第6話 外出
「うぅ、うぅ……」
男は泣きながら扉をガリガリと引っ掻いている。
「なぁ、僕が何度も許してって言った時、お前は何をした?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「僕が何度も謝った時、お前は何て言った?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「安心しろ。僕も一万回お前を殺したらここに放置してやる。その時は不死の特性を付与してやるから灼熱地獄を永遠に生き続けろ」
「あ、あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁああああ!!」
それから一ヶ月が経った。このセーフティールームも最後の夜となる。この世界で目が覚めてからおよそ二ヶ月の大半を廊下で過ごし、殺され続け、殺し続けるという異常な時間を過ごしたわけだ。キルポイントはいまだに0。どうやら殺し切らなければポイントはもらえないみたいだ。
「理力は1582万ねぇ。これ絶対ぶっ壊れだよなぁ」
いつからかは忘れたが空腹感もなくなったし、喉も渇かなくなった。理の外に飛び出してしまったようだ。
「さて、と」
スマホをポチポチといじる。開いたのはルインだ。トーク欄には変わらず公式のみ。そこをタップし──。
「首を洗って待ってろ……、と」
このふざけたゲームを始めた首謀者たちを殺すことにした。僕にとって死ぬやら殺すはもはや呼吸のような感覚だ。
ピロン。
「……ふーん」
今まで散々あれやこれや公式に送ってきたがことごとく無視されてきたため、今回も返事がないと思いきや、初めての返信があった。
『心よりお待ちしております』
「……っと」
メッセージを見てついニヤけてしまった。表情を戻して、プレイヤー数を確認する。
「8万人も残っているのか。案外生き残ってるんだな」
明日からは直径が21㎞から7㎞へと減少する。セーフティールームに籠っていたプレイヤーも新たな拠点を探さなければならないだろう。
「目には目を、歯には歯を、死には死を、でいこう」
こうして、僕はセーフティールームで僅かな睡眠を取り、次の日の朝、移動を始めた。最後まで騒がしい声が後ろから聞こえたが無視だ。
「んーー。お腹は空かないのは便利だけど、食欲がないのは考えものだな」
自販機でサンドイッチを取り出してみるが、美味しいと感じない。お腹いっぱいの時に無理やり食べている感覚に近い。
「さて、どうしよっかな。もういっそ最終エリアを先に陣取っておくか。いや、でもあと二ヶ月暇になっちゃうしなぁ。とりあえず散歩でもしてみようか」
第二フェイズの安全地帯までのんびり歩いていく。そろそろ他のプレイヤーに会ってもいい頃だが──。
「動くなっ!!」
「お、同じスニーカー。プレイヤーかな? こんにちはー」
歩いていたら三人組に遭遇した。年齢は大体僕と同じくらいに見える。黒髪ボブの少女、茶髪坊主の青年、そして金髪の白人青年。
「敵意があると見なしたら即撃つ」
三人組は扇形に広がり、真ん中の茶髪坊主君が心臓に照準を向けたまま警告してくる。他の二人も同様にこちらにハンドガンを向けてきている。
「ないない。敵意なんてないよ。何か用?」
僕に敵意などない。もっと言ってしまえばこの三人から脅威を一ミリも感じないので『敵』と認識することができない。
「質問に答えるんだ」
金髪君が流暢な日本語を使う。
「日本語上手だね」
「この世界では全ての言語がその者の思考言語に変換される」
「へー。何でもありだな」
じゃあ僕の言葉は彼の中では英語かフランス語か何語かに訳されているわけだろう。すごく便利だ。
「あなたはソロ? それともどこかに所属している?」
今度は右にいた黒髪ボブ少女だ。
「完全ソロだね。キミたちはチームみたいだけど、それはこっちに来てからのチーム?」
「質問は俺らからだけだ。余計なことは聞くんじゃねぇ」
茶髪坊主君はどうやら気が短いみたいだ。
「……んー。ちょっとムカつくなぁ。こっちは下手に出てやってるんだ。お前らは僕を制圧しているつもりかも知れないが勘違い甚だしいよ。僕は散歩してたらたまたま人に会ったから気まぐれでお喋りをしているだけだ。銃を向けられようが、向けられまいが別に関係ない。首を引きちぎって放り投げて首から下だけで頭を取りに行かせるぞ」
「「「……」」」
三人は何やら目配せをしている。黒髪ちゃんなんかは完全に引いちゃってる感じだ。
「冗談でしたー。質問続けてどうぞ」
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