道中

 よくわからない草を乾燥させてお湯に溶かすと、嗅ぎなれた渋い香りが鼻腔を刺激した。


 これは、紛れもなくお茶だ。


 相手の表情を見るに、善意で差し出してくれているのだろう。

 



『嬢ちゃんたち、疲れただろう。これを飲みな、疲れによく効くんだ!』




 馬車に乗せてくれた行商人のおじさんが、肩を回しながら言った。




「疲れによく効くって」


「マジで!欲しい欲しい!」


「確かにこの人は親切だし、悪意も感じられない。けど正体不明のお茶を不用意に飲むのは……」


「最初にそういうものに挑戦する人がいるおかげで、世の中はおいしいもので溢れてるんだよ!挑戦しなきゃ!」


「一口飲んで、ヤバそうだったらすぐ吐き出して」




 私は深雪にグッドサインを見せると、出されたお茶をグイっと飲み干した。


 口の中に、強いえぐみが広がる。


 あまりの強烈さに思わず吐き出しそうになったけど、その後少しして、甘いような、そんな香りと味がぶわぁっと口の中を満たした。


 


「大丈夫なの?」


「うんっ、第一印象は最悪だけど、少し我慢すると癖になる甘みが口の中にぐわぁッと!」




 その後、お茶を指先に付けて少しずつ舐める深雪を見ながら、鍛冶の街への道を少しずつ進んで行った。




 ◆




『ここから先は顔だけお化けの生息地だ。奴は夜のみに現れる。今日はもう休もう』


 


 馬車を止めると、行商人は険しい顔で私たちにそう告げた。

 

 


「ムザール?という化け物の生息地だから危険、よって今日はここで休む、だって」


「ほえー、どんな生物なんだろうね」




 お茶を口に含みながら、私は深雪の訳を聞いた。


 残りの分をわたそうとしたけど、顔を真っ青にして拒否された。




 ◆




 夜。


 私が見張りをしているときにそれは起こった。


 静かな夜風に、パチパチと音を鳴らしながら揺れる焚火。




 瞬間、不自然に森がざわめいた。


 何かが来る。


 あたりを警戒しながら、そばで寝ている二人を起こすために振り向く。


 眠そうな目を擦りながら顔を上げた深雪と行商人だったが、すぐにその顔が真っ青に染まった。


 振り向くと、そこにあったのは、顔。


 真っ白で丸い顔に、縦長の双眼。


 ぎょろぎょろしている瞳孔はまるで虚無を見つめているよう。


 手足は顔から直接生えていて、頭にはクマの耳のようなものがついている。




「こんな怪物ホラゲーでしか見たことがないよ!」


「武器がない、どうする?」


『こ、ここには来れないはず!どうして!?』




 走りながら考える。


 すぐに馬車を出すのは難しい。


 怪物をまけるような障害物もない。


 怪物がどんな生物なのかさえ不明。




「これはっ、マジでやばい状況かも!」





 

 

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