ギムとおしゃべり

 ギム達にご飯の調達をお願いした訳だけど、これが思ってたのとは違う利益があった。

 ギムはずっと側にいてくれるから話し相手になってくれた。営巣地コロニーでは抱卵してる間もご飯届けてくれたブランテ様もお話してくれたし、うちの子達の卵だってころころとちっちゃくて気を付ければ抱いて持ち運べなくはなかったし、なんならまだ卵産んでない友達が会いに来たりしてくれたから退屈なんてしなかった。

 一人でじっと抱卵するのって鬱になるって初めて知ったよ。

 いたいっ!? なに!? 抗議!? キミの悪口じゃないよ!?

 くぅ、このビリビリ慣れないわぁ。元気に育っててママも安心だよ。くすん。

 ちなみにシドがいないのは当然だけどリニクも野宿するのに薪とか水場とかを探しに行ってて今はいない。

 ギムは物凄い知りたがりで、この子がどんな様子なのかとかアンティメテルのこととか訊いてきて目を輝かせてる。

 わたしもギムから人のことやサンダーバードの生態のことを聞かせてもらってる。

 でもサンダーバードのことは人にも良く分かってないらしい。あんまりに強いから特別な人しか遭遇して生還していないし、それも大体はサンダーバードを討伐に向かった時だから戦い方は伝わってるけどどんなふうに生きてるのかは知られていない。

 この山はギムの祖先が麓に村を拓いた時からサンダーバードが生息していたらしいけど、普段のサンダーバードは居場所をあちこちに変えて実物を見るのも珍しかったとか。遠目に雷が出ているのを見てサンダーバードの存在を認識して村に近付かないように祈るくらいだったって。

 これはこの子が孵った後も手探りで育てていくしかなさそう。

 ただサンダーバードは良く鯨を捕ってきて食べてたらしい。サンダーバードが食べた後の骨とか髭とかを使ってギル達の村は工芸品や武器を作って売りに出して、田舎にしては財産を溜め込めているとか。

 そうそう、ギムとシドは男で、リニクだけが女だっていうのも驚いた。人って生まれた時に性別が決まってて変わらないのね。それに三人とも十四歳とか十五歳だっていうのにまだ子供を産んだ事がないんだって!

 人って成熟がゆっくりなのね……。子供産む前に死んじゃったらどうするんだろ。

「アンティメテルってすっごい不思議だね。子育てするのは何か理由があるんだと思ってたのに、そうしたいからって。しかもみんながそうなんでしょ?」

「逆に子供を見て守りたいって思わないの? 子供いないと未来に自分の血を繋げないでしょ?」

「それはそうだけど……それに君達はこうして違う種族の卵まで育てようとするし」

「人も家畜を育てるって聞いたよ?」

 そんな当たり前なことにいちいち悩んでやるかどうか考える時間を作るのってもったいなくない?

 それに可愛い子供を育てたら甘えてくれてとっても可愛いんだよ。ぐいぐい一生懸命に体を擦り付けてきて可愛いったらないんだから、もう!

 さてはその歳でまだ子育てしたことないから子供の可愛さが分からないんだな? 損してるな。

「家畜は生きるために育ててるだけだよ」

 ほら、またそうやってドライなこと言う。冷たい。

 子供は温めてあげないと孵らないんだぞ。

「それにぼくらは冒険者になるつもりだしね」

「冒険者。旅をする人達のことね」

 ブランテ様に教えてもらった事がある。

 人は普通、一生同じ営巣地コロニー――村とか都市とか呼ばれるところに定住するけど、中にはアンティメテルみたいに旅がしたくて我慢出来ない個体もいる。そういう人は冒険者となって危険な未開の地へ入りこんで旅をして身一つで生きていくんだって。

 でも人は一人だと出来ることに限界があるから複数人で連れ立って群で旅をする。

 せっかく旅に出るのに誰かと一緒だと行きたい方に行けなかったりするのに、変なの。

「そうだね。それでシドなんかはサンダーバードを倒して名を上げてやるって息巻いてたんだけど」

「うちの子に手を出すなら恩人でも殺しますが?」

「……こわいからそんなことしないよ。それに元々サンダーバードの討伐だって危ないからぼくは反対だったんだ。村から出たこともない三人じゃ返り討ちに遭うだけだもの」

 まったく、びっくりすること言わないでほしい。

 それにサンダーバードが襲ってくるでもないのにどうして倒すの? 食べないんだよね? 名前を上げるって、物でもないのにどうやって持ち上げるつもりなの?

 良く分かんない。戦うのは生きるためだけでいいよ。子供を守るだけでも大変なのに、自分から他の生き物に喧嘩売ってどうするの。絶滅願望でもあるの?

「それにぼくは冒険者っていっても危険なことをして稼ぐのとか有名になるのとかは興味ないんだ。ただ知らない物を見たり知ったりしたいだけなんだ」

 うん、ギムはそんな感じ。

 好奇心強い子って一見物静かでもいきなり目の色変えて飛んで行っちゃったりするんだよね。

 レイラも子供達放っぽいて雲に突っ込んだりしてないだろうか。あなたの子供はわたしの孫なんだからちゃんと育ててくれなきゃ嫌だよ。あなたの子は三人もいるんだからそれだけ気を配らないといけないんだからね。

「二人はそんなぼくが死なないように付いて来てくれて……ぼくは弱いから……」

 なんかギムが勝手に落ち込んで顔を俯けてる。

 十四歳なのにメンタル弱いぞ。わたしより十歳近く年上なのにそんなんでだいじょうぶ?

 それにギムが弱いってご両親は何を教えてるの?

「シドやリニクよりギムの方が強いじゃない、魔力」

「……え?」

「ギムの魔力の流れはちょっと複雑だから使いにくいかもしれないけど、もう十四歳でしょ? ちゃんと毎日練習してるの? 三歳を過ぎたアンティメテルだって毎日羽搏くからその内空も飛べるようになるんだよ?」

「え、ちょ、ちょっとまって。ぼくに魔力?」

 ギムが不思議そうな顔してる。

 え、何、もしかして自分の魔力を把握してないの? そこから? 育児放棄しすぎじゃない? よし、キレた。わたしの目に付く範囲で子供の教育怠るとかいい度胸だな、人よ。

「あるよ。わたしがこれから毎日鍛えてあげる。だいじょうぶ、コカトリスくらいなら余裕で殺せるようにしてあげる」

「コカトリス!?」

 ん? コカトリスじゃ不満? んー、フェニックスを倒すくらいだと血反吐出るけど、それくらい向上心があるってことかな。

 ギムったら、貪欲な子ね! 悪くないわ!

「分かった! フェニックスを倒すにはギムだけの魔力じゃ物足りないから世界を動かす魔法を覚えていこうね!」

 ブランテ様はアンティメテルだから可能な技で他の生物には難しいって言ってたけど、ギムがやる気になってるんだもの! 答えてあげるのが大人の役目だよね!

「いよしっ! やるぞー! おー!」

「え、あ、いや、えぇ?」

「ギム! 声がちっちゃい! 何事もまずは気合から! やるぞー! おー!」

「お、おぉー?」

「もう一回やり直し! おー!」

「おー!」

 よし、声出るようになったね! その調子だよ!

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