第16話 とんでもないカミングアウト

「どうも、ケンちゃん食堂の店主、ケンです」

「やる気カナ~? 元気カナ~? 笑顔カナ~? みんなを元気いっぱいにしちゃう系アイドル、鳳凰山38の金本美久だよ!」


 立飛ダンジョンの入り口前で配信をスタートする。


「はい、というわけで本日は鳳凰山38の金本美久さんとコラボ配信をやっていきます」

「ケンちゃんネルの視聴者さん、よろしくねー」


 コラボ配信の打診にOKの返事を出してから、二週間後。

 運よくお互いの日程が合い、こうしてコラボ配信を実現することができた。


「同接がすでに15万を超えてる……さすが人気アイドルだ」

「こっちはまだ12万人くらいですよ? 普通にケンさんの方が人気だと思います!」

「え、そう?」

「ケンさんは海外からの視聴者さんも多いから」


 それぞれのドローンカメラを使い、両方のチャンネルで同時配信している。


〈スマホとパソコンでどっちも見てます!〉

〈別角度で楽しめるからいいね〉

〈ケンちゃんネルの方だと、ちらちらと加賀マネージャーが映ってる!〉

〈マジか! 俺もそっち見よ!〉


「それより忙しい中、ありがとうございます」

「いやいや、むしろアイドルの方が忙しいかと」

「そんなことないですよ。ケンさんのお店、すごい人気だし」


〈やり取りが他人行儀。あれから特に進展はなさそう〉

〈ホッとしてる俺がいる〉

〈ニシダ、美久ちゃんに手出すなよ!〉

〈もうちょっと打ち解けてもいいと思う〉

〈おい雌豚、それ私のオヂなんやが?〉


「この間、マネージャーと二人で食べに行きました! ほんっっっとうに美味しかったです!」

「え? ほんとに? 声かけてくれたらよかったのに。というか、全然気づかなかった」

「一応変装してたので。それにケンさん、忙しそうとかいう次元じゃない感じだったから」


〈噂の〉

〈厨房で10人いるように見えるっていう〉

〈料理がいつの間にかテーブルに出現するらしい〉

〈何かの怪談?〉


「ええと、余談はこれくらいにして、今回の配信の目標を発表したいと思います」


〈わくわく〉

〈どんな食材かな〉

〈美久ちゃん食べたい〉

〈今日はアイドルと一緒だからなー、そんなに危険なことはしないだろ〉


 視聴者たちの期待が高まる中、俺は告げる。


「立飛ダンジョンのボスを倒し、その場で調理して食べよう、です」


〈は?〉

〈え?〉

〈ファッ!?〉

〈今なんて?〉

〈ダンジョンボス?〉

〈いやいやいやいや〉

〈ふえええええええええええええ!?〉


「ふふふっ、みんなびっくりしてる。でも当然だよね。立飛ダンジョンのボスがいるのは地下20階。下層の中でも最高難度の場所だもん」


 金本美久が苦笑する。


〈さすがに危なくね?〉

〈美久ちゃんまだDランクだぞ?〉

〈おいニシダァ! 美久ちゃん危険な目に遭わせたら承知せんぞ!〉

〈めちゃくちゃ面白そうじゃん!〉

〈立飛ダンジョンのボスを倒すだけじゃなくて、食うんかいw〉

〈そうこなくっちゃ〉


 驚きの後の視聴者の反応は様々だったが、やはりアイドルを連れて下層に行くリスクを指摘する声が少なくない。

 俺のチャンネルの方へのコメントでもそうなので、金本美久の方にはもっと多いだろう。


「コラボをやろうって決まったときに、できるだけケンさんのレベルに合わせた内容にしたいって、私がお願いしたの。だからみんな、ケンさんを非難するのはやめて」


 俺への罵詈雑言もあったのか、金本美久が訴える。

 俺は断言した。


「えー、安心してください。俺がいる限り、じゃ、彼女に危険が及ぶことは絶対にありませんので」


〈下層がたかが扱いで草〉

〈これがニシダの実力だよ〉

〈俺もあんな台詞言ってみてぇ〉

〈たかが下層なら大丈夫だな、うん〉

〈世界最強の料理人〉

〈ニシダ、どこまで潜ったことあるんだろ?〉

〈下層程度って言うくらいだしな〉


「あー、そうですね。一応言っておくと、俺の最高到達記録は地下53階です」


〈は?〉

〈へ?〉

〈ほ?〉

〈えええええええええええええええええ!?〉

〈ちちちちちちちちちち地下53階!?〉

〈地下53階って……つまり地下53階ってこと!?〉

〈落ち着け〉

〈餅つけ〉

〈とんでもないカミングアウト〉

〈私の愛する神オヂは世界一〉

〈どんだけすごいの?〉

〈だいたい地下20階までが下層で、地下50階までが深層。その先が冥層と呼ばれてる〉

〈深層めっちゃ長いな30階もあるんか〉

〈冥層の探索記録なんて、世界でも数えるほどしかないぞ〉

〈さすがに嘘松〉

〈冥層まであるダンジョン自体、国内に二つしかないとされてる〉

〈クラス11以上のダンジョンだと冥層いけるんだっけ?〉

〈こんな嘘つき男に美久ちゃん任せて大丈夫か?〉


「もちろんソロじゃないですよ。まぁ下層なんて、オートロックマンションくらい安全な場所なので心配しないでください。じゃあ、時間もあれなので、早速ダンジョンに潜っていくとしましょう」


〈オートロックマンションwww〉

〈そりゃ安全やな〉

〈たまに簡単に入れるとこあるけど〉

〈周辺地域の治安によるやろ〉

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