第47話 奇跡のようなスキルだ
ダンジョンには、隠しボスと呼ばれるモンスターが存在することがある。
扉の奥で待ち構えていた、亀の身体に獅子の頭を持つこの魔物は、ここ井の頭ダンジョンの隠しボスだった。
「「お、大きい……」」
金本美久と恋音が巨体を見上げて呻く。
タラスクという名のこの亀に似た魔物は、おおよそ、全長20メートル、幅15メートル、体高15メートルで、ボスに相応しい堂々たるサイズ感がある。
立飛ダンジョンのボス、キングデスクラブよりも巨大だ。
「隠しボスは下手をすれば、そのダンジョンのボスより強いことがあるくらいだからな」
「「ボスより!?」」
「こいつはフォレストドラゴンと比べれば全然雑魚っぽいけど」
井の頭ダンジョンのボスは地下30階にいる双頭のフォレストドラゴンだ。
「まぁ俺は迷宮暴走中の強化されたボスしか知らないから、それとの比較だが」
〈そんなのと比べちゃダメだろ〉
〈先生! 比較対象がおかしいです!〉
〈てか、この隠しボス、トップ探索者パーティが発見してギリギリ討伐したやつのはず〉
〈どう考えても帰り道で立ち寄るようなとこじゃないwww〉
「そ、それでケンさん、どうしてこれが近道になるんですか……?」
「隠しボスもボスだからな。倒すと地上直通の転移ポータルが出現するんだ」
〈普通は近道じゃない件〉
〈本来なら十分な準備が必要だしなぁ〉
〈ニシダしか使えない近道〉
〈一般探索者には参考にならんな〉
「では、時間もあれなのでさっさと倒します」
俺は視聴者向けにそう告げながら、包丁でタラスクの頭を斬り落とす。
「硬い甲羅に守られた身体はなかなかダメージを与えられませんが、首はそこまで硬くないので割と簡単に切れます」
ちょっとした岩くらいあるタラスクの頭部が、大きな音と共に床に落下し、ゴロゴロと転がる。
〈えええええええええええええ〉
〈やべえええええええええええ〉
〈瞬殺ううううううううううう〉
〈隠しボス弱すぎてワロタ〉
〈いやニシダが強すぎるんだよ〉
〈なるほど、首はとても柔らかいので狙いどころ、と〉
〈絶対柔らかくないw〉
〈騙されるなよ〉
「いや、まだ死んでない。恋音、トドメを」
「え? う、うんっ」
〈首切られてもまだ死んでないんだ……〉
〈確かに目が動いてる〉
〈さすが隠しボス……生命力半端ねぇ〉
〈恋音ちゃんの経験値になれー〉
恋音が戦斧を振り上げ、ボスの頭に思い切り叩きつける。
ガンッ!
「硬いっ……」
〈めっちゃ鈍い音した〉
〈恋音ちゃんの斧を跳ね返したぞ?〉
〈ほら、やっぱ硬いじゃん〉
〈息を吐くように嘘を吐くからなぁニシダは〉
〈首と頭は違うだろ〉
「大丈夫、懲りずに何度かやってみろ」
「う、うんっ」
恋音が何度か戦斧をボスの頭に振り下ろしていると、ついに頭蓋が砕ける音がして、ボスが絶命する。
パンパカパンパカパーンッ♪
「お、倒せたみたいだな」
〈恋音ちゃんやったね!〉
〈相変わらずアホみたいなファンファーレ〉
〈隠しボス倒しても鳴るんか〉
〈ダンジョン攻略としてはカウントされないんよな?〉
そうして転移ポータルと宝箱が三つ出現した。
「隠しボスの討伐報酬だ」
〈お宝ゲットだぜ!〉
〈そういやフォレストドラゴン倒したときの報酬はどうなったんだろ?〉
〈俺も気になってた〉
〈宝箱どこに出現したんだ?〉
「そうですね、ボスを倒したのは地下20階でしたけど、攻略報酬は地下30階の本来のボスの居場所に出現したはずです。管理庁によれば、俺に入手の権利があるそうですが、忙しくて結局取りに行けてないままになってます。誰かに横取りされる恐れはありますけど、まぁそれならそれで仕方ないかなと」
〈マジか。今から取ってこようかな〉
〈無理だろw 深層だぞw〉
〈ボスもいるしなぁ〉
〈確か誰かが開けるまで消えない仕様なんだっけ〉
〈じゃあまたボスを倒せば、二回分ゲットできるってこと?〉
〈キャリーオーバーじゃんwww〉
〈横取りしてもダンジョン出るときに報告しないとだからバレるんじゃね?〉
〈いや、ボスの攻略報酬は申告が任意なはず。特別に税金かからないそうだよ〉
コメント欄が騒がしくなる中、俺たちは三つある宝箱を順番に開けていった。
「これは武器か。魔法職向けの杖のようだな」
割と性能の高そうな杖だが、俺たちにはあまり必要ない武器だ。
「こっちはハイポーションです!」
金本美久が宝箱の中から輝く液体の入った瓶を取り出す。
「最後のは……えっと……本?」
三つ目の宝箱を開けた恋音が恐る恐る取り出したのは、一冊の書物。
「スキルの書だ! 読むとスキルが手に入るやつだよ! ねね、恋音ちゃん、どんなスキル?」
「不死鳥の羽……? って書いてあります」
「不死鳥の羽!? レアスキルじゃないか!」
俺は思わず叫んでいた。
「一度だけ死んでも生き返られるっていう、奇跡のようなスキルだ」
「「死んでも生き返る!?」」
「ああ。恐らく誰もが喉から手が出るほど欲しいスキルだろうな」
〈ヤベェの出た〉
〈ダンペディア調べたけど、このスキルの保有者、全世界に3人くらいしかないっぽい〉
〈争奪戦必至〉
〈独裁者とか絶対欲しがるやつやん〉
「たぶん値段が付けられない。億どころじゃないだろう」
「そそそ、そんなに!? あわわわっ」
恋音が慌ててそれを俺に押し付けてくる。
〈ここで使ってしまった方が平和〉
〈何十億とか稼げるかもしれないのに?〉
〈やっぱ争いは避けたい〉
〈使うなら恋音ちゃんが使ってほしいな〉
コメント欄の懸念はもっともだろう。
これの取り合いで死人が出てもおかしくない。
「そうですね。割とシャレにならないレベルの争いが起きそうなスキルなので……今すぐ俺が使おうと思います」
〈お前が使うんかい!!〉
〈お前が使うんかい!!〉
〈お前が使うんかい!!〉
〈お前が使うんかい!!〉
〈お前が使うんかい!!〉
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