第8話 余計なこと

「じゃあボスのところに連れて行くわね。私の名前はサキ。あなたの名前は?」


「カイだよ。よろしくサキ」


「ルーカスだ」


「……」


「おーい、サトシ君。もう仲間じゃないか、協調性を大事にしないと追い出されちゃうぞ?」


「……まだ仲間じゃねぇ。ボスが了承するわけがない」


「あー、もう。すぐそこ喧嘩しない。アジトまで車で行くけど、両手は縛らせてもらうわよ」


「どうぞ?」


 サキの言うことに大人しく従い、両手を縛られる。そのまま暫く歩き、車に乗り込む。運転席にはルーカス。助手席にサトシ君。後部座席に僕とサキが並んで座る。


「あなたってずっと笑ってるわね。何がそんなにおかしいわけ?」


「え? 僕笑ってた? あー、そうだね。多分、久しぶりに人間と・・・会話したからかなぁ」


「ふーん。あなたはこの二ヶ月どうやって過ごしてたの?」


「引きこもってたよ。ほとんどを部屋か通路で過ごしていたね」


「部屋は分かるけど通路? あんなところで何をしてたの?」


「プレイヤーの一人と遭遇してね、一緒に通路で訓練をしてたんだ」


「へー。まぁ外は他のプレイヤーもいるし、通路で訓練ってのは賢いかもね。その人はどうしたの?」


「昨日、別れてきたよ」


「え、昨日? じゃあ久しぶりって言うほど?」


「まぁ、彼は無口……ではないけど、あんまり会話が得意じゃなかったからさ」


「そっか。その人も生き残れるといいね……」


「そうだねー」


 生き残るということは、彼が灼熱地獄で焼き続けられるということだから僕としてもそちらの方が望ましい。


「ちなみにそのプレイヤーは何て名前だったの?」


「え?」


 名前……。名前……。えーと……。


「メタオさん、かな?」


「何それ。ふざけた名前ね。まぁ慎重なプレイヤーなら名前は隠す、か」


「かもねー」


 結局僕はあんなに濃密な時間を過ごした彼の名前すら知らなかった。というよりほとんど何も知らない。知れたのは苦痛を感じるポイントと内臓の位置くらいだ。


「まーた、笑ってる。何が楽しいのよ」


「さぁね。想像に任せるよ」


「……なんかヤラシイ」


「ハハ」


「……おい、サキ。そいつのことはボスが白黒つけるまで気を許すなよ」


「……」


 サトシ君のこの言葉にサキの表情が固まり、何やら厳しい目になっていく。


「ハァ……。ねぇサトシ。別に私はカイとイチャイチャしたくて雑談しているんじゃないの。この世界で生き残るには情報が何よりも大事だってボスも言ってたでしょ。それをアンタみたいにイライライライラしっぱなしの人間が聞き出せるの? じゃあ私は黙るからカイから何でもいいから情報を引き出してみなさいよ。さぁ、ほら、早く」


 サキブチギレである。当然、僕は“楽しい”しかないので、行く末を見守る。


「……ッチ」


 …………。


「え、終わり?」


 まさかのサトシ君が舌打ちで終わらせようとしてきたことについて、僕は不満をあらわにした。サキの言う通り、やり方にケチをつけたなら別の方法を示すべきだ。これじゃあサトシ君は文句だけいっちょ前に言う口だけ番長になってしまう。


「えぇ。サトシは柔軟性とか応用が利くタイプじゃないから。そのくせ、文句だけはいっちょ前なのよ」


「……うるせー。人間には得手不得手があんだよ。俺は武闘派だ。情報の引き出し方はそっちの方が手っ取り早いし確実だ」


「うっわー、脳筋かよ」


 つい、口に出てしまう。武闘派だの汚れ仕事だの言ってて、これで弱かったら本当に救いようがないぞ?


「っと、余計なことは言わないだったね、ごめんよ。サキ、ちなみにサトシ君は強いのかな?」


「カイ? それが余計なことよ。でもそうね、確かにサトシは言うだけあって強いわよ。カイはあんまり強そうには見えないわね」


 サトシ君はもう口を挟むつもりはないみたいで、バックミラー越しに顔を見ると俯いて目を閉じて寝たふりをしている。


「んー。どうかな。意外に武道の達人かもよ? ほわちゃーってね」


「何それ。フフ、でもサトシより面白いことは確かね」


「……チッ」


「さぁ着いたぞ」


 そんなバカなことを言い合っている内にアジトとやらに着いたようだ。ガラガラと大きな鉄柵が引かれ、車が入っていく。

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