第3話 旅立ちの日
「仰げば尊し、 我が師の恩~」
ついにやってきた、卒業式の日。
それぞれが思いを持って、学校を立つ日。
そして、俺が地元を離れる日。
蒔絵さんと一緒に歩いた校内の道は、散り始めた桜が沢山待っていて、俺の旅立ちを祝福しているようだった。
「おい、ちょっと待てよ、玄春!」
後ろから声が聞こえてくる。
三年間仲が良かった、松本。同じ部活だった後輩や、学校の先生も後ろに立っている。
「お前、伊邪那美行くんだって?」
「あぁ、そうだよ。これから、新幹線であっちに行くんだ。」
「そっかぁ、寂しくなるなぁ。あっちでも、頑張って来いよ!」
「卒業、おめでとうございます!」
「あっちでも、体に気を付けてね。」
「うん、あっちでも頑張るよ!」
短い会話を交わし、俺達は離れていく。
「いい友達をもったわね。学校生活、楽しかった?」
穏やかな顔で語りかけてくる蒔絵さんは、少しだけ涙ぐんでいた。
「うん、ここを旅立つのを躊躇うくらいにね。」
「そりゃぁよかった。」
荷物を積んだ蒔絵さんの車に乗り、新幹線に乗るために駅へ向かう。
「玄春もこんなに大きくなったのねぇ。」
「蒔絵さんが育ててくれたおかげだよ。」
もう少しで中々顔も見られなくなると思うと、胸に一抹の寂しさが残る。でも、もう振り向かないと決めた。
のろのろと進む道路を抜け、駅に着いた。
プラットホームへの階段を、蒔絵さんと登る。
旅行に行くときにこの新幹線は何度か使ったことがあるのだが、次から帰ってくるときはこれを使うことになる。
駅の改札を通ろうとして、蒔絵さんの方を振り向く。
「これまで、ありがとう。俺を引き取って、育ててくれて。」
「大したことないさ。あっちでも、しっかりやるんだよ。私の息子なんだから。」
「うん、今までありがとう!お母さん!」
そして、新幹線に乗り込んだ俺は、悪神を討つたびに出る。
ゼウスの悲願を果たすために。俺のような人間を、もう増やさないために。
これは、俺が神から与えられた宿命を果たすための物語。
伊邪那美学園side
「学園長~僕の持つクラスの件で、少し相談があるんですけど……」
伊邪那美学園学園長室の扉がノックされる。
「あぁ、三神くんか。入り給え。」
応答した銀髪の女性は、伊邪那美学園学園長、天水詠美 (あまみず えいみ)。
国から選ばれた、国内屈指の魔法使い。ぶっちゃけ、日本の他国に対する交渉カードになるくらい強い魔法使いである。
「失礼します。」
入ってきた黒髪の男は、三神零 (みかみ れい)。
今年の新入生のクラスを持つ担任である。
「いやぁ、今年は特に豊作だねぇ。龍の末裔、植物のお姫様、光と炎のサラブレッド。魔人の特異体質に、創造の錬金術使い。魔法を使わない魔法使いに、雷の寵児。なんでもござれのサイキック。ほかにも、注目すべき新入生がいっぱいさ。」
「その辺りは、僕も選ぶだろうな、という感じがしていました。でも、僕が聞きたいのは、この子……急に、学園長が入学を決めた子です。」
「その子は、ちょっと特殊でねぇ……その子を選べと、天啓とも呼べるものが来たんだ。その子は風と闇の、優秀な魔法を持っている。しかも……風見夫婦の、一人息子だ。」
「ッ!?」
「覚えてるだろう?そういえば、嫁の方は君が片思いしていた相手だったね。あの頃、君たちの担任だった私から見ても、君の彼女への思いは分かりやすかったよ。」
「学園長って、すっごく意地悪ですよね……」
「意地悪上等。むしろ、魔法使いなんて意地悪じゃないとできないからね。狡猾であれ、クールであれ。私の教育理念さ。」
「はぁ、そういうものですか。」
「そういうものさ。」
「でも、なんで今年の担任が僕なんですか?彼の入学が決まる前から、僕がこのクラスを受け持つことが決まっていたでしょう?」
「君の魔法は教育向けだし、この子たちを育て上げるのにも向いてる。性格にも難がない。っていうのが、表向きの理由。」
「と、言いますと?」
「これも、天啓が来たって言うべきかな?」
「またそれですか。生徒の人生に関わることを、ポンポンと決めないで下さいよ。」
「私の天啓が外れたこと、今まであったかい?それに、君のそういう真面目なところも、私を迷わせなくてくれて助かったよ。」
事実、天水詠美の天啓は、未来視ともいえるレベルで外れたことがない。それは、彼女自身も自負しているところであった。
「はぁ、本当、面倒なクラスを持たされたよ……」
そう言ってため息をつく三神の表情は、心なしか緩んでいた。
「おや、嬉しそうじゃないか。やっぱり、初めての担任で興奮するかい?」
「えぇ、僕も、あなたに育てられた身ですから……」
「そうか、そりゃよかった。─で、ここからが本題。」
「え?」
「実は、天啓はもう一つあったんだ。近々、人間界、いやこの世界に大きな変化が訪れる。しかも、特別悪い方でだ。」
「え!?それ、まずいじゃないですか?」
「でも、それを討ち祓う者たちが誕生するというのも、天啓で出てきた。」
「つまり……?」
「私がこれまでやってきたことが、ついに実を結ぶ時が来たんだよ。この世界を守るために、優秀な魔導士を育て上げる。今年の新入生も、勇者になるべく育てておくれよ。言っとくけど、学園長命令ね。」
「はぁ、分かりましたよ……」
「ははっ、一気に表情が暗くなったな。まぁ、景気づけだ。一杯おごるよ。行きつけの店があるんだ。来るかい?」
「行きます……ごちになります!」
「うんうん、男はそれくらい正直な方がいい。じゃぁ、行こうか。荷物をまとめてきておくれ。」
悪神がこの世界を乗っ取る準備、そしてゼウスがそれを防ぐ準備は、着々とすすんでいるのだった。
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。
本作はパロディを多く含むため、了承して楽しめる方のみ読んでいただけると幸いです。
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