第3話 遭遇
「…………喉が渇いた」
一晩経っても何も起こらない。誰も来ない。物音すらしない。窓がないため朝か昼か夜かも分からない。スマホは充電してないのにバッテリーが切れる気配はない。だが、これはスマホの時計だけが頼りなので助かる。
朝七時──空腹と喉の渇きにイライラする。スマホでマップを開いた。すぐ近くに食料配給の自販機があるようだ。
「…………」
ホルスターを腰に巻き、ナイフをベルトに通す。
「銃刀法違反で捕まってもここで監禁されて死ぬよりはマシだろう」
ドアノブをガチャリと下げ、部屋を出る。その先には白く長い通路が続いていた。
「ん?」
ドアのすぐそば、足元には新品のスニーカーが置かれていた。履いてみるとピッタリだ。
「ご丁寧な誘拐犯さんだこって」
そのままカツカツと歩いていくと分厚そうな扉とそれをロックしているであろう端末。
『スマホをかざして下さい』
「……」
端末にスマホをかざす。ピッと言う音とともに緑色のランプが光り、分厚い扉がプシューと空気を吐きだしながらゆっくりと開いていく。
「まぶしっ」
日光だ。出れてしまった。簡単に外に。
「…………」
大声を出して助けを求めたい気持ちをグッとこらえ辺りを見渡す。人の気配がしない。
「あ」
目の前に自販機があった。反射的に駆け寄り、無料配布一日分というボタンを押し、スマホをかざす。
ガタンと落ちてきたのは水1リットルとサンドイッチ二つとカロリーメイト一箱。
「もう一回」
これじゃ足りないので、もう一度購入しようとするがエラー音が鳴る。自販機の液晶には利用開始可能まで残り16時間47分と出ている。計算すると0時を境に利用が可能になるということだ。
「くそっ! ほかのボタンは!?」
どうやって出てくるかは分からないが、蕎麦やカレー、アジフライ定食にステーキのボタンまで並んでいる。
『自販機アップグレードパスを購入して下さい。必要キルポイントは3です』
「……クソっ」
自分が美味いものを食べるためだけに三人殺せ? バカを言うな。
「はぁ……」
食料調達はこれで諦め、辺りを見渡す。街だ。道路もある。ビルもある。家もある。でも人の気配がしない。それどころか鳥の一羽もいない。あまりの静けさに自分の心臓の音が大きく聞こえる。
「だ、誰かいますかー?」
小さく声を出してみる。返事はない。
「…………」
無性に不安が募ってきた。食料を抱えたまま数歩後ずさりし、気付いたら早足で最初の部屋へと戻っていた。ベッドに腰かけ、深く息を吐きだし──。
「ふぅー。まさか拉致された部屋にノコノコ帰ってくるバカがいるとはね。うん、僕」
自己嫌悪に襲われる。しかし外での恐怖心はすごかった。何があんなに怖かったのだろう。
「ま、とにかく今は……」
目の前のサンドイッチに意識が持っていかれる。あっという間に二つ食べてしまった。水も半分ほど一気に飲んでしまう。
「ぷはっ。美味しい……」
残りは取っておかないとまた夜中が地獄になる。
「……は? 何を僕はバカなことを。折角外に出られるのにこの部屋で今夜も過ごす? 頭悪すぎるでしょ」
外に出て逃げるなら、むしろ体力をつけるためにも残りの水とカロリーメイトも──。
ゴクリ、喉が鳴る。
「い、いや、ダメだ。万が一、万が一この部屋の方が安全ってことだったらこの食料は命綱だ。助けてもらえるならその時点で食料とかはどうにかなるはずだし」
僕は万が一の可能性を捨てきれず、伸ばしかけた手をひっこめ、深呼吸をする。
「……ふぅ、行くか」
空腹感は消えないが、幾分はマシだ。心を落ち着かせるためにしばらく時間を使ってから僕は本日二度目の外出をする。そして僕の予感は悪い方に当たることになった。
「……交番、警察署はない」
家のインターホンを片っ端から押しても返事はない。建物は風化していないが、まるで人が消え去った廃村だ。
「どこだよ、ここ。こんな普通の街並みなのに誰もいないなんておかしすぎるだろ」
泣きそうになってきた。電柱や家の塀にも住所は載っていない。まるで全てが作り物のようだ。
「だ、誰かいませんかー!?」
イチかバチか大声を出してみる。シンとした街並みに声が木霊する。
「…………!?」
後ろの方から足音がした。慌てて振り返る。僕より少し年上の男の人のようだ。カジュアルな服装で真面目そうだ。両手は空いている。ニコリと笑いながらカツカツと歩いてきた。
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