ご飯の時間
そろそろうちの子が生まれそうな気がする。勘だけど。
それはそれとして今日のご飯はギムが作ってくれたいろいろ煮込んだスープ。ギムってば料理が上手。人ってすごい。
そしてそれを食べさせてくれるのはリニク。なぜかギムやシドがやろうとするとリニクが激怒してわたしの分の食事を取り上げてしまう。
誰がくれてもいいんだけど、リニクそんなにわたしのこと好きなの。いつも怒ってるのに?
「はっ。これがモニカ様の言っていたツンデレってやつ? 萌えの文化?」
「いきなりわけわかんないこと言ってないで口開けなさいよ。食べさせないわよ」
「あ、食べます、食べます」
あーん。あーっん。
そのスープを掬ったスプーンを早く口に入れてー。
なんか具も入ってるけど、お肉だよね? 植物食べれないって毎回言ってるから今度こそお肉だけだよね?
リニクが伸ばした手に首を伸ばす。
あむ。
んー、スープに美味しさがみんな溶け込んでる。ギムってば料理上手!
このころころしてるお肉は……お肉……甘いぞ? ぐちゃって形崩れたし。お肉はぐにゅってなるけどボロボロにはならないのに。
これは……人参じゃん!
ぺっ!
「リニク! 植物はダメって毎回言ってるでしょ!」
「何よ、いつもいつも好き嫌いして!」
好き嫌いじゃないよ! 命に関わるんだぞ!
「リニクはわたしを殺す気なの!?」
「どんだけ野菜嫌いなのよ! 子供か!」
子供ですってー! こちとら卵二つ産んでちゃんと孫の顔まで見て旅立ってるんだぞー!
「だいたいあたしより頭一つはチビのくせに大人ぶってんじゃないのよ!」
「はぁー!? 図体がでかいのとか飛びにくいし邪魔なだけなんですけどー!? ていうか、リニクも別におっきくはなかったねー! スリムだもんねー!」
「アンタ、ケンカ売ってる!?」
「羽根一枚で買ってあげようか!?」
リニクってば十五歳なのに子供の一人も生んだことないからおっぱいもお尻もちっちゃくてかわいいもんね!
わたしだって子育て終わっておっぱい縮んだけどもう使わないからいいんだもん。
「なんか女子二人が不毛なケンカしてんだけど」
「巻き込まれたら厄介だから放っておきなよ」
向こうで焚き火を囲んでスープ啜ってる男子二人からの援護は期待出来なさそうだよ。降参するなら今の内だからね、リニクいたぁい!
こ、このタイミングで電撃はちょっと、やめ、いたっ! ごめん! ケンカはダメだよね、ママが悪かったからー!
「あ、ちょっとだいじょうぶ?」
ふふ、卵からの電撃に呻いたわたしをリニクが心配してくれる。
抱卵してから一番の威力だったかもしれない。咄嗟にしがみつかなかったら卵から体が離れてたかもしれない。
「なんでそんな命懸けで他人の卵抱いてんの?」
「え。本能?」
なんでって、なんで?
子供がいるから未来は繋がるんだよ? むしろ見捨てる方がなんでって感じじゃない?
子供を大事に出来ない種族は滅びるんだよ。
人の将来、大丈夫?
「ま、卵だしまだそんな雷も強くないのかもしんないけどさ」
「いや? 普通の生き物だからちゃんと心臓止まると思うよ?」
「は?」
卵の頃から自分の身をちゃんと守れてえらい。
親が巣にいない時も襲ってきた捕食者を返り討ちに出来るのね。
「いや、あんたピンピンしてんじゃん」
あ、リニクってばうちの子の強さ信じてないな?
胡散臭そうにわたしを見てきてる。うちの子すごいんだぞ。ほんとだぞ。
「アンティメテルはドラゴンのブレスでも死なないんだから。この子の電撃はオロチくらい一発で殺せるんだから」
「いや、ドラゴンのブレスで死なないってのもオロチ一撃も言い過ぎだから」
あれ? 本当のこと言ってるのにリニクからの信用がさらに低下している気がする。
本当なんだから。ブランテ様もアンティメテルに育てられたドラゴンと八体に実際に会ったって言ってたもん。
ドラゴンの子供の寝惚けブレスは大人のドラゴンと遜色ないってアンティメテルの中では有名な話なんだから。
それを受けて生き残ったご先祖様から血を繋いでくれたから
「もういいから早く食べなさいよ。野菜も」
「野菜はいらない。選り分けて。お肉は食べる」
「わがままいうな」
わがままはどっちよー。
あ、また植物突っ込んできた。今度はくたくたのほうれん草ね。ぺっ。
「吐き出すな!」
「植物食べれないって言ってるでしょ!」
あむ。もぐもぐ。あ、やっと干し肉来た。ごくん。
「もう! この年で離乳食食べさせてる気分よ!」
「一番下はいい気なもんだな! こっちは弟も妹も面倒見てきたぞ!」
「うっさい、この貧乏人!」
なんかまたリニクとシドが喧嘩してる。
そんでもってギムがすっごい落ち込んでるんだけど。ずーんっ、て。闇を背負ってる感じで。
「なぁ、ギムが流れ弾食らってんだけど」
「え、あ、いや、ギムは違うからね!? てかシドのバカがうるさいだけで!」
「いや、いいよ。家が貧乏農家なのは事実だからさ。はは」
んー? なんだろ、よく分かんないけどギムが死んじゃいそうなくらいに悲壮感漂ってる。
死んじゃ駄目だよ。生き物は生きてないと。
「ギム、悲しいの? ぎゅってしてあげようか?」
ちょっとくらいならサンダーバードの卵ちゃんも冷えないし、目の前で死にそうな子を見捨てられないし。
「ちょ、だめよ! だめだめ! ギムに近付かないでアンタは卵温めてなさいよ!」
なんて思ってたらリニクが血相変えた上で両腕を広げてわたしの視線を阻止してくる。
でもギムの命が掛かってるんだよ?
三人とも子供を産んだことないって言うし、それなら子供ってことでしょ? 子供が怖がってるなら大人が守ってあげないと。
わたし、強いからドラゴンにだって勝ってみせるよ。
でもリニクを突き飛ばすのも怪我させちゃうかもしれないしな。
「もう! 変なことばっかり言わないでよ! これだから人外は!」
リニクがぷりぷり怒ってる。人の子供の情緒、分からない。困っちゃうな。
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