第14話 非常事態
「うりゃぁ!」
ぶんっと力任せに振るう。目の前にいた数体のゾンビが弾けた。しかし、代償はこちらにもあった。
「あちゃー、膝から先なくなっちゃった……。使い捨て武器だったか」
膝から先が木っ端みじんになり、辺りはゾンビの体液と肉片で控えめに言って地獄だった。
「……帰り、車に乗せてもらえるかな……」
僕の身体にも返り血的なものやらなんやらがひどい。シャワールーム近くにあるかな。あ、キルポがない。キルポ落ちてないかなぁ。
「いや、待てよ。ゾンビってプレイヤーだろ。キルポは殺し切らないとポイントが入らない。つまり……」
ゾンビを破壊しながらスマホをポチポチといじる。キルポイントのページには何と輝かしい──。
「じぃろぉ。うーん。サキの言う通りゾンビには何のうま味もないね」
キルポイントはダメだった。仕方がないのでそのまま湧き出てくるゾンビを文字通り千切っては投げ、千切っては投げ──。
「──ふぅ。終わったかな。うん。シャワー浴びたいし、服交換したい」
辺りを一掃した後、僕の死んだ心に大きな欲求が生まれた瞬間だった。僕はシャワーを浴びるために人を殺したいと思っている。
「あ、みんな終わったよー」
「「「…………」」」
三人は車から降りてこちらに近づいてきたが、遠ざかった。
「ん? ゾンビはもういないよ? どうしてみんなそんな青ざめた顔で後ずさるのさ」
口ではそんなことを言いながら理由は分かっている。僕の身体からはとてもひどい腐臭が漂っていることは自覚できている。
「ま、いいさ。さ、帰ろうか」
僕はニコリと笑い、車を目指す。
「「「止まれ」」」
三人はハンドガンこそ向けなかったが、表情は初めて会った時の何倍も険しい。
「なにさ」
「いい、カイ? シャワーを浴びて、服を新調するまで絶対に車に乗せないわ。そう、絶対ね」
「同意だ。とにかくその汚れを落としてくれ。もちろんアジトもそんな状態じゃ入れてやることはできない」
「新入り、マジくせー」
ゾンビタックルでサトシ君に抱き着いてみようかな。
「はいはい。僕も同意見だよ。じゃあちょっとキルポイント稼いでくるね。この死体を弄ぶ外道なら殺してもいいでしょ。じゃあいってきます」
「え、ちょ。それって死体使いのこと? そんな簡単に──。それに居場所分かるの?」
「……あぁ、分かるね。死に関するスキル同士だからかなぁ。ゾンビたちにうっすらコードというか繋がりが見えたからね。さ、行ってみようか。みんなは車でついてきて」
「拒否する。カイ、それはリスクが大きすぎる。死体使いのアジトが分かったところで、そこは恐らく、というより確実にゾンビがたむろしているだろう。それにゾンビにも強さに違いがある。自分のアジトに置くゾンビは精鋭だろう。つまり、今のゾンビより強いゾンビが今よりも多い数で──」
「おーけー。じゃあ、僕は一人で行ってくる」
ルーカスの言い分は聞くに堪えない。リスク? 僕の心に灯ったシャワーを浴びて服を変えたいという欲求とリスクのどちらを取るか。前者に決まっている。それに多少ゾンビが多かろうが強かろうがリスクに感じることはないだろう。
「カイ。いい加減にして。ゾンビの時もそうだったけど、チームで動くからには個人の意思を優先しないで」
「はっ。だから言ったろ。こいつは協調性ないって」
あれー、サトシ君そんなこと言ってたっけ?
「おーけー。じゃあチームの話し合いをしよう。僕はこのままだと車にも乗れなければ、アジトへも帰れない。つまりゾンビによって汚れたからクビってことかな?」
「そんなわけないでしょ。めんどくさいから拗ねないで」
ッチ。暇つぶしと思ったけど、大分めんどくさくなってきちゃったな。
「じゃあキルポイントがなくても綺麗になる方法はあるのかな?」
「ねーよ」
ふむ。じゃあもういっそサトシ君を殺してシャワー浴びて、服着替えるか?
「サキの考えを教えてくれる?」
「……そうね。ルーカスの言う通り死体使いは一チームで挑むにはリスクが高すぎる。かと言って都合良く
「ん? その殺していい奴の基準って何? 団のルールとしてあるの?」
「……いえ、各々の判断よ。それぞれの価値観の中で決めるの」
「りょーかい」
僕の場合は大抵は殺していい奴になってしまいそうだ。
「キルポ0でフェーズ2に来て、ゾンビ見つけたら特攻していって、全部自業自得なんだし、もうクビにして放っておけばいいんじゃね」
お、サトシ君は確かゾンビ特攻を煽った筈なのにね。でも、いいね。クビになったら死体使いなんて探しにいかなくてもサトシ君で事足りるようになる。
「ハァ……。みんな好き勝手言い過ぎよ。ちょっと待ってボスに相談してみる。──あ、もしもし。サキです。今、大丈夫ですか──。はい、えぇ、実は──。えぇ、えっ……。あ、はい、分かりました」
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