プリンターに生き甲斐は無い(ショートショート)

古川和(みんち)

SS

俺は寂れたコンビニにあるプリンターである。普通の大した機能もないどこにでもある業務用プリンターである。過去も未来もない。なんの為に生まれたきたのか、いつ故障して捨てられるのかもわからない。大体毎日やっていることといえば、ほとんど人間の召使のようなどうでもいいことで、やれ書類をコピーしたり写真を印刷したり、大体コピーしたり印刷したりすることである。


ああ…俺が他の機械だったらもっと楽しい人生だっただろうし、もっとマシな人生に違いない。なんて思うことが時々ある。ゆうて結構暇で大体ぼーっとしているからだ。


たとばプレステだったならゲームを読みこんだり人間の反応を見たりゲームの内容見て楽しんだりできるし、普通のパソコンだったりしたら、それはそれで同じようにネットを見たり、ゲームしたり、ああ同じか、でも十分楽しめるはずだ。ああでもエクセルだけはゴメン。エクセルみたいなつまらないぽちぽちを一日中やってるなんて気が狂いそうだし、数字とかなんの面白みもないからな、あれをずーっとやってるような業務用のパソコンは絶対ゴメンだ。だからパソコンはエクセルを入れないようにするべきだし、それだったらだもっとマシな世界だったはずだ。本当エクセルには申し訳ないが、本当に無理なんだ。


そんなこんなしているうちに、人間どもが俺の前を通る。まず俺の配置のことを言っとかないとな。俺の両隣は右がトイレで左がエロ本とかジャンプとかを置いてるっていうふうになってる。右とか左とか俺から見たらとかあんたから見たらとか色々あるが、正直言って俺はどっち向きなのかわからない。だから気にしないでくれ、両隣ってことだ。それでエロ本に話を戻すと、ジャンプも含めてな、最近はシールみたいなんで中身が見えなくなってるからめっきりここで立ち読みするやつはいなくなった。昔は適当に何ページかだけ俺のところでコピーして持って帰る奴が結構いたけど、最近はめっきりいなくなったなあ。それを見るのが俺の唯一の楽しみだったのになぁ。唯一の。ほんとくだらない改革とやらをしてくれるぜ。商売上がっただつーの。


さてそろそろ俺の生い立ちの話でもしておくか。興味ないか、なんで俺がこんなに落ちぶれたかってことに?


俺の作りの親はそれはそれは優秀な技師で俺のプロトタイプを完璧に作った。プロトタイプってのはまあ試作品みたいなもんだ。そのプロトタイプは完璧にできてたからコンペとか色々賞を総なめにしたらしい。何が良かったかって?俺はそういうのは知らないが、ともかく由緒正しき格式のあるプリンターだってことだ。


ああなんだか、俺の前に落ち着かない奴がいるな。ショートヘアの若い男。俺の隣のATMをなんか見たり見たりしなかったり、長年の俺の勘が言っている、こいつはおかしい。


さっき俺の隣はトイレと言ったよな。うんそうだな正確に言えば、ATMの奥にトイレがある。ATMを飛ばしな理由は、俺はこいつが大嫌いだからだ。だからいつも無視してる。何が気にいらねぇかって?こいつほんとーにつまんねーから。何回か暇な時話しかけてやったことがあってな。こいつなんて言ったと思う?「只今、勤務時間の為、私語は慎んでください」


だとよ。ほんとーに頭に来たね。だったらお前24時間勤務してて休みとかないじゃんって思った。だからこういうお堅いやつとご一緒するのは嫌なんだよ。早く銀行にでも飛ばされねーかな?


さっきの男はジュースを見るふりして辺りをキョロキョロしてるな、金を下ろすんだろ?まあ若いからな、こいつは多分闇バイトかなんかに手を出して金をおろしたり飛ばしたりするいわゆる出し子だろうと思う。


んで周りを見て誰も見てないのを確認したみたいだ、決心をした顔をして5分くらいから?色々やってたみたいだけど、もう店を出て行ったみたいだ。


「おたくさん、なんちゃら銀行のお宅さん!」


「はい何か?」


「今のやつ何かやばいことしてなかったか?いくらおろしたよ?」


「あー、守秘義務がありまして。申し訳ありませんが、口外できません」


はい、そうだろうと思いましたよ。こいつはそう言うやつなんだよ、これじゃあ警察に検挙してスターになったり有名になっていいとこに飛ばしてもらおうとかそいういうことを考えないやつなんだもんなぁ。まあそもそも話としても成立しないじゃないか。事件が起こらないと話としてつまらないんだよなぁ。もうしらけるどうしてくれんだ。


そうだな俺が落ちぶれた話をしていたな。うんこの様だよ。あ点がなかったな。うん、この様だよ。まあ実際うんこの方がマシだったかもな。うんこだったら子供が面白がってくれるし、下水道を旅する機会もあるだろう。俺はもう救いようもない。俺が特殊能力持ちの異世界転生者だったら何か変わったのかもな。おもしろい事もあったかもしれない。俺はこのまま終わりまで、電源が壊れて起動出来なくなるまでこの退屈なコピーやら印刷やらをする日々を過ごすことになるんだろうよ。


そういうこった。(終)

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プリンターに生き甲斐は無い(ショートショート) 古川和(みんち) @minchi

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