理が書き換えられるわけだ」
「……なんでもありだね」
「フフ、そうだね。ちなみにカイはプレイヤーの死体がどうなるか知っているかい?」
そう言えば知らない。死体使いの死体はそのまま置いてきちゃったし、メタオは殺しては生き返してを繰り返し続けてたし。
「知らないね」
「まぁ死体の観察日記をつけたがる人は少ないだろうからね。……三時間。ピッタリ三時間で死体は忽然と消える。最初の宝箱と一緒さ。目を凝らして見つめ続けても分からない。腐り始める前にパっと一瞬で消えてしまうんだ」
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