風話はちょっと疲れる
さてさて鯨を狙うとプロイが怒っちゃうからお空の高くまで飛び上がりましたよっと。
何はなくとも眼下を見下ろしてプロイの安全チェック。周りに危険な生き物はいないか確認しないと。
サンダーバードの巣は森林限界を越えて草一本なくて見通しがいいから一目で安全確認出来て便利だね。
うん、プロイを狙いそうな奴どころか鼠一匹いないね。プロイを狙ってるのがいたら一撃で仕留めて食ってやるつもりだったけど。
もうちょっと高く登って獲物をちゃんと探そう。
おや、隣の山にギム達を発見。あんな所まで移動してたんだ。
良く見たらあっちの山には森に不自然な感激があるね。地面もキラキラしてて、あれは高熱で融けて硝子化してるっぽい?
んー、あ、めっちゃデカいけどサンダーバードの羽根が落ちてる。羽根だけで熊くらいの大きさがある。
あそこでプロイの親鳥は何かと戦ってた?
プロイの卵が放置されてたってことは親鳥は負けて逃げたのか死んだのか?
む。そうなるとそのサンダーバードと戦った何かはプロイを狙ってくるかもしれない?
ほー。うちの可愛いプロイを狙うとか太い野郎ね。見つけ次第殺す。決定。慈悲はない。
あ、てか、あんな遠くにいたらプロイが鯨を食べ終えて次を狩りに行く時に呼んでもすぐには帰って来れないじゃない。
プロイの食べっぷりから換算すると多分三日で一頭を食べ切ると思うから、それまでに一回帰って来てくれるように声掛けておこう。
んっ、んんっ。ちょっと咳払いで喉を整えて、と。
「ギームー」
魔法で風に乗せて声を届ける。
あ、ギムがびっくりして肩を跳ねさせた。
三人揃ってきょろきょろしてわたしを探してる。
ふっふーん、わたしはそんなに側にはいないんだな、これが。
「上ー。上だよー、ギムー、リニクー、シドー」
名前を順番に呼んであげたらこれまた三人ぴったり同じ動きでこちらを見上げてきた。
「遠っ!」
「小――」
うーん、リニクはともかくシドの声がちょっと聞こえにくいな。もうちょっと声を張ってもらわないとさー。
声が大きいだけじゃ声は通ってこないんだよ?
それはそれとして目を真ん丸に見開いているギムが可愛い。
なんかぱくぱく言ってる。うん、ギム、普通の声で喋られても全く聞こえないから。向かい合った尾根で会話するように声を投げてくれないと。
仕方ない、あの子達の声を風で拾おう。
「ギムー。ギムー。聞こえるー?」
「ソ――なに――ったの?」
まだちょっと聞き取り辛いな。あんまり魔法使うとカロリー消費も大きくなっちゃうんだけどー。
「ギムー。明後日か明々後日には帰ってきてくれるー?」
一日くらいならプロイも他のお肉で我慢してくれると思うんだよね。
でもあんなに喜んで鯨を啄んでる様子を見ると二食続けて鯨じゃないお肉だと悲しい顔しちゃいそう。あ、プロイの泣きそうな顔が想像しただけでも可愛い。ちょっと、ううん、すごく見たい。二日くらい鯨を捕らないで素知らぬ顔で山の獣をあげてみようかな。
だめ、だめよ、ソニ。そんな子供を虐めるだなんて大人として最低よ、ああ、でも見ーたーいー。
「明後日だね! 分かった! こっちも調べて分かったことがあるけど、聴くかい!?」
お、ギムが気持ち声量を上げてくれた。
でもいつまでも繋いでいたら疲れちゃうから、ギムの報告は巣に帰ってきた時にゆっくり聞きたい。
「うーうーんー。戻って来てからでいー」
「わかったー!」
ギムが両腕で大きく円を描いて了承を伝えてくれる。
うんうん、声よりも動きの方が分かりやすくていいね。
ギムの口振りだと何か成果があったんだろうな。プロイの安全に寄与する情報を集めてくれてるんだから本当にありがたい。
まぁ、ギム自身も調べて新しいことを発見するのが楽しいっていうのはあるんだろうけど、どっちにとっても良いものって言うのはつまり完全なる善ってことだもんね。
さて、それはそれとしてわたしが食べる物を探そうっと。
んー、最近、山の獣ばっかりだったからな。
今日は鳥か、魚か。
本当はまた蜂蜜が食べたいんだけど見付けにくいから森の中でぐるぐる探さないと見付からない。目を離している間にプロイが襲われたらと思うと不安で仕方ないから諦める。
ギム達が見付けて蜂の巣持ち帰ってくれないかなー。
リニクに特訓だって嘘ついて取って来てもらおうかなー。
いや、リニクはそんな嘘すぐ見抜いて怒って来そうで怖いな。
よし、今日は魚にしよう。
エンペラーサーモンはこないだリニクに獲って来てもらったからまだこの辺りに新しい個体は戻って来てないよねー。あいつらデカくて食事量も多いから一つの流れを一匹で丸ごと縄張りにするんだもんなー。美味しいのになー。
お。湖にでっかい魚影を発見。
じっと目を凝らして再確認。
波の動きが少し盛り上がっている。あそこに何か大きいのが泳いでるな。
深度はたぶん二十メートルかそこら。
よし。
湖に立つ波の先を狙って急降下する。
水の下にいる相手に見付からない速度で一息に飛び込む。
爆発する気泡を追い抜いて魚影を目視する。
やった、思った通り大きい。一メートルはある。形から言って鯉かな。
尾鰭に噛み付いてそのまま翼で水を打って浮上、鯉を引き摺り出すようにして大気へと飛翔する。
よし、お前がわたしのご飯だー!
暴れたって無駄よ。アンティメテルの防御力で絶対欠けない歯を舐めるんじゃないわよ。顎の力だって熊の骨くらい砕くんだからなー!
水のない世界でお前に勝ち目はなーい!
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