一触即発
ソニちゃん、ギムの所に来たらなんとギムの父親からバケモノ呼ばわりされるという悲劇。
なんで? どして? わたし、こんなに可愛いのに。
「あ、プロイの方がもっと可愛いからね?」
「キィャ」
むぅ。何よ、その気のない返事はー。わたしのプロイは可愛いんだからねー。天使なんだよ、天使。
まぁ、今は可愛いから成長して格好いいイケメン天使様だけどさ。男の子供って扱いが難しい。もう可愛いはお嫌?
「キィ」
プロイに現実を見ろって言われるけどちゃんと武器持った人達が集まって来てるのは分かってるよー。
「だいじょうぶ、プロイには指一本触れさせないから」
ママ、こう見えても強いんだから。
わたしの目の届く範囲で子供を狙ってくる輩とか絶許よ。瞬殺してやるわ。
え、そうじゃないって、じゃあ、どういうこと?
「ギム、プロイを守る以上に大事なことある?」
「ううん……それ以上というか、それ以前の問題じゃないかな。ていうか、プロイって、このサンダーバードの名前?」
「うん。プロイ、ギムにご挨拶は?」
「キィイ」
「あ、うん。よろしく」
うんうん、プロイもギムのご挨拶出来ててえらい。
「おい、バケモノ! うちの息子に近付くな! ギム! こっちに来い!」
む。子供達が仲良く挨拶しているのに怒鳴ってくるなんてやはりギムの親は悪い親。
がるるる。
「なんか威嚇してきてるぞ」
「あんまり刺激するな、ギー坊が危険だ」
なによ、やるって言うの?
「あの、威嚇しないで」
ギムが申し訳なさそうに言ってくるから唸るのを止める。
でもギム、威嚇って不必要な争いを避けるために必要なんだよ。こっちが強いって分からせて相手を逃げ出させれば直接対決に至らないんだよ。
「みんな聞いて! 彼女は危険な存在じゃない!」
ギムが腕を目一杯広げてわたしとプロイの目隠しになるように前に出た。
「そうよ、そうよ、プロイはいい子なんだから!」
「キミはちょっと黙ってて」
ギムを援護したら本人から睨まれた。どうして。
しかもわたしが喋ると大人の人達も武器を持つ手に力を込める。なによ、わたしが何をしたっていうのよ。
「うわ、だいたい予想通りの光景だけどそれはそれで気が滅入る……」
「うおっ、あいつ生まれたばっかの時もデカかったのにさらにデカくなってやがる!?」
あ、リニクとシドだ。やっほー。
ギム? 言われた通り黙ってるよ。翼振ってるだけだよ。なんでそんなに怖い目でわたしを見てくるの?
リニク? どうしてそんな疲れ切った顔して額を手で押さえながら首を振ってるの?
人の情緒、分からない。
「だいたい、なんなんだ、お前ら!」
「わたし? わたしはソニ・ヌナセ・アイオロス・アルカディアよ。この子はわたしの息子でサンダーバードのプロイよ」
訊かれたから名乗ったらみんなしてぽかんと動きを止めてる。なによ?
「まさか、貴族様なのか……」
なんか大人達がたじろいてる。
「ギム、キゾクってなに?」
「え、いや、アンティメテルに貴族はいないの? 民衆をまとめる偉い血筋のことだけど」
「みんなをまとめる? お祭りの纏め役は毎年やりたい男性が選ばれるけど」
「あ、うん。それは全然違うかな」
人の社会システム、良く分かんない。血筋とか旅をしてたら分かんないでしょ。
あ、人って基本旅をしないで住む所を変えないんだっけ。土着民ってやつね。
「あいつ、あんな長い名前だったんだ」
「ソ……なんだって?」
リニクとシドもひそひそ話してるけど何がそんなに珍しいの?
あとシド、最初の一音しか聞き取れてないじゃない。もうちょっと頑張りなさいよ。
「ソニ、ヌナセ、アイオロス、アルカディアよ。ソニがファーストネーム、ヌナセがマザーネーム、アイオロスがファミリーネーム、アルカディアがコロニーネームよ」
シドのためも兼ねてもう一度ゆっくりと名乗ってあげる。それから名前の構成も解説してあげたら完璧でしょ。
「マザーネームってお母さんの名前ってこと? キミの子供だとソニが付くの?」
ギムがやたらと食い付いてきた。相変わらず好奇心旺盛ね。良い事だわ。
「そうよ。ファミリーネームはわたしの旦那様のブランテ様から頂いて、コロニーネームは旅の中で自分がどこの
「キミの故郷はアルカディアって言うのか!」
そう言えばギムにアルカディアの話はあんまりしなかったっけ。わたし達の生態の話するくらいだったもんね。
サンダーバードの生活とか人のこととかわたしからギムに訊くことも多くってお互い時間が足りなかったのもある。
なんてギムとお喋りに花を咲かせていたらあちらの父親に咳払いされた。
息子が女性と話すのが嫌なの? そんなだからギムは十四歳にもなってまだ子供がいないんじゃないの。
「サンダーバードなんか連れて来やがって! この村を滅ぼすつもりか、魔女め!」
なんか訳分かんない事言われた。
意味不明過ぎてギムの顔を見上げるけど、ギムったら険しい顔するばっかりで説明してくれない。
「待ってよ! サンダーバードはこの村にご利益をくれてるだろう? 敵じゃないよ!」
「馬鹿野郎! それはこの村に近付かないからだ! サンダーバードが暴れたらこんな村すぐに滅ぼされるだろ!」
むむ。プロイはそんなことする悪い子じゃないもん。
ギムと大人の話は平行線でちっとも解決に向かわないっていうか人の大人が頑固過ぎる。
ギムが何かいう度に、わたしをバケモノとか信用出来ないとか、プロイを危険だとか言ってきて聞く耳を持ってない。
困るわー。すごい困るわー。
わたしはギムにプロイの面倒見てもらいたいんですけどー。あんたらの村失くしたらギムにどこでプロイを見ててもらうっていうのよー。
「あいつがだんだん不機嫌になってくの、地味に怖いんだけど」
あら。リニクに怖がれてしまった。そうよね、大人がぷんぷんしてたら怖いよね。目の前の馬鹿親見てたら良く分かる。わたしは客観的に自分を把握出来る大人よ。
にっこり笑顔を向けてリニクを安心させてあげよう。
「ひっ!」
ちょっと、なんでそこで怯えるのよ。失礼ね。
「んー、やべーな。行くか」
なんて思ってたら急にシドが走り出した。
あ、ちょっと! プロイを攫った!? なんで!? ちょっと、うちの子返せー!
「ギム、お前も来い! 逃げるぞ! リニク、後は任せた!」
「え、ちょ、シド!?」
「あんた、ちょっと、一番面倒なとこを打ち合わせなしで押し付けるなー!」
「シドー! こらー! 止まれー! プロイを誘拐とか許さないんだからー!」
「あ、バカ、お前、魔法打って来るな! あぶな!」
危ないもんか! わたしがプロイに当てる訳ないでしょ!
風を操るのは得意なんだからね!
風を操れば飛び立つのだって一息だ。飛んでるアンティメテルに走って逃げられると思うなよー!
「くそ、はやっ、てか、重てぇ! 一週間で人間サイズに育つとかマジバケモンだな!」
「わたしがせっせとご飯を運んだからね! だからうちの子、返せー!」
「後で返してやるっての! 取りあえず逃げんだよ!」
「ちょ、シド! それと、えっと、ソニ! 速いって!」
ギムがなんか遅れてるけど今はかまってられない、ごめん!
この、シド、プロイを重たがってるのに全然速度落ちないし疲れも見せないだなんて。鍛え過ぎた! 恩を仇で返すだなんて許さないんだから!
お説教してやるー!
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