第2話 スキル

 ハンドガンを手にしてみる。ズシリと重い。ナイフも慎重に鞘から取り出してみる。銀色に輝く刀身は本当に切れるかどうか確認するまでもなさそうだ。


『使い方はチュートリアルにあるから、あとでタップしてみてね? さぁそして、ここからが新世界の特典! なんと、皆さんにはスキルが付与されます! やったね! さぁ、能力値アプリを開いてみよう! 何が出るかな、何が出るかな』


「スキル?」


 いよいよもってアニメかゲームのような話しになってきた。でもほんの少し、ほんの少しだけ興味が出てしまった。言われるがままにアプリをタップするとそこには──。


 スキル『不死』、理力3000。


「不死……?」


 一行だけの簡素なものだった。説明はないものかと、タップしてみたが、『不死──死なない。復元する』とそれだけだ。


「すっごく雑」


『スキルはどうだったかな? さて、もう一つ理力というものがある。これはどういうことか説明しよう。例えばどんなものでも貫くというスキルと、どんなものも防ぐというスキルがあったとする。これは矛盾が生じてしまう。そんな時にどちらの理が優先されるかの目安の数値だと思ってくれ。高ければ高いほど、そのスキルは強力というわけだ。ちなみに初期理力の平均は10だ。下回った者は研鑽を積み、上回った者も慢心せずに。理力は様々な方法で上昇するので、各プレイヤーはトライアンドエラーで自分のスキルを鍛えていこう!』


「10……。え、3000って僕もしかしてめちゃくちゃ高い?」


 動画の言葉は何一つ信用できないが、もし本当なら僕の理力はすごく高い可能性がある。


「不死って普通にチートスキルだし、理力が上回っていれば無限残機プレイだもんね。でも、確かめにくい能力だなぁ。いやいや、何を僕は考えてるんだ」


 間違っても自殺なんてできないし、不死であることを前提に戦うつもりもない。というより、こんなアプリのテキストを鵜呑みにするなんてバカすぎる。


『では、諸君らの健闘を祈る。プレイヤー数はリアルタイムで見れるようになっているから逐次確認してくれ。外出はもちろん自由だよ。マップに必要施設は載っている』


 とりあえずプレイヤー数を見てみた。99795。10万人スタートなのにすでに200人以上減っている。つまり何らかの方法で──。


「いやだから、鵜呑みにするのは良くない。10万人も拉致してこんなバカげたゲームなんてできる筈がない。攫われたのは恐らく僕一人かいても数人だろうな」


 思考回路がバトロワデスゲーム脳になりかけていたので、慌てて頭を振る。こんなんで本当に殺し合うなんて愚の骨頂だ。だけど、もし──。


「もし、他に攫われた人がこれを鵜呑みにして、襲い掛かってきたら……」


 あり得ないと思いながらも背筋が凍る。窓のない部屋。天井を見ても監視カメラなどはなさそうだ。扉に鍵が掛かっているのか確認したいが、恐ろしくてドアノブに触れられない。


「ふぅー。一旦落ち着こう。そうだ、電話っ!!」


 自分の握っていたスマホを見て閃く。しかし、自分の家族や友人の電話番号など思い出せるわけもなく、というか顔すら思い出せない。唯一覚えていたこの番号へとコールしてみる。


「1、1、 0と」


『ごめんねー。電話機能は使えないんだー。ルインで友達になった人とは通話できるからそっちでお願いねー』


 先ほどの動画から流れてきた声でそんなメッセージが返ってきて通話は切れた。


「……はぁ」


 深いため息をつく。ダメ元でルインを開いてみる。友達登録はゼロだ。会話ログも蟲毒の勇者公式アカウントとかいうふざけたアカウントからのメッセージだけだ。


「蟲毒……」


 いろんな毒虫を同じ壺に入れて殺し合わせて最後に残った一匹が最も強い毒を持った虫になるって話しだったと思う。


「こんなことの記憶だけはあるんだな……」


 それからしばらくどうしたものかとスマホをいじるが収穫はゼロ、部屋の中は探索するまでもない。残るは二つの扉だ。その内の一つはトイレだった。シャワーやお風呂はなかった。


「シャワールームパス、キルポイント1消費。温泉パス、キルポイント3消費」


 マップを開いたら利用可能施設と解放条件が書かれており、その中に風呂はあった。解放条件はキルポイントが多いか少ないかの違いでしかない。つまり、殺せば殺すほど快適に過ごせますよって。


「はは、シャワー浴びたきゃ人を殺せってこと? ふざけすぎ」


 スマホをベッドへと放り投げ、自分も横になる。


「どうしよう……」


 スマホも限られたアプリしか開くことはできず、ネットを使うこともできない。視線をぐるぐる彷徨わせ、外界へと繋がってるかも知れない扉をチラリと見る。


「お腹も空いてきちゃったなぁ」


 グーとお腹も返事をしてくる。


「……助けを呼びに行ってみようかな。いや、でも拉致しといて、助けを求められる状況で放置するなんてあり得ないよね。普通に考えて」


 そんな状況で放置するとか意味不明すぎる。そんなことをするなら犯人はサイコパスだ。


「まぁ、こんな手の込んだ動画やアプリを作って人を攫うんだからどっちにしろサイコパスか」


 チラリとスマホを覗く。プレイヤー数はさらに数十人減った気がする。


「……念のためにハンドガンの使い方を勉強しておこうかな」


 念のため念のため。


 こうして僕はハンドガンの使い方をアプリで勉強し、一日目を終える。

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