第18話 トップアイドルの器

「おっ、これは良いものを見つけたかもしれない」


 下層である地下14階を探索し、転移トラップを探していた俺は、あるものを発見して足を止めた。


「え、何ですか?」

「穴だ、穴」

「……穴? っ……こ、こんなところにっ……」


 広大な地下空間に、ぽっかりと開いた巨大な穴。

 中を覗き込んでも漆黒の闇が広がっているだけで、どこまで続いているか分からない。


〈怖っ〉

〈草木に隠れてて見つけにくいから、下手したら転落するぞ〉

〈なのに喜んでるニシダ〉

〈まさかとは思うけど……〉


 俺は穴の奥を見ながら言った。


「いいね。これ多分、かなり下の階まで繋がってる」

「あの、ケンさん? 嫌な予感がするんですけど……?」

「怖かったら目を摘むっててくれ」

「やっぱりこの穴から降りる気ですか!? さすがにそれは怖すぎるんですけど……っ!?」

「大丈夫大丈夫。俺一人ならそのまま飛び降りるけど、今日はゆっくり行くから」


〈一人なら飛び降りる?〉

〈それはそれで見てみたい〉

〈いや死ぬだろ〉

〈ニシダならやれる。それがニシダ〉


 俺が風魔法を発動させると、金本美久と加賀麗華の身体が宙に浮かび上がった。


「風魔法を使えるんですか……?」

「あまり得意ではないけどな。まぁ空を飛ぶくらいはできる」

「……風魔法での飛行はかなり難易度が高いはずですが。しかも自分以外も浮遊させられるなんて」


〈加賀さんの言う通り〉

〈ニシダの感覚ずっとおかしい〉

〈得意ではない=得意〉

〈リアル「俺、何かやっちゃいましたか?」〉


「では、穴の底に向かいたいと思います」


 三人そろって漆黒の闇へとダイブする。


「「~~~~~~っ!」」


 スピード、ちょっと速すぎるかな?


「せ、せめて明かりをつけていいですかっ!?」


 金本美久が魔法で光を生み出し、周囲が見渡せるようになった。

 断崖絶壁が延々と続いている。


「グルアアアアアアッ!!」

「っ……魔物が!」


〈ドラゴン!?〉

〈いや、ワイバーンだ!〉

〈こええええええっ!〉

〈穴の中にこんなのが飛んでるのかよ!〉


 ワイバーンの首が飛ぶ。


〈安定の瞬殺〉

〈可哀そうなワイバーン〉

〈相手が悪かった〉

〈ニシダが苦戦する姿が想像できん〉


「あ、あははははははははっ!」


 いきなり金本美久が大声で笑い出したので面食らった。


「だ、大丈夫か? さすがに怖かったか……もう少しスピードを落とそう」

「恐怖でおかしくなったわけじゃないです! むしろ逆ですよ! なんだか楽しくなってきちゃって! 私、元々絶叫系とか好きなタイプですし!」


 どうやらテンションが上がっただけらしい。


〈美久ちゃん肝据わってるよな〉

〈それくらいじゃなきゃアイドルやってけんやろ〉

〈トップアイドルの器〉

〈美久ちゃんも割と人間辞めてるよな〉


 このままの速度で大丈夫そうだなと思っていると、


「あばばばばばばばばっ」

「ん?」

「ガクッ……」


 加賀麗華が口から泡を吹いて気絶していた。


「加賀さああああああああああん!?」







「申し訳ありません……わたくし、実は高所恐怖症でして」

「そう言ってくれたらよかったのに……っ!」

「せっかくの面白い流れに、マネージャーが余計な水を差しては……と思いまして」


 俺たちは穴の底に辿り着いていた。

 途中で気を失ってしまった加賀麗華も目を覚まし、だいぶ落ち着いたのか顔色も戻りつつある。


〈加賀マネのああいう姿珍しい〉

〈クールビューティだからな〉

〈逆に好感度あがった〉

〈白目向いた加賀マネにめちゃくちゃ興奮したハァハァ〉

〈キモイやつおるな〉


「悪かったな。最初にちゃんと確認しておくべきだった」

「わ、私もテンション上げてる場合じゃなかったよ……」


 ともあれ、これで一気に時間を短縮することができた。


「この魔力の濃度から考えて、ここは恐らく地下20階だ」

「っ……じゃあ、ここが立飛ダンジョンの最下層……っ!」

「そうなるな。見ての通り、あちこち水没している」


 俺たちが落ちてきた穴の底も、ちょっとした地底湖のようになっていた。

 岩でできた島の上に着地し、周辺の様子を探ってみたが、水中では大型の魔物が泳ぎ回っているようだ。


「水の中を進むのは危険度が高い。島から島へと飛び移りながら進もう」


 ちなみに淡水かと思ったが、水がしょっぱい。

 海水に近いようだ。


「この高さなら大丈夫か?」

「はい、これくらいなら問題ありません。下は水ですし」

「無理はしないでね?」


 念のため飛ぶ高さに注意しつつ、地下20階を探索していく。

 時々、水中から飛び出してきた魔物を倒しながら進むこと、一時間ほど。


「砂浜になってますね」

「ああ。そして岩場にボスの部屋へと続く扉がある」

「あっ、ほんとだ!」


〈ボス部屋あった〉

〈こんなに簡単に辿り着くとか〉

〈立飛ダンジョンの攻略記録って、確かまだ五回くらいだよな〉

〈RTAだったら断トツだろ〉

〈配信で下層のボス戦を見れるなんて……〉

〈楽しみ過ぎる〉

〈ボスってどんなやつ?〉


 コメント欄も盛り上がる中、俺は扉を開けた。


「立飛ダンジョンのボスはキングデスクラブ……美味しいカニ料理が期待できますよ」

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