蟲毒の頂をめぐるもの

世界るい

第1話 蟲毒の勇者

「……うぇ。あったま痛ぃ」


 ひどい頭痛、最悪の寝覚めだ。暫く目を瞑り、痛みが消え去ってくれることを願い続ける。


「……二日酔いかな」


 こめかみを両手でグリグリ押さえながらようやく冗談が言えるくらいには回復してきた。ちなみに僕はお酒を飲める年齢でもないし、お酒を飲んだこともない。……多分。


「多分? あれ、なんか記憶が……」


 目を瞬かせ、天井を見つめる。見覚えがない気はするが、それが定かでもない。


「……思い出せない」


 寝る前のことどころか、今までの過去の記憶のほとんどが思い出せず、頭の中をすり抜けてしまう感覚だ。自分の名前すら──。


『ピロン』


「ん?」


 枕元で音が鳴った。白木のサイドテーブルの上に黒いスマホが置かれていた。自分のものなのだろうか。ついでに部屋をぐるりと一瞥する。白を基調とした六畳ほどの簡素な部屋だ。家具は今寝ているベッドとサイドテーブルだけ。時計すら掛かっておらず、天井にはダウンライトが数灯。扉は二つ。


「生活感がまったくないなぁ。自分の部屋じゃない気がする」


 スマホを開く。通知はメッセージアプリのルインだった。記憶はないのに、スマホの使い方は自然と分かった。メッセージを開く。


『おはよう、カイ君。記憶が混濁しており、混乱しているところだろうがチュートリアルアプリを開いてルールを確認してみてくれ』


「カイ、ね」


 どうやら僕の名前はカイらしい。自分の名前の漢字すら思い出せない。一体、何が起きているのか。ひとまず言われた通りにアプリを開いてみる。


『ようこそ新世界へ、蟲毒の勇者候補生諸君。これは神々によるゲームだ。プレイヤーはこの世界で生き残り、最強の勇者を目指そう!』


「……は?」


 ふざけた動画が流れてきた。神? 生き残る? 勇者? 訳が分からない。動画を一時停止し、少し考える。


「いや、ないな」


 神だの勇者だのは非現実的・・・・だと記憶がない中でも答えは出た。恐らくは拉致され、薬か何かで記憶をぶっ飛ばされたのだろう。そう考えると恐怖と怒りが沸いてくる。ひとまず動画からなんらかの情報を得るしかないため、続きを再生する。


『では、ルールを説明しよう。聞き逃してもちゃんとテキストで確認できるから安心してくれ』


 それから動画ではいくつかのルールが紹介された。


① プレイヤーは円形のフィールドに10万人いる。円は時間経過によって縮小、最終フェーズであるフェーズ6終了時点で生き残っていた者、もしくは生存者が一名になった時点でクリア。円の外に残っている者は燃え、灼熱の苦痛の後、死が待っている。

フェーズ1、直径21.6㎞ 64日

フェーズ2、直径7.2㎞ 32日

フェーズ3、直径2.4㎞ 16日

フェーズ4、直径810m 8日

フェーズ5、直径270m 4日

フェーズ6、直径90m 2日

② セーフティエリアは今いる部屋のみ。部屋は最外周エリアにあるためフェーズ1時点のみ使用可能。

③ キルポイントシステム。プレイヤーはプレイヤーを殺害するとキルポイントをゲットできる。食糧品から武器、移動手段、生活必需施設等、キルポイントにて獲得可能。尚、フェーズ1時点でのみ、水、食料は無料入手可能。フェーズ2からは1キルポイントにて水、食料のパスが入手が可能。

④ キルポイントは譲渡不可。殺害した相手がキルポイントを持っていた場合は、その半分が殺害したプレイヤーのポイントとなる。

⑤ 最終クリア者の報酬は、どんな要望も神の御業をもって一つ叶えましょう。


「…………」


 言葉が出ない。質の悪すぎる冗談だ。この通りだとしたらバトロワ系サバイバルデスゲームと言ったところか。 


『ルール説明を聞いてくれてありがとう。ミッションクリア。部屋の中央を見ていてくれ』


 スマホからの音声に反射的に従ってしまい、部屋の中央へ視線が向く。


「うおっ」


 何もない空間からピクニックバスケットサイズの宝箱が現れた。


『タネも仕掛けもない少々俗っぽい言い方だと魔法だよ。開けてみてごらん。プレイヤー共通の初期装備だ』


「…………どうなってるんだ?」


 どうやって宝箱が現れたか宝箱の周りを調べてみたがおかしなところはなかった。恐る恐る宝箱を触り、叩き、そっと持ち上げてみる。結構重い。耳を当ててみる。カチカチ音はしない。意を決し開けてみると、キィという蝶番の音とともに簡単に開いた。中には革の鞘に包まれた大型のナイフと、ハンドガンとホルスターにマガジンが2つだ。


『ハンドガンの弾は自動生成だから安心して使い続けてくれ。但し、弾の生成速度は1時間に一つ。マガジンの弾倉量は12。ご利用は計画的に、ね』


「これ、本物?」

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