第13話 ゾンビ襲来

「笑いごとじゃないわよ。生前のスキルこそ使えないけど、死体使いの効果かゾンビは普通の人間よりタフだし、素早いし、言葉は通じないし、ひるまないし、とにかくプレイヤーを発見したら全力で襲い掛かってくるんだから、たまったもんじゃないわよ」


「へー。会ってみたいね」


 俄然楽しみだ。手加減せずに済むと思うと訓練相手には丁度いい。


「縁起でもないこと言わないで。じゃあゾンビが出たらカイに任せるわね」


「うん」


「おい」


 ルーカスが車を止めて声を掛けてくる。なんだろうか。


「カイの希望が通ったようだ。ほら出たぞ・・・


 道路の奥。カクカクと不気味に歩いてくるゾンビが一体。


「……逃げましょうか」


「あれ? サキ? さっきと言ってること違うくない? 僕に任せてくれるって話しは?」


 サキは僕に任せてくれると言った筈だ。嘘はよくない。だって僕はもう遊ぶ気満々だから。


「あれは冗談。ここからは真剣。いい、カイ? ゾンビはプレイヤーを見つけると叫ぶ・・の。その叫び声で近くのゾンビがわらわらと集まってくる。近くにいるゾンビが数体なのか数十体なのか予測がつかないから戦闘の目途が立たない。それに倒しても何のメリットもないんだから逃げるが勝ちってわけ」


「でも、スキルや武器を試す相手には丁度いいよ?」


 食い下がってみる。


「サキ、いいじゃねぇか。こいつの実力も知りたいし、やらせてみようぜ。おい、新入り。てめぇがゾンビ呼び寄せて取り囲まれて食われても助けてやれねぇぞ。それでもいいなら行けよ」


「ちょ、サトシッ!」


 サトシ君は僕を煽るために言ったのだろうけど、ナイスだ。


「おーけー。そん時はちゃっちゃと逃げていいよ」


「なっ、カイ。あんたナイフとハンドガンでどうするつもり!? そんなんじゃ一体倒し切る前に食われてゾンビになるわよ!!」


 ドアに伸ばしかけていた手が止まる。


「……あれって噛まれるとゾンビになるタイプ?」


「いや、違う。ゾンビに殺されると、だ」


「なるほど。じゃあ問題なし。いってきまーす」


 安心してガチャリとドアを開ける。


「ちょ、カイ!! あぁーーーもうっ!!」


「ひとまず様子を見よう。マズいと判断したら撤退。その時にカイを回収できるなら回収。無理ならバカが一人いなくなるだけだ」


 ルーカスもルーカスで結構ひどいことを言ってくれる。だが反論はしない。既に僕は走り出していたから。


「やぁ、ゾンビ君。ちょっと遊ぼう」


「ウ、ウヴァァァアアアア!!」


「おー。本当に叫んだ」


 叫び終わった途端、僕に視線を真っすぐに合わせてくる。よーい、ドンで襲い掛かってきた。こっちの世界に来てから初めての戦闘らしい戦闘だ。楽しもう。


「ウヴァァアア!!」


 走りながらがむしゃらに両手を伸ばしてくるゾンビ。


「ふむ」


 避ける僕。ゾンビ君はどうやら僕と熱い抱擁を交わしたいらしい。だが断るよね。


「よいしょ」


 抱擁を躱しながら、頚椎五番と六番の隙間にナイフを突き入れ、くるりんと。ゴトン。ドサリッ。首と胴体は簡単にお別れすることになる、と。うわー。首を切り落としてもジタバタしてるのはホラーだね。


「「「「「ウヴァァアアア!!」」」」


「うわー……。こんな数一体どこに隠れてたんだ?」


 数十体のゾンビが様々な建物からニョキニョキと顔を出し、こちらへ向かってくる。普通にキモイ。


「ウヴァ──ほいっ」


「ウヴァヴァヴァ──ほいっほいっ」


 どいつもこいつもとにかく抱き着いてこようとする。中には着衣の乱れた女性のゾンビもいたけど、流石に無理。僕に格闘技の覚えはないから、全力で殴ったり蹴ったりしてみる。殴れば破裂、蹴れば数十メートル吹っ飛んでいく。


「うーん。美しくない」


 単純に『死司』のスキル効果によって出力が上がったからゴリ押しで勝てる。が、そこに洗練された美しさはない。ナイフを使って解体するのはそこそこ上手くなったんだけどね。


「やっぱり技かな。首切りチョーップ」


 首にトンってやって気絶させるあの技を全力でやってみた。


「恐ろしく力強い手刀。僕がやると一生目を覚ませないね」


 頚椎は粉々になり、皮膚やら筋肉は千切れ、首は宙を舞った。


「にしても、多対一になった時はリーチのある武器が欲しいね。何か、あっ」


 わらわらと囲みながら押し寄せてくるのは少し厄介だ。リーチのある武器が欲しい。と思ったら灯台下暗し。武器は足元に転がってるではないか。


「よいしょ」


 ジタバタジタバタ。首のもげたゾンビの死体(?)の足首を掴む。

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