ギムの魔力のカタチ
サンダーバードちゃんの卵に乗っかっている間はギムを育てるとは言っても指示を出すしか出来ない。
ギムが素直に言うことを聞く子で良かった。こういう子は成長が早くて伸び代も大きい。
ギムの魔力の巡りはちょっと複雑な感じ。世界に感覚を伸ばして掌握するカタチなのに奥まったところでぐるぐるした状態で仕舞われている。
普段は外まで伸びていかないから自我の混濁がなくて使ってない時は回復も早い。でも使えるように伸ばすのにはコツがいる。
「さぁ、ギム。もう一度。触手を伸ばすような意識で胸の奥にうずくまる自分を解き放つのよ!」
「ギムに変なこと教えんなー!」
あら、リニクが帰ってきた。彼女ってばいつもわたしの教え方がおかしいって指摘してくれる。人らしい表現ってむずかしい。
ちなみにギムと一緒にリニクとシドもちょっと鍛えて上げてる。
リニクは魔力がそんなに多くないけど肉体機能の向上するカタチでごく当たり前に使っているから物探しを通じて体の使い方を学んでもらってる。
シドはもっと単純でもう筋肉、肉体、物理って感じだから体を鍛えるために下山の時にシドが取り込みやすい魔力を持った重量物を背負わせている。
二人とも強くなる実感が持ててるのか怠けずにしっかり取り組んでてえらい。シドには最初拷問かって吠えられたけど。
拷問じゃないよ、鍛錬だよ。拷問だとしても拷問と言う名の愛情だよ。
「ねぇ、ギム! ほんとに変なこと教えられてない!? あんな見た目ロリな人外に開発されるとかギムの性癖が歪められたら困るんだけど!」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ、落ち着いて。そういうんじゃなくて本当に魔法の特訓だから」
鬼気迫るという表現がぴったりな怖い顔してリニクがギムに詰め寄っている。鼻と鼻がぶつかりそうな距離。
元気だなー。この子も元気に孵ってほしいなー。
いたいっ!?
うん、今日も元気だね! えらいから電撃は抑えてほしいな!
リニクも息が切れたようで肩を上下させて叫ぶのを止めている。頭から湯気が立ってるけどどんだけ全力で走ってきたんだろう。
リニクも体の使い方が分かってきてるから鯨の骨とかでかい木の枝とか幹とかで組まれたこのサンダーバードの足場の悪い巣の中でも走って転ばなくなってる。
このままいけば空中でも三歩くらいは跳躍出来るとわたしは見込んでる。もしくは無音で一瞬で獲物の背後を取るとか。
うんうん、渓流の中でエンペラーサーモンとやり合った経験が生きてるね。
あ、サーモンは脂が乗っててとても美味しかったです。
「ご馳走様でした」
「急になに。どれのこと言ってるの?」
おおっと、感謝の気持ちが口から出てしまった。リニクを戸惑わせてしまって申し訳ない。
リニクには鍛錬にかこつけて色んな食べ物捕って来て貰ってるもんね。どれもみんな美味しかったよ。
あのぷるぷるとした食感のサラマンダーとか絶品でした。
ちなみにリニクは山の中で狩りをしているので最初に言ってた三日に一回シドと交代するというのを毎回蹴ってる。
シドは体鍛えるしかないからわたしも教えられること少ないし、エンペラーサーモンとかサラマンダーとか一人で取って来るにも怪我しそうだから、適材適所で良いと思います。というか、そもそも口を挟むとリニクが怖い。
「えーと、とりあえずギム、いつもより魔力を伸ばす、みたいな? こう、よ。こう」
リニクの顔を伺いながら問題ない言葉で説明しようとすると途端に難しくなる。面倒だから体を使ってジェスチャーでいいや。
翼は抱いている卵から離せないから足を反らしながら伸ばして伝える。
「だからそういういかがわしい仕草すんな!」
だめ? リニクが厳しい。
そっか、服がめくれそうだから駄目なのかな。人って十歳を越えても純情なのね。気難しい。
こんなふうにいつも駄目出しされてギムの実践が遅れるからリニクには探索で離れてもらってるとこもあるんだよね。
でも今日の分のシノビヤマアラシはもう取って来ちゃってるしな。一日に課題二つも出したらここにいてほしくないって悟られて拗ねちゃいそうだし。
シノビヤマアラシって風を針から発生させて動く音も消すし矢は受け流すはずだし近付いても鋭い針とカマイタチで危ないのに、こんなに早くどうやって倒したんだろ。
ギムが苦笑しているけど、キミはそんな笑ってないで集中しなさい、集中。
ちょっと睨んであげると慌てて瞼を閉じて意識を集中させた。
わたしも目を凝らしてギムの魔力を見逃さないようにする。
じわりとギムの中で糸玉みたいに絡まっていた魔力が身動ぎして体の外へと向かい始める。
うーん、遅い。こんなに遅くちゃすぐ食べられちゃうぞ。
パッと、シュッと、解いてくれないと。そこは魔術の前準備でしかないんだよ、もう。
ギムの魔力はゆるゆると肌から飛び出てじわりじわりと宙に伸びていく。
ギムの額に脂汗が浮かんでいる。神経が外に露出したのと同じだから気持ち悪いのかもしれないけど慣れてもらわないと。
確かに外に作用する魔力の中ではフィードバックが鮮明なカタチだけど、その分、自分が直に世界に接続しているので応用が利くというメリットがあるんだ。
強い弱いで言えば、間違いなく強い魔力のカタチをしている。
人って個体によって魔力のカタチが大きく違うのは三人を見ててすぐ分かった。その中でギムのカタチはあの龍と同じカタチだ。
うーん、あのカタチって龍のスペックがあるから使えるもので人ってやっぱり進化の仕方が異常じゃない?
せめてドラゴンと同じカタチをしてたら魔力をぶっ放すだけで小さい山一つくらい消せるのにな。
あ、余計なこと考えている間にギムの魔力が風を掴んだ。よしよし、昨日より長く伸ばせてるね。
「いいよ。さぁ、昨日やったみたいにまずは風を流してみようか」
ギムは返事をする余裕もないみたいで歯を食いしばって唸りながら風を動かしていく。
それじゃ危機に陥った時に使い物にならないんだけど、使い物になってもらうために鍛えてるから仕方ないか。
ギムの魔力が最初は風車も回せないような弱々しくてゆっくりとした動きで風を流す。まさに微風以下。木の葉も揺れないやつ。
そこから徐々に風が加速する。その中心になっているギムの髪が激しく踊る。
ギムが魔力をもっと伸ばせるようになればもっと遠くを基点にして風を発生させられるんだけどな。そんなに近くだとギム自身が危ないんだけど。
「風が乱れてる。空が吹かせている風とぶつかるからだよ。それじゃ無駄に魔力を消費してすぐに息切れする。空の風と自分の風を合わせて、空の風に乗って行きたいとこに行くの」
それは空を飛ぶのと変わらない。ただ自分の体を乗せるのか、魔力で動かした風を乗せるのかの違いだけ。
元から風の方が風と良く一体化する。
でもギムはまだ自分勝手にしか風を動かせてないからぶつかった風同士が弾けて乱気流になって制御出来ずにいる。
「わがままに魔力を使わない。風に乗って、狙いたい相手に向かう時に勢いを付けて増幅するの。ほら、全然出来てない! 空とケンカしない! 生き物が空に勝てるわけないでしょ!」
ちがーう! もう、これくらいアンティメテルなら一時間で出来るようになるよ!
見ててもどかしくて翼が動いちゃう! ばさばさ!
「ギム! 風は万能なのよ。温度を上げれば灼熱の炎のように全てを焼き焦がせるし、温度を下げれば極寒の吹雪となって全てを凍てつかせる。でもそれはあなたが好き勝手する限り手に入らないの! 今吹いている自然の風は絶対にそこに行き着く、それを見極めて初めてあなたは風を万能に出来るの!」
解かる!? 解かるよね!? ギムは賢い子だもの!
でも頭で解ってるだけじゃ駄目なのよ!
魔力も命の一部。体と一緒。体を使うように魔力を使えるようにならないと頭で解ってることなんて一つも実現しない虚構の知識でしかないんだから!
真実に実現する智慧でなくてはあなたは世界の何も変えられないのよ!
生き物は死ぬものなんだから生きたいなら現実くらい変えて見せなさい!
それがギムのカタチなのよ!
「ちょ、ま、ストーップ! ストーップ! 巣が崩れそう! 二人とも止まれー!」
仕舞った。感情が昂り過ぎてわたしが暴風を発生させてしまっていた。反省反省。
リニクが叫んで止めてくれて良かった。
ギムも緊張の糸がぷつりと切れて、どさりと膝から崩れ落ちる。
でもわたしが無意識に暴れさせた風の中で立っていたってことはギムは自分の風で自分を守っていたってことね。
「ギム、良く立ってたわね。抗う気持ちをちゃんと風に乗せられたのはえらいわ」
「……はい」
「そこ! 二人していい話だったみたいにしない! こっちが死ぬとこだったんだから!」
リニクに怒られちゃった。しょんぼり。
「うお、なんだこれ、地震の後みたいになってんぞ」
そんなところにちょうど到着したシドが客観的に大惨事の痕跡を評している。
あ、えと、てへ。やりすぎちゃったかも。ごめんね。
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