プロイのための一撃必殺技

 日もとっぷり暮れて新月で良く暗く天外あまとに散らばる星々が迫るように間近に見える。

 そんな中でわたしの目の前はとっても明るい。何故ならプロイがほわほわの翼をバサバサして発電発光してるから。

 プロイは自分の光に惑い寄ってきた虫をぱくぱく食べてる。

 こんな草もまともに生えない標高でも虫って出て来るんだ。生まれたばかりの息子に新事実を教えてもらっちゃった。

 やだ、うちの子、賢い。天才なのかな。将来はサンダーバード族の賢者になっちゃうのかな。

 プロイの雷光に誘い込まれた虫の中には、時折バチリと音を立てて焼け死んでるのもいる。プロイ、砂浴びとか水浴びとかしなくても寄生虫の心配いらないね。

「プロイ、おやつはそのくらいにして、そろそろ寝なさいー?」

 昼間に獲って来てあげた熊もまだ四分の一くらい残ってるから、完全に虫はおやつ。ちっちゃい虫とかプロイの旺盛な食欲を満たせるとはとても思えない。

 虫が美味しいの?

「きゅーぃ?」

 あ、美味しいっていうより虫取りが楽しくてやってるみたい。おやつですらなかった。遊びついでに口に入れてるだけっぽい。

 きょとんと首を傾げるほわほわのうちの子可愛い。静電気で羽根がゆらゆら踊ってるのもちょっとお間抜けで可愛い。

 いや、夜闇を弾き飛ばすくらいの雷を発生させてるんだけどね。迂闊に触れればそこらの生物は死ぬか気絶するのも知ってるけどね。うちの子、生まれながらに強い。やはり才能に溢れている。

 でも日が暮れてからもう二時間も経ってる。子供は寝る時間よ。なんなら日が暮れたらすぐに眠ったっていいんだから。

 プロイのところにすぅっと滑空してほわほわの体を羽包はくるむ。

 プロイはいい子だからそれだけで発電を止めて大人しく身を縮こめる。プロイの産毛を浮かせていた電気はするりと地面に逃げていって、ほわほわの毛はへたりと眠る。

 翼の中のプロイに舌を這わせて羽繕いしてあげる。少しずつ大人の羽根がふわふわの毛の下で育っていてしっかりとした感触が舌を押す。

 ふふ、うちの子がすくすくと成長してるのがすごく嬉しい。

「プロイ、いっぱい食べてたくさん大きくなって立派な大人になるんだよ」

 サンダーバードは鯨を食べるってギムが言ってたからね。

 海の中で大きく育った生き物を捕食出来るくらいにちゃんと強くなるのよ。

 ブランテ様が教えてくれた中に鯨の話もあったから知ってるよ。鯨って小さい山を一つ丸ごと海に沈めたくらいに大きいんでしょう。海の生き物は大きいのが多いけど、その中でも際立って巨大だったって。

 それだけ大きいなら食いでがあるよね。サンダーバードも大きく育つみたいだしご飯も大きくて豪快な種族なのね。プロイの将来がとっても楽しみ。

「きゅぁう」

 あら、羽繕いで気持ち良くなっちゃったのかプロイの声がとってもおねむ。

 目もとろんとして瞼が上がったり慌てて下がったりしてて、とってもきゅーと、かわいい、愛してる。

 プロイが穏やかに眠れるように子守歌を聴かせてあげよう。

 うちの娘達もすぐぐっすりだった子守歌はプロイにも効果は絶大で、一曲終わる前に翼の中の息子はくたりと脱力して巣の中に体を突っ伏した。

 夜は冷えるからね。ママが翼で包んで朝まで温かくしてあげるよ。

 んー、子供特有の甘い匂いがする。娘達とは違って、なんだろう、プロイからは森の匂いがする。

 森って言っても沢の清々しい感じのじゃなくて、古い木立から染み出してくる香ばしくも清涼感のある匂い。でも生まれたての日に比べるとその匂いも薄らいできててちょっと残念。子供の好い香りはどうして成長するにつれて遠退いてしまうんだろう。

 ずっとずっと子供のままでいいのに。

 あ、ごめん、ダメだわ。子供のままじゃ自分で餌獲れなくて飢え死にしちゃう。

 いつかわたしがいなくても独りで生きていけるように強く育てなきゃ。

 プロイが出会うどんな危険にも困難にも負けずに生きたいだけ生き抜けるような、自由を謳歌出来るだけの風のような強さを身に付けさせてあげるのが親の役目だもの。

 まず鯨は狩れるようにしないと。

 あと海まで飛んでいくってことは、空でいろんな生き物に出くわすかもしれない。他のサンダーバードはもちろん、コアトルでも撃退出来るくらいには鍛えないと。

 コアトルは温厚なドラゴンだけど空腹の時は執拗に獲物を狙ってくる厄介者なんだよね。

 アンティメテルも空を飛べるようになって遠出するようになると、たまにコアトルに遭遇して狩られてしまう。

 サシャやレイラは逃げ切れるくらいに速く飛翔したけど、プロイだったらやっぱり逞しいから雷撃でやり返せるくらいでちょうどいい。

 空の頂点と言えばやっぱり龍だけど、うーん、さすがに龍に喧嘩売るのは危ないから逃げれるようにしよう。あ、でもプロイが龍より強くなりたいっていうならママは全力で応援するよ! 向上心は大歓迎!

 龍さえぶちのめせればフェニックスとかシフ鳥とかは全然倒せるよね。

 あ、待って。鯨を狩る時に海からクラーケンとかがプロイを狙ってきたらどうしよう。海の生き物でも一蹴出来るくらいに育てないといけない!

 プロイの武器は? もちろん、雷。それと嘴も鋭くなって来てるし、足の筋肉も発達が速いし鉤爪も伸びて来てる。

 翼は速さよりも力強さ重視で、重い体を飛び上がらせるのを重視した形してる。そうだ、質量は武器! 急降下突撃は教えておこう!

 その速度と質量を鉤爪の鋭さに乗せて繰り出せばどんな硬い皮膚でも引き裂けるんじゃない!? そこに雷撃も纏わせれば追加ダメージに相手を麻痺らせて動きも止められる!

 これだ! プロイの一撃必殺技! これだけは必ずモノにしてから巣立ちさせないと。

 むぅ……わたしは雷も扱えないし足も細いし鉤爪もない……。プロイにこの必殺技をちゃんと教えられるかな……。

 いや、自分に出来ないからって諦めちゃいけない。

 体の動きは見せて覚えさせて、プロイが動きを真似出来るようになったら今度はわたしがそれを観察してより強い一撃を完成させるように助言していく。

 必ず親子二人の力でクラーケンを八つ裂きにしてやるんだから!

 やってやる! やってみせるんだから! 全てはプロイが生きていくために!

「きゅい?」

「あ、ごめん、プロイ。起こしちゃった?」

 ついつい翼に力が入ってプロイを締め付けちゃってたらしい。

 お肉をたくさん食べてどんどん筋肉を増やして固くしているプロイはそれだけで押し潰されたりしないけど、わたしの様子を気遣って首を巡らせている。

 なんて優しい子なの。ママ、嬉しい。

「なんでもないよ。ゆっくりおやすみ」

 プロイのお目めにキスしてあげるとプロイは一鳴きして首をまた降ろした。

 ちゃんとお返事出来てえらい! しかも卵の時と違って電撃じゃなくて声でお返事してくれた! うちの子、ちょー天才!

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