第32話 割とずっと脳筋だろ

「うーん、どう考えても魔物が多すぎる気がするな」


 深層を探索すること約30分。

 やはり俺には魔物の数が異常だと思えてならなかった。


「とはいえ、深層なんて二十年近く前のことだし……俺の記憶が間違ってる可能性も」


〈いや多いって魔物!〉

〈さっきからもう何体倒した!?〉

〈こんなんモンスターハウス並みだろ!〉

〈でも深層はこんなもんなんじゃね?〉

〈深層の情報が少な過ぎて判断できん〉


「まぁでも、念のため伝えておいた方がいいか。……どうやって? いや、もしかしたらこの配信を管理庁の人たちが見てるかも。おーい、管理庁の人~、聞こえてますかー?」


 反応はない。

 ドローンカメラは俺の映像を撮影するだけの機能しか持たないので当然だ。


〈ニシダが管理庁とコンタクト取りたがってる〉

〈管理庁さーん〉

〈いえーい、管理庁く~ん、このコメント見てる~っ?〉

〈普通にこの配信見てると思う〉

〈てか、こんな異変が起こってたら試験継続できんの?〉


 返事はないものの、俺はそのまま呼びかけてみた。


「えーと、現在、深層はこんな感じで普段よりちょっと危険かもしれません。一応、他の受験者たちにも警戒するようお伝えいただけたらと」


〈ニシダ以外は不安よな。管理庁、動きます〉

〈Sランクへの昇格試験だから深層を探索した経験くらいはあるだろ〉

〈けどさすがに不意打ちで魔物に群がられたらキツいんじゃね?〉

〈迷宮管理庁です。DMをご確認ください〉

〈おっ、管理庁からだ〉

〈ちゃんと通じてたな〉


 コメントを見て、俺はDMを開いてみた。

 その中に管理庁からのものと思われるDMが届いていた。


『状況は把握しております。現在、注意喚起のため、他の受験者たちとのコンタクトに努めているところです。ただし連絡手段が限られており、難しい可能性が高いです。もしよろしければ西田様には引き続き深層を探索いただき、異変の原因調査をお願いできないでしょうか?』


「なるほど。俺もこの配信とDMがないとコンタクトを取れなかったもんな」


 ダンジョン探索は基本、自己責任だ。

 イレギュラーな事態が発生した場合も自分で対処しなければならず、ある意味その対応力もSランクに求められる内容ということだろう。


「管理庁から調査をお願いされたので、俺はもう少し深層を探索してみようと思います」


〈管理庁から信頼されてるニシダ〉

〈実質もうSランクだからな〉

〈イレギュラー発生中の深層でも余裕で探索してるし〉

〈他の受験者たちのためにも原因を見つけてくれ~〉


「さっき転移トラップを見つけたし、それでもっと下に飛んでみよう」


 その転移トラップの場所まで戻って、俺はそれを踏む。


 転移した先は森の中だった。

 先ほどまでのおどろおどろしい空気は鳴りを潜め、ただ延々と緑が広がっている。


「深層の地下26階より下に来れたみたいだな」


 今回の目標であるクイーンタラントラが現れる可能性のある階層だが、今はそれどころではない。


「このまま最下階の地下30階まで進んでみるとするか。迷宮暴走の可能性もあるからな」


 ダンジョンで発生する異変はいくつか存在しているが、その中で最悪クラスのものが迷宮暴走だ。

 その名の通り迷宮が暴走する現象で、発生すると魔物が増えまくったり、強化されたりしてしまう。


 暴走を止める方法は一つ。

 最下階にいるボスを討伐することだ。


 迷宮暴走は、基本的に下の階層から順にその影響が生じていく。

 そして各フロアに魔物が増え過ぎると上のフロアへと進出するため、やがてダンジョン全体が下階の魔物で埋め尽くされることになる。


 ここ井の頭ダンジョンであれば、上層まで深層の魔物ばかりになるということで、こうなるとボスの討伐難度が格段に上がる。


「今は恐らく地下28階くらいだと思うので、転移トラップではなくて階段を見つけて下りていこうと思います」


〈なんでだろ?〉

〈転移トラップの方が早くね?〉

〈ニシダの言うことだ。何か理由があるんだろ〉

〈てか、もっと地下に行く気なのか〉


「転移トラップを見つけるのにも時間がかかるので、あと二階分程度なら階段ルートでも大して変わらないかなと。それに深層は各フロアが非常に広いですが、その変わり遮るものがないぶち抜き構造になっていることが多いため、ひたすら走り続けるだけで階段まで辿り着けますから」


〈ここにきて脳筋プレイ〉

〈割とずっと脳筋だろ〉

〈その階段の場所を見つけ出すのが大変なのでは?〉


「ちなみに階段の位置はだいたい分かります。階段に近づくほど魔力濃度がほんの少しだけ高くなっていくので」


 そんな話をしながらも、俺はすでにその方向を特定していた。


「それじゃあ、階段に向かうとします」


 俺は地面を蹴って猛スピードで走り出した。


〈へ?〉

〈消えた?〉

〈いや向こうにいる!〉

〈いつの間にあんなところに!?〉

〈ドローン急げ! 置いてかれるぞ!〉


 無論、鬱蒼と樹木が茂る大森林だ。

 直線ルートで進んでいくと、当然ながら木にぶつかるが、


「避ける時間が惜しい」


 俺は前方に向かって斬撃を飛ばした。

 走行ルート上に生えていた木々がまとめて吹き飛んでいく。


〈なんか向こうの方で木が吹き飛んでない!?〉

〈どう考えてもニシダの仕業!〉

〈真っすぐ進む気かよ〉

〈巻き込まれた魔物が死んでて草〉

〈あそこ、クイーンタラントラが死んでね?〉

〈ほんとだ〉

〈もうニシダ合格でええやろ……〉

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