第11話 理力自慢

「ここだ」


 サトシ君が部屋の扉を開ける。中はさっきの執務室とは違い、実に質素で家具もほとんどない。ベッドが二つとチェストが二つ。真ん中に丸テーブルと椅子が三脚あるだけだ。


「新入り、お前は立ってろ」


「おーけー」


 テーブルを囲んで三人が座った。僕は立ったままで、サトシ君を見下ろす。


「……」


 ニコニコ。


「チッ!!」


 サトシ君は舌打ちの後、テーブルをドンと叩いた。物に当たる人間ってホントみっともないよね。


「膝立ちにしろ」


「ハァ……。はいはい」


 命令してくるサトシ君の頭を掴んでテーブルを真っ二つに割っても良かったが、サキから言われた協調性とやらを少し持つべきかなと考え、言われた通り膝立ちしてテーブルに上半身を預ける。


「はい、サトシ気が済んだ? じゃあブリーフィング始めるわよ。まずこの団に入って、同じ班になったからには一蓮托生。スキルを共有したいけど、カイもいい? ふざけないでちゃんと教えてよ?」


「了解。いいよ」


 スキルを知られたところで何も問題はない。


「じゃあまず、私から教えるわね。私のスキルは『風』ね。風を操るスキルだから事象干渉型ね」


「事象干渉型?」


「そ。スキルは自分自身の理に関する自己干渉型、身体能力向上とかそういうのね。私みたいに風とか火とか現象に干渉するのが事象干渉型。あとは付与干渉型、これは剣とか銃とかの装備品が強くなったりするやつね。最後に概念干渉型。概念干渉は理力がかなり必要みたいだから初期で持っている人は少ないんじゃないかって話しね」


 なるほど。まとめるとこうか。


 自己干渉型──身体強化等。

 事象干渉型──火や風などの操作。

 付与干渉型──自分以外のモノの操作や強化。

 概念干渉型──概念そのものに干渉。


 僕の『不死』は自己干渉型だったのかな。それが死という概念に干渉できるように進化したって感じかな。


「ふーん。それは誰が言ってたの? 公式?」


「読んでないの? アプリに書いてあるでしょ」


 サキはチュートリアルアプリを開き、スキル項目のTIPSを表示して見せてくれる。


「あ、ほんとだ」


「もう、ただでさえ情報が少ないんだからこのスマホに入ってる情報は全て完璧に網羅して。で、カイのスキルは何? お腹が空かなくて、汚れないってスキルなら自己干渉型だと思うけど、それスキル名なによ」


「あー、僕のは『不死』だよ。死ななくなるスキル」


「え。全然違うじゃない。それに『不死』ってめちゃめちゃ強……くもないか。スキルでの攻撃力はゼロだし、理力低かったら普通にスキルで……その……」


「ハハハ。そうだね。でも僕は嘘もついていないよ。『不死』って名前がついてるけど、僕は死人のようだからね。歩く死体って感じかな。代謝が機能していないっぽいからお腹も空かないし、汚れにくいね」


「え……、それは、その、なんていうか」


 サキは少し同情したようだ。


「ま、便利だから僕は気にしてないよ」


「……そう。でもどうやって戦ってくつもり? まさか銃弾を浴びながら突進してくわけじゃあるまいし」


「? なんで?」


 まさしくサキの言う通りなのだが? 死なないから特攻し続ける。シンプルで最強な作戦だ。


「は? いや、だっていくら死なないって言っても痛いし、怖いでしょ? それに理力次第じゃ普通にやられちゃうでしょ?」


 サトシ君とルーカスも概ね同意見のようで、僕の回答待ちのようだ。


「あー……」


 どう説明したものかと考えたが止めた。論より証拠だろうというわけで、窓辺へと移動し、窓を開け放つ。


「「「???」」」


 三人は何を始めるつもりなのかと不思議そうだ。


「いや、汚しちゃいけないからね。というか、そんな汚れないけどさ。はい」


「「「!?」」」


 僕は銃を取り出し、銃口をコメカミに当てる。三人が何か言い出すより先にトリガーを引いた。乾いた発砲音。頭がはじけて脳漿や血液をぶちまける──ことはない。カランと薬莢が落ちただけ。もちろんこんなんじゃ死にカウントされることもない。


「キミたちの理力って何桁?・・・ 二桁かな? 三桁かな? 僕は四桁を越えてる。この程度の銃で撃たれたくらいじゃ痛みも感じないし、死ぬこともない。恐怖心なんてものもなくなっちゃったね」


 今の理力は正確には八桁なんだけど、バケモノ扱いされちゃったら折角の組織ゴッコに混ぜてもらえなくなる可能性があるからね。


「「「…………」」」

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