第4話 レベル上げ開始
「あ、あの──。ヒッ。と、止まって下さいっ」
気付いてしまった。服装は違えど、靴がまったく同じ新品のスニーカーであることに。
「と、とま、とま」
男は僕の声を無視して、笑顔のまま近付いてくる。
「う、うわぁあああ!!」
僕は背を向けて走り出していた。分からない。本当にデスゲームなわけがない。初めて会った人間に殺されるわけがない。そう理性では思っていながらも体は反射的に逃げ出していた。
「部屋だ。部屋だ。部屋に戻らなきゃ」
チラリと振り返る。男は笑顔で追いかけてきていた。
「ハッ、ハッ、ハッ」
息が切れる。頭と脇腹が痛い。外扉までは百メートル。後ろの男との距離はその半分ほど。とにかく扉を開けて逃げ込んで閉める。それしか頭になかった。
「あっ」
視界が揺れる。足がもつれて転んでしまった。致命的だ。振り返ると男は十メートルほどまで近づいてきていた。
「う、動くなっ。撃つぞ」
慌ててホルスターからハンドガンを抜く。震えながらその銃口を男へと向けた。
「撃ってみろよ」
思ったより低い声だ。男は全然怖がる様子もなくそのまま近付いてくる。
「ほ、本当に撃つぞ!」
「どうぞ」
男は笑顔を崩さない。九メートル、、八メートル、七──。歯を食いしばり、トリガーを引く。発砲音と同時に反動で手が持ち上がる。
「目をつぶってたら何発打ったって当たらないぞ?」
「ヒッ」
耳元で男の声がした。慌てて銃を構えようとするが──。
「はい、残念」
「ごふぁ」
何だ、何が起きた。首が熱い。そこから温かいものが……、あれ、目の前が暗く──。
「さて、本当かな」
それが僕が聞いた最後の言葉だった。
「おはよう」
「ヒッ! くっ!!」
目が覚めた時、僕は見慣れた廊下に横たわっていた。セーフティールームと分厚い外扉の間の廊下だ。両手両足は縛られ、目の前には僕をナイフで刺した男。
「すごいな、『不死』」
「え、なんで僕の──」
「ん? あぁルインで来たんだ。ほら」
男はスマホを僕の顔の前に持ってくる。そこには──。
『ラッキーチャンス! 運営はキミのことを少しばかり贔屓している。マッピングしたプレイヤーは『不死』のスキル持ちだ。彼を一万回殺せば新しいスキルが覚醒する。キミにできるかな?』
「……は? 待って待って待って待って」
贔屓? マッピング? こんなのズルじゃないか。
「そうだよな。焦るよな。理不尽に怒りが沸いてくるよな。だが申し訳ないが、俺は自分が生き残って強くなって、この世界を楽しむために今からお前を
悪いな? こいつまさかその一言だけで僕のことを一万回も?
「待って! そんな怪しげなルインのメッセージだけで人を殺していい筈がない! それにこれはゲームでも漫画でもなく現実なんだから、人殺しで捕まるぞ! 冷静に──」
「シーッ。冷静じゃないのはどっちだろうな? 自分の身体に起こったこと忘れたか?」
男はトントンと自分の首を指さした。
「あ……」
そうだ。僕は確かに刺された。首をナイフで突き刺されれば死ぬ。僕は生きていた。首に痛みもない。
「そう。お前は死から戻ってきた。傷口は再生され、こうして御託を並べることができている。これがこの世界が俺たちのいた世界ではないことの証明じゃないか?」
「…………お、お願いします。許して下さい」
「おいおい。別に許すとか許さないじゃないさ。俺はお前のことをなーんも知らないし、恨みもなければ憎しみもない。ただ、そうだな……逃げずに連戦できるメタルスライムくらいに思ってるかな」
「メタ……」
涙が出てきた。この男は僕を人間だと思っていない。狂っている。
「さて、じゃあレベル上げ開始だ。安心しろ一万回殺したら縛ったままエリア外ギリギリに捨ててやる。運が良ければ助かるかもだし、運が悪ければエリア外の灼熱地獄で死ねる。あ、死ねないから永遠に焼き続けられるのか。ハハ、ちょっとだけ同情するわ。というわけで一回目はさっき終わったから二回目~」
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