脱出

 よくわからない言語を話す、白い法衣をまとった中年男性。


 彼は、コツ、コツと石の道を鳴らしながら、私たちに近づいてきて言った。




「momzoo set may sad say $'&te it that that key math」




「やっぱり分からない?」


「英語っぽい単語は聞こえるけど、意味が分からない。おそらく、発音が同じでも、意味が全く違う」


「なるほど」




 ついてこいという意味だと考えたのか、クラスメイトの人たちは先導するように歩く中年男性の後ろをちょろちょろと付いて歩いている。




「危険だと思わない?」


「リスクはある、逃げる?」


「そうしよう」




 脱走は、私たちのお家芸だ。


 この大衆に紛れて逃げることなんて造作もない。


 たとえ、私たちが中年男性のうしろをちょろちょろと付いて行っている彼らと同じ格好をしていても。




「どこに行く?当てはある?」


「ない!気が向いた方へひたすら走る!」




 パルクールをするように壁を越え、屋根を超え、私たちは未知の世界を駆けた。








 ◆◆◆








 一方その頃クラスメイトは……。




 六つの石が妖しく光る大聖堂に案内された一行は、修学旅行に来た気分で指定された席に着いた。


 すると突然、スクリーンに映っていた映像が消えるように、人と椅子以外のすべてが姿を消し、冷たく弱い風が前方から吹いた。




 あたりは一面真っ黒で、遠くの方に星が見える。




 まるでテーマパークのアトラクションのような体験に、皆息をのんだ。




「cowr hour mam hold death. menorth an need er, cow no you na no g#%$ wo $'6nii')(relkjf」




 何を言っているかは理解していない。


 だが、これから自分らはこのような不思議な体験をできる。


 皆何一つ疑うことなくそう思った。




 突然目の前に、半径3メートルはある巨大な水晶玉が姿を現した。


 そして中年男はまた謎言語で説明を始める。


 そしてこれも例外なく、まるでテレパシーかなにかで意思疎通ができているかのように、クラスメイトたちは中年男の指示を何一つ違えることなく行動に移した。




 皆出席番号順に並び、水晶に触れ、情報が頭の中に流れ込んできたら席に戻る。


 


「あなた方は今、真の勇者となられました。改めまして、オラクル帝国へようこそ。ですが残念です。転移した方々のうちお二方が、我々を裏切り悪と手を結びました。悪に魅入られたお二方を救済するために、そして我が帝国のために、ともに魔王と戦っては頂けないでしょうか!」




「おう!」「わ、わかった」「がんばらなくちゃ……、」




 ガッツポーズをする者、無言でうなずく者、声を出して同意する者。


 皆が様々な形で同じ反応を示した。




 誰一人、疑うことなく中年男の呼びかけに応えた。




「魔王めっ、待っておれ!!!」




 強い恨みをこめたその一言を皮切りに、大聖堂は雄叫びで満たされた。

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