第23話 だから伝説なんだよ
「うーん、さすがに二十年もブランクがあると、このレベルの戦闘はキツイな」
俺に恨みがあるとかなんとかで、襲い掛かってきた謎の金髪美女。
久しぶり過ぎる高強度の戦闘のせいで、身体のあちこちが痛い。
「えーと、すいません。配信中でしたけど、向こうから攻撃してきたので。正当防衛ってことで大丈夫ですよね?」
〈ニシダ、服! 服!〉
〈露出狂やめい〉
〈ニシダ100%〉
〈気づいてないふり?〉
〈策士やな〉
〈もう少し解放感に浸らせてあげて〉
〈アイドルに見せつけ罪で死刑〉
「ん?」
流れてきたコメントに、俺は首を傾げた。
「服? って、うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
思わず絶叫してしまう。
いつの間にか真っ裸だったのだ。
〈やっと気づいたw〉
〈世界中にちん〇ん見せつけてたぞ〉
〈俺、なんか出しちゃいましたか?〉
〈今はモザイク入ってるから安心して〉
〈モザイク邪魔〉
「そ、そうかっ、あの炎で服がっ……耐火性能も何もない普通の服だったからっ……」
俺は頭を抱えた。
もとい、大事な部分を隠した。
今は自動モザイクが入っているが、コメントを見る限りどうやらそのまま映ってしまった瞬間があったらしい。
〈ドンマイ〉
〈穴があったら入りたいとはこのこと〉
〈穴があったら挿れたい?〉
〈何で身体の方は無傷なんだ……〉
〈ドラゴ〇ボールみたいに大事なとこだけ残ってくれたらいいのにね〉
いったんドローンカメラを切り、慌てて予備の服を着る。
「……えー、お見苦しいところを見せてしまいました」
〈ええんやで〉
〈不可抗力だから仕方ない〉
〈誰もニシダを責めないって〉
〈どこから服が……〉
〈俺たちは味方だよ〉
みんなが優しい……。
浜辺へ着地した俺は、金髪美女のもとへ。
「ぜぇぜぇ……あ、あたしはまだ、負けてねぇぞ……っ!」
「もうやめておけ。お前じゃ俺には勝てない。段々と勘が戻ってきたからな」
「てか、何で二十年もブランクがあって、そこまで強いんだよっ!?」
〈ほんそれ〉
〈こっそり潜ってたんじゃね?〉
〈登録してないとダンジョンに入れないはず〉
〈言われてみれば〉
〈じゃあマジで二十年のブランク?〉
「ちぃっ……さすがはこのあたしが憧れたダンジョン探索者だぜ……伊達に世界で初めて、クラス9のダンジョンを攻略したわけじゃねぇってことか」
〈え?〉
〈は?〉
〈ちょっ〉
〈今なんて?〉
〈クラス9ダンジョンを攻略?〉
〈マジ?〉
「新宿にある歌舞伎町ダンジョン。地下45階まであるクラス9ダンジョンだ。今でも攻略者がほとんどいねぇこのダンジョンを、二十年近くも前に攻略しやがった探索者がいた。そいつがてめぇだ」
〈おいおいおいおいおい〉
〈それってあの伝説の?〉
〈誰が攻略したか分からなくて、一時期テレビで追究番組めっちゃやってたやつじゃん〉
〈それがニシダ?〉
〈当時ってまだ深層に到達した者すらほぼいなかった時代だっけ?〉
〈だから伝説なんだよ〉
〈さっきから情報多すぎて脳の処理が追いつかん〉
〈つまり俺たちは伝説のち〇こを見せられたってこと?〉
「ちょっと待て。それを知ってるやつは、ほとんどいないはずだぞ? ……まさか、お前……あのときの小学生!?」
俺がダンジョン探索に没頭していた大学生時代、小学生ながらすでに探索者として活動していた女の子がいた。
確かダンジョンで魔物に襲われているところを助けてやったのが最初の出会いだったか。
それ以来やたらと懐かれてしまい、一時は弟子のような感じで指導してあげていたこともあったっけ。
彼女の名が……そうだ、確かに天童奈々だった。
道理で聞いたことがあるわけだ。
「ようやく思い出しやがったようだな……っ!」
「すっかり大きくなったなぁ」
「親戚のおじさんみたいな目でしみじみ言うんじゃねぇ!」
当時はちんちくりんで髪色も黒だったし、正直今の姿とは似ても似つかない。
なかなか思い出せなかったのも無理はないだろう。
〈ガチで忘れてたんか〉
〈まぁ二十年近くも経ってたらしゃーない〉
〈小学生とアラサーじゃ見た目もかなり違うだろ〉
〈特に女性は化粧で変わるしな〉
「けど、何でそんなに俺のことを恨んでるんだ? 確かに何も言わずに探索者を辞めたのは悪かったが……」
「……あの約束も覚えてねぇわけか」
「約束? どんな?」
「っ……あ、あ、あたしが大人になったら……」
「大人になったら?」
金髪美女あらため天童奈々は、顔を真っ赤にして叫んだ。
「大人になったら結婚してくれるっていう約束だっっっ!」
〈へ?〉
〈は?〉
〈ファッ!?〉
〈これはwwwwww〉
〈ニシダが婚約者だったってこと?〉
〈大学生が小学生と婚約? はいアウト!〉
〈いや大人になったら、だからセーフだろ〉
〈ロリコン死ね〉
〈あー、これは完全にニシダのやらかし〉
〈二十年近くも待たせたってこと? 万死に値するだろ〉
「そ、そんな約束してたか……?」
「間違いなくしていた! てめぇが行方を晦ましたせいで、あたしは独身のままもう31歳だぞ!? どうしてくれるんだよ!?」
「そう言われても……てか、それ俺のせいなのか……?」
〈え、ピュア過ぎひん?〉
〈二十年間、ずっとニシダのこと待ってたってこと?〉
〈なにその純愛〉
〈いや途中で捨てられたと気づけってwww〉
〈小学生の頃の約束を未だに有効だと思ってて草〉
〈それな。二十歳とかならまだしも、三十路でそれは痛い〉
〈拗らせてんなー〉
〈ニシダ、責任取って今からでも結婚してやれ〉
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