第5話 覚醒

「嫌だっ!!」


 手足を縛られたまま必死にもがいて外を目指す。


「俺のスマホをかざさなきゃ扉は開かないぞ~。芋虫くん。あんまり動くと一発で殺せないかも知れないから大人しくしていた方がいいと思うけどな。ほい」


「ぐはっ。痛っ……痛い」


 発砲音の後、右肩に灼熱の激痛が走る。撃たれた撃たれた撃たれた。


「二発目行くぞー? カシャっとリロードして、狙いを定めて、パンッ」


「いぎゃぁぁ」


 今度は左の太ももだ。


「あー、わりぃ、わりぃ。お前が大人しく殺されてくれないもんだからさ」


「お願いしますお願いしますお願いします。許して下さい許して下さい許して下さい」


「はいはい。一万回も殺さなきゃいけないからあんま時間掛けたくないし、サクっと行きますか。ほい、グサー」


 ナイフを背中に突き立てられた。何度も刺されている内に痛みも意識も消えていった。


「おはよう」


「……ひぐっ、ひぐっ」


「おいおい、男がそんなみっともなく泣くなよ。な?」


「許してぇ」


「許す許す。ほい、三回目」



「死ね殺す死なせて殺さないで死ね殺す死なせて殺さないで死ね殺す死なせて殺さないで」


「おはよう芋虫くん。この生活も一ヶ月か、随分長くかかったな。あーあ、真っ黒だった髪も真っ白になっちまって。目は血走って常に真っ赤だし。って、壊れちゃってるからもうまともに会話もできないか。次で記念すべき一万回目だ。おめでとう」


「死ね殺す死なせて殺さないで死ね殺す死なせて殺さないで死ね殺す死なせて殺さないで」


「おーけー。俺は殺されないから死なないし、お前は殺されるが死ねないんだよ。ほら一万回目っ!!」


 ピロン。


「来た来た!! どんなスキルに覚醒──」


『一万デス達成おめでとうカイ君。キミのスキルは今、覚醒した。『不死』から死を司ると書いて『死司』へ。このスキルは文字通り死という概念を司る。副次的な効果として、君自身を含めた君が関わる死の回数によって身体能力をはじめとした様々な能力が向上するよ。おめでとう。キミを殺し続けたこの男を殺し返せるチャンスだよ』


「……カイ? は? おい、どういうこと──」


 ブチッ。


「なっ!? おい、芋虫てめぇ何勝手に縄を──。死ね死ね死ね」


 発砲音が三発。全弾僕に当たったようだ。だが、即時復元して傷もなければ痛みもない。


「チッ、バケモノが死ねっ!!」


 男はナイフを振りかざし、首を狙ってくる。まるでスローモーションだ。


「なっ。避けるなっ」


 わめく男の腹を蹴ってみる。


「ガハッ、カヒュ、カヒュ―」


「あぁーー、この世界に来るまでの記憶は断片的だけど断言できる。僕は今、生涯でもっとも高揚している。芋虫だっけ? 腹を抱えて丸まるお前はダンゴムシだな。まず一回目」


 うずくまる男の首を持ち上げ、砕く。男はあっけなく絶命し、体が弛緩する。


「『死からの復元リターン』」


「ガハッ、ゴホッ、ハァハァハァ……」


「立場が逆転したな。なぁ? メタルスライム君。何か言うことはあるか?」


「……だっせぇ白髪頭。うぎゃぁあああ」


 減らず口を叩く元気はあるようだ。やかましいので下あごを引きちぎって捨てる。


「はふっ、はひっ」


「人間ってのは下顎がなくなったくらいじゃ死なないんだよな。一万回も死ぬとどのくらいで自分が死ぬか分かってくる。お前も一万回も殺したら何をしたら死んで、何をしたら死なないか分かってきただろ? ここからは復習の時間だ・・・・・・・。さて、一万回どんな殺し方をしたか思い出せるかな?」


 男の首にナイフを突き刺しながら僕はニタリと笑う。


「場所を変えようか」


 僕は動かなくなった男を抱えて自分の部屋へと戻る。




 それから自分の部屋の前の廊下で男と数日を過ごした。


「おはよう」


「……許して。ごめんなさい。許して下さい」


 男は頭を床にこすりつけて土下座をしている。手足は縛っていない。縛る必要もない。ここからは僕のスマホを奪わなければ逃げられないのだから。


「おいおい、まだ千回だぞ? あと九千回は殺すから覚悟しろよ?」


「無理でず。もう無理でず。うぐっ、ひぐっ」


「男がそんなみっともなく泣くなよ、な?」


「うぅ、うぅ、ごめんなさい、ごめんなさい」


「最後まで虚勢を張ってくれた方が僕としては良かったんだけどな。じゃあチャンスをやろう。お前が僕に致命傷を与えられたら見逃してやる。銃でもナイフでも好きに使え」


「……えふ、えふ、うわぁああああ!!」


「おーい。そっちは逆方向だろ」


 ハンドガンで両足を撃ち抜く。


「うあっ、ぐあっ、ひぃぃ、ひぃぃ」


 男はなおも匍匐前進を続け、外を目指そうとする。


「僕のスマホがないとその扉は開かないよ? どうするつもり?」

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