第11話 あんなに美味しいのに
『ところでケンちゃん、次の配信はいつやるんだ?』
「え? やらないけど」
河北に問われ、俺は即答した。
『もうやらないの?』
「だって店の宣伝のためにやっただけだからな」
思っていた以上に上手くいって、お客さんが来てくれるようになった。
元より料理の味には自信があるし、Boobleやクイログでの評価も非常に高く、こうなると後はもう放っておいてもお客さんが来るだろう。
『えー、オレ、ケンちゃんの戦ってるとこ見るの好きなんだけどなぁ』
東口が残念そうに言う。
「本来ああいうのは向いてないんだ。それに今回は店を存続させるために仕方なかったからであって、本来なら料理人があまり前に出るべきではないだろう」
『真面目かーい。僕はさすがに勿体ないと思うなー。たった一回の配信動画で登録者数が30万人を超えるなんて、なかなかないよ?』
南野が苦笑気味に指摘する。
三人ともどうやら俺に配信を続けてほしいらしい。
『おれたちだけじゃないぞ。みんな期待している』
「みんな?」
『もしかしてDMとか確認してないのか?』
「忙しかったからな」
河北に言われて、俺はⅩチューブを確認してみる。
「なんだこれ? 100件以上来てるんだが」
開いてみると、その多くが次の配信を期待する内容だった。
「Yの方にもいっぱい来てる……」
こちらも同様だ。
中には「配信を見て好きになりました。ぜひお会いしたいです」とか、悪戯っぽいものもあるが。
「企業からもメッセージが来てるな。専属の探索者としてスカウトしたいって? 他にも探索者パーティからの勧誘も結構ある」
もちろん探索者として生きる気はないので、お断りさせていただく。
「うーん、なるほど……」
『な、期待されてるだろ?』
「そうだな……まさかここまでとは思わなかった」
予想外のことで戸惑う俺に、東口が言う。
『どのみち食材を入手するためダンジョンには潜るんだろう?』
「ああ」
『たまーにその様子を配信すればいいんだよ』
「そんなの見て楽しいか?」
『そいつは視聴者が決めることだが、ケンちゃんの場合はそれで十分だと思う。アイドルやタレントじゃないんだし、愛想よくやる必要なんてない。ただダンジョンを探索して、魔物を倒しているところを見せればいいだけだ』
「それならまぁ、できなくもないか」
せっかく色んな人たちから期待されているのだ。
俺の性分としてそれを無下にはできない。
彼らがバズらせてくれたお陰で、お店を継続できそうになったわけだしな。
「それなら他にも魔物を使った料理を色々と考えてみるか。毎回同じ魔物だと飽きるだろうし、お店で提供するための新食材を配信しながらゲットしていく、と」
『いいね! 面白そうだ!』
『次回の配信が決まったら教えてくれ』
『僕もケンちゃんの料理、食べに行きたいなー』
「どうも、ケンちゃん食堂店長のケンです。非常に急ですが、第二回のダンジョン配信をさせていただきます」
翌日の定休日。
俺は早速、食材調達の様子を配信してみることにした。
昨日の晩に決めたことなので、告知もロクにしていない上に平日の昼間。
さすがに視聴者はほとんどいないだろうと思いきや、
〈待ってました!〉
〈いきなり通知きてびっくりしたけど、これは嬉しいサプライズ〉
〈仕事中だけどそんなの関係ねぇ〉
〈お店行ったよー。すごく美味しかったからまた行きます〉
〈やっぱり素敵なオヂ〉
次々とコメントが書き込まれ、視聴者数がどんどん増えていく。
「ありがとうございます。前回の配信以降、お店にたくさんのお客さんが来ていただきました。お陰でお店を続けられそうです。本当に感謝しています」
〈ケンちゃん食堂、潰れそうだったんだ〉
〈あんなに美味しいのに〉
〈立地が微妙だからなー〉
〈これがネットの力〉
〈ニシダの実力あってこそ。普通はあんなにバズらない〉
「えー、前回は下層に行けなかったので、今回はしっかり下層に行きたいと思います。そこでまた食材を調達するつもりです。手に入った食材次第で、また限定メニューを考えてお店で提供できればと考えています」
〈おおっ、新メニューが出るのか!〉
〈斬新なパターン〉
〈料理人と探索者の二刀流にしかできない芸当だな〉
〈今度こそ食べに行きたい〉
〈何が手に入るかなー〉
反応は上々だ。
そうして立ち入り禁止が解除された立飛ダンジョンに足を踏み入れる。
「例のごとく、転移トラップを探します」
10分ほどで見つけることができた。
〈普通こんなに早く見つかる?〉
〈同じことやろうとした配信者がいたけど、1時間かけても見つからなかったぞ〉
〈豪運の持ち主〉
〈覚醒者のステータスの中に、運が存在するっていう研究者もいるみたいだからな〉
〈ニシダの桁外れの強さなら運も桁外れなのかも〉
転移トラップを見つけ、そこに魔力を流し込む。
そうしてトラップを踏むと、
「はい、中層まで来れましたね。また転移トラップを見つけようと思います」
今度は中層をしばし探索。
20分ほどでまた転移トラップを発見したので、同じやり方でトラップを踏む。
「無事、下層に来れたようです。ちなみに中層と下層では、周囲に漂っている魔力の濃度が違うので、それでだいたい分かります。慣れてくると、階まで特定できるようになります。ここは多分、地下12階くらいですかね」
ちなみにここ立飛ダンジョンは、上層が1階から5階まで、中層が6階から10階まで、下層が11階から20階までだ。
〈早すぎて草。普通に来ようと思ったら半日はかかるのに〉
〈てか、下層の映像って割と希少だよな〉
〈下層まで行けるような高ランクはあんまり配信なんてやらないし〉
〈国内だとドラゴンチャンネルくらいじゃね〉
〈さすが私の愛する神オヂ。最強〉
〈なんか変なやつおるよな……〉
「それでは美味しそうな魔物がいないか、探していきたいと思います」
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