放置卵!?
ひゃっふーい!
気持ちいいー!
さいっこー!
わたしが風だぁあー!
子供達ー! みんなー! わたし、生きるの楽しんでるよー!
今何処飛んでるか分かんないけど!
ちっとも知らない空を飛ぶのってすっごい解放感あるー!
これはみんな旅立つわ!
みんなと一緒にいる
この胸いっぱいに満たしてくれる高揚感! 何処までも飛んで行ける解放感! 何時になっても帰らなくていいっていう自由!
風が吹くままに体を乗っけて流されるのすっごくいい! 楽! 速い! 無敵! 最強! 今ならわたし、龍と激突しても勝てる気がする!
あ、ごめん、やだ、別に空で龍とケンカとかしたくない。ドラゴンでもごめんだけど。むしろヴィーブルでも勘弁。
穏やかに平和に生きていきたい。
ただスピードを感じたいだけなの。誰よりも速く、誰にも邪魔されない。これ大事。
でも行先が決まってるとさ、逆風でも頑張って突っ切らないといけないじゃない。
今はそんなこと気にしなくていい。行き先とか知らないもん。
風の向くまま気の向くままってやつよ。さいこう。
はぁー……なにこれ。
生きるのだけで大変なんだからそんな苦労しちゃダメだって。
わたしもいつか
まぁ、帰るのは三十年後とかで全然いいけど。なんなら寿命まで飛んでたいけど。
なんでアンティメテルの翼筋って三十路過ぎると弱るんだろ。やだよー、一生飛び続けたいよー。
ブランテ様達ってばほとんど飛べなくなっても暴れ出さないの偉いと思う。
今のわたしが飛べなくなったら発狂する自信ある。
おや、風向きがちょっと変わった。これはあの高い山に向かってる?
山越え? 早速山越えですか? 標高五千メートル越え行っちゃう?
わくわくが止まりませんが、いきなりそんなアトラクション楽しんでいいんですか?
いいんだよ、風がそっちに向かってるんだから。
いやっほーい! これだから空の旅は最高にテンション上がるのよー! 止めたくなーい!
風が上がっていくのはこれから十秒後。そこで翼を畳んで体のシルエットを細くする。
そこからは急激な上昇気流に乗って、推定一分足らずで頂上を越えちゃうやつだ。
やば、何かにぶつかったら死ぬ速度だよ。楽しみが過ぎる。そうだよ、速さってのはそれくらいで空気の鋭い塊を突っ切っていく実感が堪んないんだよ。
くぅ、分かってるー!
無窮の果てまで、さぁ、行くぞぉっとぉ?
え、なんだろ、今なんか視界に気になるものが過ぎった感じがした。
これから越えようとしてる山の……なんだ、何?
最強のスピードよりもわたしが気になっちゃうものが何かある?
……あった。あるわ。全然ある。何あれ、おかしいって、どういうこと。
デカい生き物の骨を組み上げて作られた鳥の巣。骨って時点でなんだよそれって思うけど構造的に鳥でしょ、あれ組んだの。
んでもって? なに? なんで卵があるのに親鳥いないの? 育児放棄? わたしの目の前で?
ふざけんなよ。
いくら楽しくたってこんな風に乗ってる場合じゃない!
閉じかけた翼を肩いっぱいに広げて、足を斜めに傾ける。
乗ってた強い風の流れからするりと降りて、ふわりと空気を掴む。
一度、二度と羽搏いて軌道修正。そこから空気を手離して滑空に入る。
落ちるのは突風に乗るのと同じくらいに速度が出る。
高度も向きもばっちり。よし、あの卵に向けて一直線だ。
巨大な肋骨の尖った先が突き出しているのをひらりと躱して、地面に激突する直前に全力で翼を打って急ブレーキ! 完璧!
とん、と軽やかに巣の中に敷き詰められた枝に足を乗せる。てかこの枝太っ。この巣の主、どんだけデカい鳥なのよ。
卵の大きさもそれを物語ってる。わたしが翼を思いっ切り広げて被さっても下の方がちょっと出ちゃうくらいに大きい。
この子を抱卵するのにわたしだけの体温だけで足りるのか不安はあるけど、でもやらないよりはマシ。
卵に乗っかって翼で覆うけど、よかった、まだ温かい。間に合ったんだ。
ふぅ。これでこの子が孵るまで温めれば大丈夫。アンティメテルなめるなよ、魔力はたっぷりあるんだから保温くらいやってみせるわ。
……あれ? でもちょっと待って。
この子、孵るの何時? わたし、抱卵期間を乗り越えるための栄養、蓄えてないんですけど。
餓死する前に孵ってくれるかなぁ……。あ、ちょっと涙出て来た。
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