狩り
うちの子ったらすごいのよ!
まだ卵から孵ったばかりなのに、翼はまだまだほわほわでちっちゃくて頼りない見た目なのに、ばさばさするとバチバチって蓄電していって最後には、ずがーんっ!、ってお空に向けて雷を放つのよ!
夜だとジグザグに走る紫の雷光がとっても奇麗なの!
それに雷を溜め込んでいる時にはほわほわの毛並みが静電気で、こう、ほわっと、ふわっと、風にそよぐ綿毛みたいにふらふらゆらゆらして、ただでさえふわふわの産毛で丸っこい姿がもっとふわふわと柔らかそうに膨らんでもう、かーわーいーいー!
「プロイ、今日も素敵な雷撃てたわね! えらいえらい!」
「きゅい! きゅい!」
プロイを翼で包んで抱き締めてあげる。いっぱいいっぱい愛してるって態度で示せば子供はとっても良く育つんだから。
プロイは生まれたばかりなのに大人の鷲と同じくらい大きいからわたしの翼で
どんなにおっきくてもまだ自分で餌も獲れない子供なんだから。わたしが育ててあげないと生きていけないんだから。
でもサンダーバードのご飯が肉で良かった。
昨日も山羊を狩ってきたらプロイは喜んで啄んで一日で食べ切った。食欲旺盛で大変よろしい。良く食べて良く寝て良く遊ぶ子はとても元気に健康に大きく育つもの。
いや、まぁ、わたしも食べたけど。久しぶりだったし。ギム達と会ってすぐに山羊の味を思い出したのに結局一度もあり付けなかったし。
でもリオドール様のとこの山羊と違って硬くてえぐみが強かった。美味しい山羊食べたい。やはり食べるなら家畜に限る。
「プロイ、ママはまた狩りに行くけど、もし巣に怖いのが来たら?」
「きゅいい」
わたしの問い掛けに応えてプロイがまた翼をバタバタさせて静電気を溜めていく。
ものの数秒でプロイの雷撃は熊でも倒せるだけの威力になって、バチッ!、と空気を弾けさせてプロイの周りに迸った。
「そう、ちゃんと自分の身を自分で守れてえらい!」
「きゅいー」
わたしに褒められて誇らしそうに胸を張るプロイが可愛い。どや顔きゃわわ。この笑顔、一生守り抜くんだから。
「じゃあ、ママ行ってくるね」
「きゅいっ」
いい子でお留守番するのよ。
巣材になってる大きな枝を蹴ると同時に羽搏く。
飛び石を踏むように、合間を空けて次々と枝を、幹を、そして鯨の骨を蹴って、その度に翼で空気を打ち、岩肌を駆け上る風を捕まえる。
くん、と体が持ち上がる。
足羽で風の流れに体を差し込む。
風に包まれてぐんぐんと上昇していく。
十分に高度を取ったら上昇気流から降りて空気に乗っかる。空気の塊に乗ると少しの間だけ空中で制止出来るから、山を見下ろして獲物を探す。
あ、プロイが鯨の骨齧ってる。お腹空いてるのかな。でも山羊を食べ終えたの今朝だったけど。
骨でカルシウム補給してるの? 嘴も少しずつ固くなってるから骨も齧れるようになったもんね。あれ、でも、山羊の骨はぽいって放り投げて遊ぶだけだったな。
はぁー。骨をかじかじするうちの子かわいい……何時間でも見てられる……。
はっ。ちがうちがう。いや、プロイが可愛いのは違わないけど、今はプロイの見守りじゃなくてプロイのご飯を狩らないと。
子供を飢えさせて切ない気持ちにさせるとか親失格。
そうよ、わたしはプロイのただ一人の最高の親なんだから!
待ってて、プロイ! 美味しいをすぐに持って帰ってあげるからね!
プロイの卵があったサンダーバードの巣の付近は森林限界を超えた不毛で荒涼とした岩の空間で、山羊みたいな高山の動物がちらほらいるくらい。
山羊は昨日食べたしリオドール様のと違ってあんまり美味しくないからいいや。プロイが良く育つようにもっと肉も脂もしっかり乗った食いでのある獲物がいい。
もっと標高の低い方に目を向けるとまず細い木々が疎らに生えていて、そこから立派な森へと移っていく。
あ、ちょこんと切り開かれた村が麓に見える。こないだも見たとこだ。ギムとシドとリニクを発見。三人で道具の手入れしながらお話してる。ギムがちょっと俯いてるけど、月の日なのかな?
じゃないじゃない。ギム達も気になるけどあの子達は自分で糧を得られる独り立ちした子達。今はプロイのご飯。
お。熊発見。でかい。ふとい。あれはきっと美味いやつ。
あ! 蜂蜜食べてる! 蜂蜜に濡れた熊の手!! めっちゃ美味しくなってるやつー!
お前が今日のご飯だー! ついでにその蜂蜜もわたしに寄越せー!
翼を畳んで急降下! 重力はわたしの味方! 大自然のくれる最強の武器!
この自由落下の速度殺さずに突撃して、獲物に額をぶつける。ただ一点に集中させた打点は大抵の生物の骨なら簡単に砕く。
熊の肩甲骨の間、首の付け根を一撃で破壊する。
ぐぎゃり、と骨と肉が砕ける衝撃が額から伝わって、仰け反った熊の喉から血反吐が飛び出す。
よし、一撃必殺。肉の傷みは最小限。美味しいお肉ゲット。
そして熊に襲われていてぶんぶんぶんぶんと気が立っている蜜蜂がわたしを取り囲む。
残念だが、君達の針も毒も熱殺蜂球もわたし達の防御結界の前には無意味だ。
久しぶりのあまーい蜂蜜、いただきまーす!
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