第48話 誰か応募してやってくれ

 転移ポータルで地上に戻る直前で、俺たちは配信を終了した。


「というわけで、このスキルの書だが、恋音に読ませたいと思っている」

「え、わたし!? お、おじさんが読むんじゃ……?」


 先ほど視聴者に向けて宣言したことを信じたらしい恋音が、びっくりした顔で聞いてくる。


「あれは嘘だ。ああ言っておけば、俺が使ったということになるからな。まぁスキルとして獲得してしまったら、基本的には誰もどうにもできないんだが、念のためだ、念のため」

「で、でも、おじさんが使った方が、きっと有意義だと思うし……」

「いや、そもそもそのスキルはすでに持ってるんだ」

「持ってる!?」


 大学時代にまったく同じスキルの書を入手したのだ。

 同一のスキルを二つ同時に所持することはできないので、読んだところで何も起こらないだろう。


「さ、さすがケンさんですね……まさか、そんなスキルまで取得済みだなんて……」


 金本美久が苦笑している。


「そ、それなら、わたしじゃなくて、美久先輩に……」

「私はいいよ。そもそも前回、隠密のスキルをいただいちゃったしね」


 立飛ダンジョンのボスを倒して手に入れた隠密のスキル書。

 それを彼女にあげたのだが、どうやら無事にスキルを獲得できたようだ。


「読んでも入手できないときもあるし、もし恋音が読んでみてダメそうだったら、次は彼女にあげればいい」

「わ、分かった……で、でも……何億もするようなスキルの書を……わたしなんかで……」

「何を言ってるんだ? 恋音の命の価値は、お金に代えられるようなものじゃないだろ?」


 俺は断言する。

 たとえどれだけお金を詰まれようとも、可愛い姪っ子の命の方が何倍も大事なのだ。


「……恋音ちゃん、こんなに素敵な叔父さんがいて羨ましいなぁ」


 金本美久がボソッと何かを呟く中、恋音は決心がついたようで、


「じゃ、じゃあ、読んでみます……っ!」


 スキル書の最初のページを開いた。

 直後、中から鮮烈な光が弾け、パラパラと自動的にページがめくられていく。


 どうやら無事にスキルを獲得できそうだ。

 獲得できない者が開いた場合、中身が白紙になっているからな。


 やがて最後のページを閉じると、光が収まった。


「……び、びっくりした」

「これでスキルが手に入ったはずだ」

「あんまり実感はないけど……」

「レベルアップでもスキルを獲得しているかもしれないし、地上に戻ったら一度鑑定してもらった方がいいだろう」


 ゲームと違って、簡単に自分のステータスを確認することはできない。

 鑑定というスキルを持っている人に視てもらわなければならないのだ。


 鑑定にもレベルがあって、細かいステータスを知るには相応のお金が必要になるが、簡易なものであれば管理庁の地方局に赴けば、安価で受けることが可能だった。


 ……そういや、俺はもう何年も見てもらってないな。

 基本的には当時と変化していないと思うが、生憎と昔のこと過ぎて詳細まで覚えていないので、どこかのタイミングで鑑定してもらいに行った方がいいかもしれない。



    ◇ ◇ ◇



【新Sランカー】ケンちゃん食堂part54【姪っ子がアイドルデビュー】


無名の探索者

 久しぶりの美久チャンネルとのコラボ、相変わらず情報量多かったなw


無名の探索者

 アイドルの姪っ子登場に深層の魔物でのパワーレベリングに隠しボス討伐。うん、並べただけで盛りだくさんだ


無名の探索者

 五時間くらいやってたかと思ったら、せいぜい三時間くらいでビビった


無名の探索者

 それなw


無名の探索者

 ケンちゃんネルの同接は最終的に70万超えてた


無名の探索者

 登録者数も500万越えだろ? もう完全にトップXチューバーじゃん


無名の探索者

 てか、姪っ子が鳳凰山の新メンバーとか、すげぇ話


無名の探索者

 恋音ちゃん清楚でかわいいし人気でるやろな


無名の探索者

 俺だったら知り合い全員に自慢する


無名の探索者

 そういう叔父さん嫌だわー


無名の探索者

 まだ父親なら許せるけどな


無名の探索者

 父親でも嫌です。叔父ならなおさら


無名の探索者

 安心しろお前らの親族がアイドルになる世界線ないからwww


無名の探索者

 他のニシダ一族のことが気になる


無名の探索者

 ニシダは独身なんだっけ?


無名の探索者

 独身のはず


無名の探索者

 そりゃ独身だろ


無名の探索者

 逆に結婚してると思う?wwwwww


無名の探索者

 酷い言われようで草


無名の探索者

 妻子がいたら脱サラして飲食なんかやろうとせんやろ


無名の探索者

 普通にそういうやつ結構おるで


無名の探索者

 いるよな。俺の知り合いもそれで失敗して奥さんと離婚した。哀しみ


無名の探索者

 それ俺だ(吐血)


無名の探索者

 お、おう……強く生きろ……


無名の探索者

 そういや今日また店に行ったら、アルバイト募集してた


無名の探索者

 マジか? ついに一人じゃ回せなくなったか


無名の探索者

 むしろ今までよく回せてたよな……


無名の探索者

 ニシダにも限界があるってことか


無名の探索者

 何人くらい雇うんやろ?


無名の探索者

 時給いくら?


無名の探索者

 時給は1000円


無名の探索者

 安いなw 一応都内だろ?


無名の探索者

 最低賃金ギリギリじゃん


無名の探索者

 マジか。さすが東京だな。うちの近くのコンビニなんて800円だぞ


無名の探索者

 それ最低賃金以下じゃね?


無名の探索者

 お前らチャンスじゃん。どうせニートばっかなんだろ?


無名の探索者

 ニシダのまかないがついてくるなら考えてもいいな


無名の探索者

 応募したいけどちょっと遠いんだよな


無名の探索者

 働いてるニートだから無理


無名の探索者

 時給せめてもうちょっと欲しいよな


無名の探索者

 1000円は安すぎ


無名の探索者

 交通費の支給は必須


無名の探索者

 有給休暇ある?


無名の探索者

 お前らニートのくせに要求多すぎだろwww


無名の探索者

 今回のところはやめておくかな


無名の探索者

 またの機会にするわ


無名の探索者

 俺も今回は見送ろうと思います


無名の探索者

 ちょうどたまたま都合が悪くて……


無名の探索者

 誰か応募してやってくれwww

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る