第31話 現実はクソゲーだから間違ってない

 転移トラップを駆使することで、俺は中層から下層へと飛び、さらにそこからより深い下層へと飛んだ。


「見つけた。これで深層まで行けそうだな」


 四つ目の転移トラップを発見する。


 ここまでかかった時間はおよそ3時間。

 なかなか良いペースだ。


〈もう深層で草〉

〈何なんこの探索速度?〉

〈他の受験者らなんてまだ早くて中層に辿り着いたくらいだろ?〉

〈彼らもAランクのトップ探索者たちやで?〉

〈見たか、これが私の神オヂ〉

〈いつものヤバいやつ来てる……〉


 四度目の転移トラップを踏んで視界が変わる。

 周囲に満ちる魔力濃度が格段に増えたのが分かった。


 井の頭ダンジョンの深層21階から25階は、悍ましいアンデッドモンスターが蔓延るフロアが続くという。

 広大な空間に大小さまざまな墓石がずらりと並んでいて、おどろおどろしい気配が充満していた。


「久しぶりの深層だからな。さすがに慎重にいかないと」


 まず俺は装備を整えた。


〈あれ、おっさん、いつの間に着替えた?〉

〈なんか見慣れない装備になってる〉

〈俺探索者だけど、あんなの見たことないぞ〉

〈すげーかっこいいじゃん〉


 身に着けたのは、かつて使っていた装備だ。

 押し入れの中で眠っていたものを、今日のために引っ張り出してきたのである。


 兜、鎧、脚具、そして腕輪が二つ。

 どれもダンジョンで見つけた素材で作った特注品である。


〈AI検索かけてみたけどNODATAだって〉

〈マジか〉

〈ニシダが本気出したってこと?〉

〈武器は包丁のままで草〉

〈深層の映像とか死ぬほど貴重なんやが〉


「グルアアアアアアアアアアアっ!」

「お、早速アンデッドか」


〈いきなりドラゴン!?〉

〈ドラゴンゾンビだ!〉

〈怖っ!?〉

〈最初はゾンビとかスケルトンとかじゃねぇの!?〉

〈ここは深層だぞ。凶悪なアンデッドしか出ねぇよ〉


 俺が包丁を振るうと、ドラゴンゾンビの頭から背中にかけて真っすぐ線が入るが、そのまま突っ込んできた。

 寸前で左右に分かれ、腐った臓物をぶちまけながら崩れ落ちる。


〈なに今の!?〉

〈ニシダ喰われたかと思った!〉

〈いつの間に斬ったんだ!?〉

〈めちゃくちゃ臭そう……〉


「アンデッドは痛みを感じないから注意が必要なのを忘れてたな。次から気を付けよう」


〈えええええ〉

〈臓物浴びてない?〉

〈身体にまったくかかってないな〉

〈どういう現象だろ?〉


 ギュオンッ!


「っと」


 背後から繰り出された大鎌の一撃を躱す。

 振り返るとそこにいたのは、宙を浮遊する骸骨の魔物、グリムリーパーだ。


〈怖っ!?〉

〈え、どこから現れた?〉

〈死神や〉

〈見た目だけでヤバいモンスターなのが分かる〉


「グリムリーパーは気配なく近づいてくる上に、あの鎌には即死効果があるから運が悪いと少しでも斬られただけで絶命させられるんだよな。しかもゴースト系だからこっちの物理攻撃が効かない」


〈何その理不尽なモンスター?〉

〈クソゲーじゃん。ゲームバランス考えろって〉

〈リアルゲーなんだよなぁ〉

〈現実はクソゲーだから間違ってない〉


「まぁ俺の包丁は物理攻撃無効を無効化するから関係ないが」


 グリムリーパーを脳天から両断する。


〈どんな包丁やwww〉

〈ニシダこそ理不尽の権化〉

〈バランス調整に失敗したキャラ〉

〈深層でもニシダはニシダで草〉

〈安心して見てられる〉

〈ニシダの配信はサザ〇さんやな〉

〈そんなほのぼのした映像ちゃうやろw〉


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「次はゲイザーか」


 上空から奇声と共に降ってきたのは、ぶよぶよとした肉の塊に無数の触手を生やした魔物だ。

 その肉に亀裂が入ったかと思うと、巨大な目玉が出現する。


〈うわ気持ち悪すぎ〉

〈もうちょっと奇麗な触手にしてくれないと興奮できん〉

〈ニシダの触手プレイとか誰も期待してないやろw〉

〈そんなことないぞ〉

〈え?〉

〈は?〉

〈いや〉


 ゲイザーの目には相手に幻覚を見せる能力があるので注意が必要だ。

 他にも厄介な魔法を色々と使ってくる。


「俺に幻覚は効かないけどな」


〈ニシダ無敵すぎて〉

〈逆に何が効くんや?〉

〈求む。ニシダの倒し方〉

〈ゲイザー死亡のお知らせ〉


 刺突を放ち、ゲイザーの急所でもある眼球を貫いて絶命させる。


〈いきなり魔物と三連戦〉

〈これが深層か〉

〈ニシダ以外なら死んでた〉

〈怖すぎてチビったわ〉


「にしても……多すぎるな? いくら深層とはいえ、ここまで魔物が連続して襲い掛かってくるようなところじゃなかったはずだが」


 少し嫌な予感がする。


 それにあらためて考えてみると、深層にしては魔力の濃度が高すぎるような気がする。

 久しぶりなので感覚がズレているだけかと思っていたが……。


「まぁ、たまたま魔物の多い地点に転移した可能性もあるし、もう少し探索してみよう」

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