第24話 アイドルは触れちゃダメなやつ

〈奈々ちゃんを泣かせるなよ、ニシダ〉

〈今からでも遅くない。結婚してやれ〉

〈あ? 神オヂと結婚するの私なんやが?〉

〈なんか漫画とかラノベでありそうな展開〉

〈小学生だった弟子が美人Sランク探索者になって結婚の約束を果たしに来た件〉

〈ニシダ、男気を見せろ〉


「いやいやいや、好き勝手なこと言わないでくれよ」


 無責任な言葉ばかり流れてくるコメント欄に、俺は思わず苦言を呈する。


「だいたい今さらもう遅いだろ。とっくに恋人の一人や二人くらいいるはずだ」


〈鈍感ニシダ〉

〈あーあ〉

〈本当にそうならわざわざ海外から緊急帰国したりしない〉

〈ほら、案の定、顔真っ赤にしてぶち切れてる〉

〈奈々ちゃんニシダを殴っていいぞ。俺が許す〉


「~~~~~~っ! 絶対にてめぇのことは許さねぇっ! 今回は不覚を取っちまったが、次こそは必ずぶち殺してやるからな! 覚悟しておけ!」


 天童奈々はそう言い残し、ボス部屋から出ていく。

 どうやら転移ポータルは使わず、地道に地上まで戻るつもりらしい。


〈訳:次こそは必ず結婚してみせるんだからっ!〉

〈可哀そうな奈々ちゃん〉

〈応援したい〉

〈最初はヤバい子かと思ったけど、逆にファンになった〉

〈アラサーのツンデレ……うーん、悪くない〉

〈むしろ大好物です〉

〈消えろブス。その神オヂは私のだ〉


「ケンさんっ……大丈夫ですかっ!?」

「ああ、見ての通り」


 金本美久が心配そうに駆け寄ってくる。


「よかった……でも、驚きました。ケンさんがまさか、あの伝説の探索者だったなんて……」

「あー、勝手にメディアとかでそんなふうに呼ばれてたりはするな。けど、別にそんなに大したものじゃない」

「そんなことないですよ! だって、当時まだ生まれてなかった私でも知ってるくらいですし!」

「……そ、そうか。そうだよな。二十年前って、まだ生まれてないよな……」


〈地味にショックを受けてるニシダ〉

〈美久ちゃん18歳だから〉

〈ニシダと倍以上違う〉

〈歌舞伎町ダンジョンが初攻略されたの、正確には18年前だな〉

〈じゃあちょうど生まれた頃か〉

〈てか、美久ちゃんさっきのチン事件はスルー?〉

〈絶対見てたはずw〉

〈触れない方向だろ〉

〈アイドルは触れちゃダメなやつ〉

〈おじさんはぜひ触れて大きくしてほしいなぁニチャア〉


 予想外のひと騒動があったものの、俺たちはようやく地上に戻ることに。


「カニ料理を堪能してたのもあるが、随分とボス部屋に長く滞在してしまったな」

「このままずっとここに居続けたらどうなるんですか?」

「ボスがリポップする。と言っても72時間後だから、仮にボスの連続狩りをやるにしても、ここなら留まるよりいったん地上に戻る方がいいだろう」

「ボスの連続狩りなんてやる人いるんですか……」

「昔はよくやってたけどな。あれはクラス8のダンジョンだったから、そのままずっとダンジョンに居続けたが。三週間ぐらいボス部屋で寝起きしたんじゃなかったかな。ちなみに出現した転移ポータルも、ボスがリポップしたら消えてしまうんだ」


 そんな話をしながら転移ポータルのところまでやってくる。


「あっ、宝箱! しかも三つも!」

「ダンジョン攻略の報酬だな。下層のボスとなると、宝箱は三つのことが多い」


 一つ目を開けてみると、中に入っていたのは一冊の書物だった。


「スキルの書です!」


 覚醒者がスキルを習得する方法は大きく分けて次の三通りある。


 一つは覚醒時。

 覚醒と同時にスキルが発現するもので、覚醒者固有のレアなものが多いのが特徴だ。


 一つはレベルアップ時。

 覚醒者は時折、ゲームのレベルアップに相当するような急成長を遂げることがあるのだが、このとき稀にスキルを覚えることがあった。


 そして最後の一つがこのスキルの書。

 その名の通り、読むだけでスキルを習得することが可能な希少アイテムである。


 ただし人によっては読んでもスキルを獲得できないことがある。

 読んだ者にスキルを与えると消えてしまうのだが、スキルを獲得できなかった場合は無くならないため安心だ。


「しかもこれは……〝隠密〟です!」

「ほう、なかなか良いものを引き当てたな」


 発動していると魔物に見つかりにくくなる隠密は、ダンジョン探索において非常に有用なスキルだ。


〈なんか分からんが、めちゃくちゃ欲しい。なんか分からんが〉

〈そう言われると俺もすげぇ欲しくなってきた。なんでだろ?〉

〈別に使い道とか全然思いつかないけど、あるといい気がしてきた!〉

〈はっきり言えよw 男のロマンのために使いますってw〉

〈変態には喉から手が出るスキル〉

〈お願いだニシダあああっ! 俺に譲ってくれえええっ! エッチなことに使いたいんだあああっ!〉

〈正直すぎてワロタ〉

〈お巡りさーん〉


「隠密は習得してるか?」

「もちろんしてないです」

「じゃあ、これは使ってくれていいぞ」

「えっ!? いやいやいや、何言ってるんですか!? そんなわけにはいきませんよ!? ケンさんが読んでください!」

「俺はもう習得してるから」


 深層とか冥層を探索しようとしたら必須級のスキルだからな。


〈ニシダは隠密習得済み、と〉

〈普段ナニに使ってるんだ……〉

〈俺たちのニシダは変なことには使わねぇよ〉

〈さっき使ってたらチン事件回避できたのに〉

〈それにしても気前良すぎだろ。売れば大金になるぞ〉

〈隠密のスキル書なら高級車一台分はくだらないはず〉

〈おじさんがアイドルに気に入られようとしてんだよw〉

〈パパ活じゃん〉

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