第16話 アルティメットジャイアントゾンビ
「カイッ! 早く死体使いを殺して!」
「観客は静かにしたまえっ!!」
階段から様子を見ていたサキの言葉に対して、声を荒げる死体使い。さて、僕の取るべき行動は既に決まっている。
「ま、当然、アルティメットジャイアントゾンビと遊ぶ、だよね」
「ッフ。いいぞいいぞ。キミはこの世界で生き残る才能がある。そうだ。この世界は
死体使いは気持ちよさそうに演説をする。肯定も否定もしない。ただ──。
「まぁ確かに僕はまともではない。その一点だけは認めるかな」
「ッフ。さぁ、オモチャのプレゼントだ」
死体使いが下がると、腹の底に響くような地鳴りがし始める。轟音とともに壁の一部が崩れた。どうやら現れたようだ。確かにジャイアントの名に相応しい。そのゾンビの身長は四メートルを超えるだろうか。
「これ、元人間?」
「も、素材の一部だね。ポイントのほとんどを素材に費やした可愛い私のベイビーだよ。ほら、お友達と遊んできなさい」
「ドラァァアア!!」
その咆哮で空気は震えあがり、壁や床にいくつもの亀裂を走らせた。
「壊し甲斐はありそうだね」
巨大な体躯が駆けてくる。
「っと」
ぶぉんと前腕が振るわれる。意外にもかなり速い。それを飛んで躱した。
「ドラァア!!」
目前に巨大ゾンビの顔。口の大きさは僕が丸まればすっぽり入りそう。ガキン。先ほどまで僕のいた場所で不揃いの歯が噛み合わされる。
「お口臭い臭いだね」
そんな言葉が分かるわけもないだろうが、まるでスイッチが入ったかのように凶暴さを増し、床や壁をがむしゃらに破壊しながら暴れる巨大ゾンビ。そのことごとくを避けながら遊び続けていると──。
「いいぞいいぞ。どちらも素晴らしいっ!! カイ君とやら。これは確信にも近しい予感だが、キミを殺してゾンビに加えられたら、フェーズ6を勝ち抜ける」
死体使いがアホなことを言い出した。
「あー、それは無理かな」
「なに? 何が無理だと言うのかね」
「僕のスキルは『不死』。死なないからゾンビにはなってあげられないし、そもそもこいつ如きに殺される訳もない」
僕はそう言うと、猛り狂うゾンビの身体の上をスタスタと歩いて登り、その下顎をポーンと蹴り飛ばす。
「は……?」
死体使いの間抜けな声の後に轟音──しばし遅れて再度轟音。一度目は巨大ゾンビの頭が地下の天井にめり込んだ音。そして二度目はその頭が地面に落下した時の音だ。
「うん。アルティメットジャイアントゾンビって名前を聞いたところが
沈む巨体の上からヒョイっと降りて、死体使いの前に立つ。
「……なるほどなるほど。ふむ、これは仕方あるまい。チアーズ。一足先に地獄で待つこととしよう」
観念して両手を広げた死体使いの胸を手刀で貫く。目を見開き、口から血を吐きながら暫し痙攣し、そして絶命。
「キルポイントは、っと。お、7ゲット。もっと持ってるかと思ったけど、素材に使ってるって言ってたからしょうがないか。あ、みんな終わったよー」
「「「…………」」」
暗くて三人の表情は見えにくいが、何やら喜ばしい様子ではない。
「分かってるよ。余計臭いがひどくなったんだよね。すぐシャワーを浴びに行くから」
「……いや、その違くて、えぇ、でもいいわ。そのカイ、お疲れ様」
「うん。お疲れ様。ミッションクリア。これで街のゾンビは消えたかな。随分過ごしやすくなるね」
「……あぁ、そうだな」
サキもルーカスも声に力がない。どうしたというのだろうか。まさか自分たちも人を殺しておきながら今のシーンがショックだったとか?
「ま、いいや。えぇと、近くのシャワーは、と。あ、ねぇ、そう言えば普通の服ってキルポイントいくつ?」
「……ユニークキルポイント1で今と同じ服を一週間に一着まで貰えるわ」
「そ。なら良かった。じゃあ行こうか」
こうして僕は無事新しい服をゲットし、シャワーを浴びてピカピカになったのだ。
「んーーー、童心に帰ったかのようだったね。全力で泥遊びをした気分だ。そして体を綺麗にすると非常に心地の良い倦怠感がやってくる、と」
帰りの車の中で僕は一人ウキウキだった。
「「「…………」」」
三人は一言も喋らない。
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