もしも願いが叶うなら〜少年、決意の果てに〜

月影 弧夜見

日常、そして現状。

『亜人———ですね』


「はい?」


『いやだから、亜人です。その中での獣人です。……いやーーーー、もう絶滅したはず……なんですけどねー……といい……』


「……ふぅ」


「はあ……絶滅した…………って言われても……ねえ……?」





 ———魔王との戦いから3ヶ月。あと、魔武道大会から数週間。


 僕とくいなは、共に王都のとある医者に診てもらっていた。


 なんでも、魔王軍戦時中にも活躍した軍医でもあるらしく、魔王軍前線においても活躍したとか。


 そんな老いぼれの医者、アルイさんが発した言葉がこれだった。


「ぼ……僕が……亜人…………??」


 ———事の発端は、3ヶ月前の魔武道大会。


◇◆◇◆◇◆◇◆





「……させない。


 ……もう、絶対に。やらせない。


 そしてお前を、絶対に、許さない……!」


『変わった……!

 神気反応も、全て変質……なんだコレは、まさかこんなに楽しめそうなヤツが残っていたとは……!』


 帝都オリュンポスよりの使者———ヴォレイ。


 魔武道大会の最中、僕はソレと大勝負を繰り広げた。


 アレだけ慕っていた仲間たちが、僕の心を支えていてくれた勇者たちが、倒れていく中。


 そんな中、僕はその身に眠る真の力を覚醒させた。



「その……程度か……何度来た、って無駄、だ……


 その程度で…………っ、僕には、……勝てないっ!」


 髪は紅に染まり、額からは肥大化したツノ……がその皮膚を破り、僕の姿はどこか———禍々しいものへと変貌していたらしい。


 でも、あの状況では、その力に頼るしかなかった。その末の勝利だった。



 でも、力を使った代償は、やはり大きい。

 魔武道大会から1週間はずっと寝たきりだった。高熱を出し、ひたすらくいなとヤンスに看病しててもらったっけな。


 その末に———前の僕と変わったところがあった。


 まず、髪の一部が勝手に紅に染まったこと。別にこういうオシャレでもなんでもない。単純に地毛だ。


 もう一つは、例のツノが(サイズダウンはしたけど)未だに額に残ってること。こう、ちょこんと生えている。寝づらいのでやめてほしい。



 それで色々気になって、今日こうして医者に診てもらったんだ。


 いや、まあ、僕自身、この現象が普通のことじゃないことくらい理解していた。


 でも、まさか。僕自身、自分のことは人間だと思っていたから、まさか『人間ではない種族です』と言われるとは思ってもみなかったのだ。



 

◇◆◇◆◇◆◇◆


 そんなこんなで、今は帰路に着いている。

 僕たちの家は王都の中にある。魔王戦後、王様が直々に家を建ててくださった。


「ねえくいな、今日の晩ご飯、何にしよっか」

「……カレー……」


「昨日作ったでしょ、カレーは」


 僕とヤンスとくいな、この3人で家に住んでいる。

 基本的な家事は……なんと僕だ。


 多分あの中でも、一番最年少(14歳)であるにも関わらず……だ。


 くいな(18歳)は何もしないどころか、普段はソファで丸まって狐のように寝ている。

 いやまあ、狐の耳とかが生えた獣人だから間違っちゃいないんだけど。


「おいしい……ものは、いくら食べても……嬉しい」


「はは……そっか……じゃあ今日も、カレーにする?」


「する…………!!!!」


「っふふ」


 その嬉しそうなくいなの顔に、僕も思わず胸が熱くなってしまう。

 こんな感覚、前まで味わったことがなかった、だけど———、




『ふっ……ソレが恋というものだ、セン』


 ……ってイデアさんにも言われたし、恋……ってことでいいのかな……


 僕が……恋してる……恋してる……


「……セン?」

「あ……」


 気付いたら、僕の足は止まっていた。

 考え伏し始めていた僕を覗いた、そのくいなの顔に、また胸が熱くなる。


「だいじょう……ぶ?」

「あ、ああ! いや、大丈夫……だよ? はは……」


 ダメだな、少し恥ずかしい。やっぱりどこか、直視しようと思うと目を背けてしまう。


 なんでだろう……やっぱり恥ずかしいから、かな……


「……よかった」


 が、そのくいなの安堵に、僕は違和感を覚えた。


「よかったって、何が———」

「……あの時、みたいに……倒れられたら、困る……」


 あの時、か……

 魔武道大会後、高熱を出す直前———普通に生活していたら、くいなの前でぶっ倒れたんだ。


 本当に、悪いことしたな、あの時は……


「ああ……心配させてごめんよ。……帰ろっか」

「……うん」

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