第20話 さすがケンさん庶民の味方

「下処理が終わったので、早速カニ料理を作っていきたいと思います」


〈ここでするの?〉

〈てっきり地上に持ち帰ってからと思ってた〉

〈討伐後とはいえ、ボス部屋で料理するやつ初めて見た〉

〈なんかボスへの冒涜っぽくていいなハァハァ〉

〈その発想はなかった〉


「どうせならボス部屋で食べる方が美味しいかと思いまして。ほら、家で食べるカレーより、キャンプとか外で食べるカレーの方が美味しいでしょ?」


〈なんか分かる〉

〈ボス部屋でボスを食べると美味いはさすがに飛躍ある気が〉

〈獲れたては鮮度抜群だろ〉

〈漁師が釣ったばかりの魚を食べるイメージ〉

〈それなら納得できる〉


「まずは刺身で食べます」


 巨大な脚の殻の一部を斬り取ると、ぷりぷりの身が露わになった。

 それを包丁で切って、お皿の上に乗せる。


〈いつの間にかまな板とお皿が〉

〈常に持ち歩いてるのか。料理人の鑑〉

〈どこに入れてたんだ?〉

〈まぁ大量討伐したミノタウロスとかもどこかに入れて持ち帰ってるくらいだ。これくらいじゃ驚きはない〉


「ごくり……ほ、本当に食べちゃっていいんですか……? 私、何もしてないですけど……」

「俺一人で食べてたら何のためのコラボか分からないだろ」

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」


 キングデスクラブの刺身を口にする金本美久。

 次の瞬間、その目を大きく見開いて、


「うまああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 絶叫した。


「なななな、何ですか、この口いっぱいに広がる甘みと旨味と適度な塩味は!? それにすごい弾力! こんなカニの刺身、食べたことないです!」


 文字通り頬っぺたが落ちそうなのか、頬を抑えながらの大絶賛だ。


 俺も食べてみる。


「~~~~~~っ! ……や、やはりそこらのカニとは段違いの美味さだな」


〈食べたい〉

〈食べたい〉

〈食べたい〉

〈食べたい〉

〈飯テロやん〉

〈美久ちゃんが美味しそうに食べてるだけで幸せ〉

〈美久ちゃん食べたい〉

〈やめろ変態〉

〈神オヂ食べたい〉

〈またお前か〉


「マネージャーさんもどうぞ」

「え、いや、わたくしは演者ではないので……」

「遠慮しなくてもいい。見ての通り大量にあるから」


〈加賀さんにも食べてほしい〉

〈俺たちの代わりに食べてくれー〉

〈加賀さんに食べられたいから俺も剥いておきますね〉

〈だから変態は帰れって〉


「で、では、一口だけ……。~~~~~~~~っ!? うめええええええええええええええええええええええええっ!!」


〈一瞬で人格変わって草〉

〈そこまで美味いのか〉

〈いいな~〉

〈やっぱり美人の食べるところは絵になる〉

〈……なってるか?〉


 それから七輪で炭火焼にしたりしゃぶしゃぶにしたりカニ味噌の雑炊を作ったりして、俺たちはカニを堪能しまくった。


「それにしてもすごい量ですね」

「ああ。脚一本だけで丸太くらいあるからな。店でもやってないと消費し切れない」

「……個人店じゃ無理ですけどね、普通」

「というわけで、これから期間限定でカニ定食を提供しようと思います」


〈うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!〉

〈待ってました!〉

〈店に行けばあのカニ食えるん!?〉

〈行くしかない!〉

〈上手い宣伝〉

〈でも、お高いんでしょう?〉


「もちろんリーズナブルな値段で提供したいと考えてます。仕入れ値ゼロですしね。……税金はかかりますけど」


〈さすがケンさん庶民の味方!〉

〈これは殺到するやろな〉

〈今から店に並ぶ!〉

〈焦るなって。あれだけあればそうそう無くならん〉

〈近所迷惑にならないようにしましょう〉

〈下層ボスの素材なんて、かなり税金取られそう〉

〈税率20%だっけ〉


「それじゃあそろそろ地上に戻りますか。ええと、どこに出てるかな?」


 ボスを倒すと、地上へ一瞬で帰還できる転移ポータルが出現する。


「あっ、ありましたね。あの浅瀬の奥の岩場。あそこから地上に帰ります」


 と、そのときだった。


「っ!」


 背後からの凄まじい殺気に、俺は咄嗟に振り返った。

 するとそこにいたのは、金髪の美女だった。


「み~つ~け~た~ぜえええええええええええええええええっ!」


 まるで地獄の底から響いてくるような怨念の籠った声。

 美女が発しているからこそ、より一層恐ろしく思えた。


〈乱入者?〉

〈ファンかな?〉

〈そんな感じじゃねぇだろ〉

〈しかも下層だぞ? そう簡単に〉

〈見たことある顔じゃね?〉

〈天童奈々じゃん〉

〈天童奈々?〉

〈あのSランクの?〉

〈そういや日本に帰国してるってニュース見た〉


「な、何なの、この人……?」

「まさか……天童奈々さん……?」


 怯える金本美久に対し、加賀麗華はこの金髪美女に思い至るところがあったようだ。


「知ってるのか?」

「ゆ、有名な方ですから……なにせ日本でたった9人しかいない、Sランク探索者の一人です」


〈やっぱ天童奈々だよな〉

〈何でここに?〉

〈さっき見つけたって言ってなかった?〉

〈誰を捜してたんだ?〉

〈まさかニシダ?〉


「ええと……誰だか分からないけど、今、Xチューブの配信中なので」


 俺が恐る恐る告げると、金髪美女の目じりがさらに吊り上がった。


「っ……てめええええええっ!? あたしのことっ……忘れたとは言わせねぇぞおおおおおおおおおおおおっ!?」


〈やっぱニシダ案件〉

〈ニシダの知り合いなの?〉

〈あの天童奈々と?〉

〈さすがニシダ。話題に事欠かない〉

〈 お も し ろ く な っ て き ま し た 〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る