あーなるほど、デキちゃったでヤンスね。
「ただいま〜」
「ただま〜」
家に帰ったけど、誰もいない。
きっとヤンスは仕事だろう。必然的に、僕とくいなだけの空間になってしまった。
———違う!! なんでそんなこと意識するんだよ!!
「カレー、カレー……!」
一方くいなは、堂々とソファを占領してソワソワしている。不思議とその姿には、愛着を覚えずにはいられなかった。
「まだ3時だよ、もうちょっとしてからだからね、ご飯は」
「むー」
むー、じゃない。まだ3時だ。今ご飯食べてどうするつもりなんだ、くいなは。
とりあえず……夕飯の準備か……
◆◆◆◆◆◆◆◆
とりあえずヤンスも帰ってきて、夕飯のカレーも食べた。今ヤンスは風呂、くいなはああしてソファで丸まってる。
僕もこの後風呂に入る予定だ。そのまま歯を磨いて就寝。特に明日、僕に仕事が入っているわけじゃないけど、それでも早く寝るのは大切だ…………ん?
「はっ……セン?! いま……何時?!」
さっきまでまるでナマケモノのように微動だにしなかったくいなは、突然目を見開いてそのように口にした。
「何時……って、7時……47分?」
「〜〜〜〜っ!!」
声にならない声を上げ、くいなは全身の毛を逆立たせる。
……そして、そのまま外へ出ていってしまった。
「ちょっ……待っ………………はぁ……」
こんな夜にどこに出て行くつもりだろう……なんて考え始めた頃には既に、くいなの姿は見えなくなっていた。獣人の身体能力恐るべし。
「……って……ことがあって……」
そんな一連の不可解な出来事をヤンスに話した途端、ヤンスはその細い手で机を叩き———、
「あーーーーなるほど……
デキちゃったでヤンスね、それぇ〜……」
悔しそうに目を瞑りながら、そう零した。
「デキ…………た????」
「そ。デキたでヤンスね、多分」
「え、多分、多分……って…………??」
———いやぁ〜……確かに、こんな夜に外に飛び出して……しかもまるで待ち合わせしているかの如く時間を気にして……
ってやってるもんだから……予想できてたのかもしれないけど……
「くいなのヤツ、ついにセン以外で男がデキちまったってことでヤンスよ、多分」
「……」
「……なに、別に不思議なことじゃねえでヤンス。
大体センもまだまだ若いんですから、コレからでヤンス…………よ?」
「う…………うぅ……っ……」
どこか飄々と話すヤンス。
でも僕は、そんなヤンスの足元に、既に泣きついていた。
「ぅう……ぅううううううぅぅ……
じ……じゃあ……くいなは……くいなは……ぁあああああああぁぁぁ……」
「お……落ち着くでヤンス! まだ決まった訳じゃないでヤンスよ!」
「ほんとぉ……?」
「いや……本当もなにも……まだただの予想でヤンス……」
っあーーーーー、ダメだぁ……目元がウルウルしててぇ……何も見えないぃ……
「ってか、やっぱそんなにくいなのことが好きでヤンスかぁ?」
「……………………うん」
「あちゃ〜……」
ヤンスは少しばかり頭を抱え、
「じゃあ、調べに行くでヤンスか」
「……むりだよ」
だって……わざわざあんなことやこんなことヤってる場になんて行けるわけないよ……
「じゃあ……盗聴機を作るのはどうでヤンスか? ほら、最近流行りの……魔力波式のアレでヤンスよ」
「…………作れるの……?」
「まっかせてでヤンス」
◇◆◇◆◇◆◇◆
それから1週間……僕とヤンスは、くいなに勘付かれぬよう、仕事の合間を縫って盗聴機を作り続けた。
その間もくいなは、毎日20時には必ず出て行っている。時間も完全に決まっている。
同時並行で、僕とヤンスはくいなのいつもの目的地を探っていた。
結果、(命からがら)辿り着いたのは、王都の一角にある小さな古ぼけた服屋。
ここの店主はというと……あんなに小さく、みすぼらしい店の外観とは似合わないイケメン高身長店主…………ああああああ終わったぁ…………
……まあ、そりゃあ、惹かれるよなぁ……
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