第21話 思ってた以上に昔で草
ボス部屋から転移ポータルで地上に戻ろうとしたところ、謎の金髪美女が現れた。
俺のことを恨んでいる様子だが、まったく身に覚えがない。
「悪いけど、全然記憶になくて」
「~~~~っ! ぶち殺すっっっ!」
「っ!」
金髪美女が猛スピードで距離を詰めてきた。
手にした剣で斬撃を放ってくる。
ガキイイイイイイイインッ!!
包丁で受け止めた。
「二人とも下がっててくれ!」
「で、でもっ……」
「美久、相手はSランク。どういう事情か知りませんが、わたくしたちの出る幕ではありません」
〈マジか〉
〈やば過ぎ〉
〈いきなり斬りかかって草〉
〈おいおいおい、何が起こってんだ?〉
〈天童奈々をあそこまで激怒させるとか、ニシダ一体なにをしたんだ……〉
〈これは下世話な想像が膨らむ〉
「言っておくが、今この様子は全世界に配信中だぞ? そっちから攻撃したことは、みんなが見ているからな」
「うるせぇぇぇっ! んなこと知ったことかぁぁぁっ!」
「っと!」
金髪美女が至近距離から繰り出してきた蹴りを躱す。
しかし即座に追撃してくる。
「てめぇだけは絶対に許さねぇぇぇぇぇぇっ!」
凄まじい速さで襲いくる斬撃の嵐。
俺はそれを包丁で捌きつつ、どうにかして彼女の情報を引き出そうとする。
なにせ現状、なぜ激怒されているのかまったく分からないのだ。
「もしかして人違いしているんじゃないか?」
「んなわけねぇだろ! このあたしがてめぇのことを見間違えるわけがねぇっ!」
「うーん、最後に会ったのはいつ頃だ?」
「もう二十年近くも前だよ!」
「二十年?」
〈思ってた以上に昔で草〉
〈そりゃニシダが覚えてないのも無理ない〉
〈加害者は忘れるんだよ。けど、被害者にとっては何年経とうが関係ないんだ〉
〈ニシダ加害者扱いされてて笑う〉
〈てか、天童奈々っていくつだ?〉
〈30くらいじゃね?〉
〈じゃあ二十年前なんてまだ小学生じゃん〉
〈ニシダ……まさか小学生に……これは完全アウト〉
〈だからまだニシダが犯罪者とは決まってない〉
〈小学生の頃しか知らないなら覚えてないのは当然だろ〉
「二十年前はさすがに昔すぎて……」
「誰のせいで二十年も経ったと思ってやがる!? てめぇが行方を晦ましてから、あたしはずっとてめぇのことを捜し続けてたんだぞ……っ!」
〈二十年も捜し続けるとかよっぽどやで〉
〈これは一途すぎて泣ける〉
〈どんなに時間が経とうが、加害者は許せない〉
〈二十年前に何があったのかでだいぶ印象変わるやつだな〉
〈それはそうと、さっきから二人の声と剣戟の音が聞こえてくるだけで、姿が全然見えんのだが〉
〈それな〉
〈Sランカーともなると、一般人には動きが見えないらしいぞ〉
〈人間辞めてるじゃん〉
〈そのSランクとまともにやり合ってるニシダ……やっぱ本物だよな〉
〈しかも武器は包丁〉
〈包丁の耐久値すごい〉
「待てよ? 二十年前っていうと、俺がダンジョンに潜りまくってた頃か。そういえば、その名前……えっと、天童奈々って言ったか? どこかで聞いたことあるような……」
「っ……ようやく思い出しやがったか!?」
「うーん、ダメだ。やっぱり思い出せん」
「死ねえええええええええええええええええっ!!」
「っ!」
金髪美女が雄叫びと共に放ってきた一撃を包丁で受け止めたが、衝撃が強くて後方に吹き飛ばされてしまう。
浅瀬に落下し、全身びしょ濡れになった。
〈ニシダが吹き飛ばされた!〉
〈マジか。ボスをあんなに簡単に討伐したのに〉
〈さすがSランカー……やっぱ次元が違うわ〉
〈しかもあの剣、見た感じ大した性能じゃない。装備も最低限だし〉
〈なんだ、手を抜いてるってことか〉
〈そりゃそうだろ。なんたってSランクだぞ〉
〈それを言うならニシダなんてめっちゃラフな格好だが〉
〈武器は包丁だしな〉
「とりあえず謝る。謝るから、俺と君にどんな関係があったのかを教えてくれ」
「……教えねぇ」
「え」
金髪美女の手にした剣が赤く染まっていく。
よく見ると炎を纏い始めていた。
「このままここでてめぇは死ぬ。あたしが何者なのかも、何で殺されたのかも知らずに死ぬんだ。それがっ、このあたしのことを忘れてやがったせめてもの報いだっ!」
気がつけば髪まで赤くなり、さながら阿修羅と化した美女が砂を巻き上げながら迫りくる。
〈魔法!?〉
〈スキルだ! しかも多分レアなやつ!〉
〈ヤベェぞニシダ! 殺されちまう!〉
〈負けるな神オヂ! あんなクソ女、逆にぶち殺せ!〉
〈いや逃げた方がいい!〉
〈頼むニシダ! 逃げてくれ! お前のカニ料理が食べたいんだあああああああっ!〉
〈同じく〉
〈同じく〉
〈同じく〉
〈ワロタ。カニよりニシダの命の心配しろよw〉
「なるほど。なら仕方がない。理由も分からず殺されるわけにもいかないしな」
俺は受けて立つことにした。
浅瀬に半身が浸かりながらも包丁を構え、金髪美女を迎え撃つ。
〈ニシダやる気満々!〉
〈包丁で?〉
〈うおおおおおおおおおおおおっ! めちゃくちゃ面白い展開!〉
〈管理庁は頭抱えてるだろうけどな〉
〈どっち応援する?〉
〈奈々たんに決まってるだろ!〉
〈ニシダ頑張れ!〉
〈怪我だけはしないでほしい〉
〈無理だろ。下手すりゃ死人が出る〉
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