第9話 静かに並びます

【おっさん】ケンちゃん食堂【謎の探索者】


無名の探索者

 マジで何者なん?


無名の探索者

 たった数時間で再生数100万超えてて草


無名の探索者

 ネットニュースになってるもんな。人気アイドルを定食屋のおっさんが助けたって


無名の探索者

 結局探索者なの? 定食屋なの?


無名の探索者

 二刀流


無名の探索者

 専業じゃない探索者も多いしな


無名の探索者

 金本美久だってアイドルと探索者の二刀流だし


無名の探索者

 どう考えてもトップクラスの専業探索者だろ


無名の探索者

 Aランクの探索者がYで自分より強いって断言してるし、きっと定食屋は仮の姿


無名の探索者

 なんで定食屋のふりしてんの?


無名の探索者

 お店なんて存在してないってこと?


無名の探索者

 ケンちゃん食堂は本当に存在してるぞ。クイログにも載ってる


無名の探索者

 ほんとだ。載ってる


無名の探索者

 明日店に行ってくる!


無名の探索者

 レポ期待


無名の探索者

 さっきY見たら限定200食に増えてて草


無名の探索者

 マジだw


無名の探索者

 200食って相当だぞ? 他のメニューもあるだろうし


無名の探索者

 ハンバーグ定食しか提供しないんじゃね?


無名の探索者

 生ケンちゃん見れるの裏山。うち地方だから遠くて


無名の探索者

 北海道だけど遠征する!


無名の探索者

 ガチ勢www


無名の探索者

 それで店が存在しなかったら泣くよな


無名の探索者

 俺はケンちゃんを信じてる!


無名の探索者

 信じる者は騙される


無名の探索者

 俺、店の前通ったことあるぞ。割と近所だから。こんなとこに店ができたんだーって思った記憶。客は一人もいなかった。俺も入らなかったけど


無名の探索者

 入ってやれよw


無名の探索者

 あの強さなら飲食やる意味なくね? 探索で稼げまくれるだろ


無名の探索者

 それがマジで謎


無名の探索者

 できることとやりたいことの間には乖離があるからなぁ


無名の探索者

 俺も近所に住んでるんだが、今店の前に来てみたらすでに何人か並んでて草


無名の探索者

 えっ、もう並んでんの? まだ夜中だぞ?


無名の探索者

 開店までまだ10時間近くあるだろ


無名の探索者

 俺も今から並んでくる!


無名の探索者

 やめろって。住宅街なんだから近所迷惑だろ


無名の探索者

 静かに並びます


無名の探索者

 立飛のイレギュラーは何が原因だったんだ?


無名の探索者

 まだ分からんだろ。噂ではバルバトスが調査するとか


無名の探索者

 最近売り出し中の五人組パーティか


無名の探索者

 危険な兆候じゃなきゃいいんだけどなー



   ◇ ◇ ◇



 自宅が割と近いところにあるので、毎朝お店までは徒歩で向かう。

 ケンちゃん食堂は10時開店だが、だいたい8時くらいには店に来て開店の準備をするのだ。


「今日はお客さん、来てくれるかな……」


 昨日は偶然アイドルを助けたお陰で、初めてのダンジョン配信は大成功に終わった。

 しかしネット上でバズったからと言って、リアルの店にお客さんが来るとは限らない。


 不安でいっぱいになりながら、店のある通りまで来たときだった。


「ん? なんだ? 朝から道に人がたくさんいる?」


 普段は見かけない人だかりに、俺は首を傾げた。


 何かのイベントでもあるのだろうか。

 だがこんな住宅地で?


「あっ、ケンさんだ!」

「ケンさん来たーーーっ!」

「実在する人物だったんだな」


 近づいていくと、なぜか歓声が上がった。

 全員の注目が一斉にこちらへ向く。


 ……え? 俺?


「昨日の配信見ましたよ~」

「めちゃくちゃカッコよかったぜ」

「美久ちゃん助けてくれてありがとーっ!」

「ごはん食べに来ました!」

「ハイオークとミノタウロスを食べれると聞いて、名古屋から来ました!」

「うちは京都から来たでー」


 マジか。

 どうやらこの人だかりは、俺の店に並んでいる人たちらしい。


 開店までまだ二時間もあるんだが?

 ざっと見た感じ、三十人くらいはいるだろう。


 しかも続々とその数が増え続けている。


「おーい、静かにー。近所迷惑だから、みんな大人しく並びましょう」

「邪魔にならないように道も開けてー」

「列はここでいったん区切って、向こう側に並んだ方がよさそうだな」

「今度から整理券が必要ですね」


 中にはそんなふうに呼びかけてくれる人も。


「お、お、お……俺の店に……客が……っ! しかもこんなにたくさんっ……」


 目頭が熱くなり、気が付けば涙が頬を伝っていた。

 それを拳で拭って、


「なるべく早めに開店できるようにするのでお待ちください!」


 慌てて店内へと駆け込む。


「ゆっくりでいいよー」

「何時間でも待つぜ」

「頑張れ~」


 そんな温かい声を背に、俺は猛スピードで開店準備を進めるのだった。






 この日、今まで閑古鳥が鳴いていたのが嘘のように、凄まじい数のお客さんが殺到した。

 開店時にはすでに百人近い長蛇の列ができていたが、それを捌き切ってもまだまだ客足は途絶えなかった。


 お昼時を越え、夕方頃になってようやく落ち着いてきたと思ったら、今度は夕食目当ての客が押し寄せてきた。


 そのほとんどがハンバーグ定食を注文したので、限定としていた200食などあっという間に完売。

 幸い肉のストックはまだまだあったため、急遽、500食限定に変更したほどだ。


 結局、午後9時の閉店までほぼノンストップで動き続け、最後の客を送り出すと同時、疲労と達成感で床にひっくり返った。


「や、やったあああああああああああああああああっ!!」


 両手を天井に向かって突き上げ、歓喜の叫びをあげる。


 たった一日で訪れた客は約600人。

 一人当たりの単価が1700円ほどで、売り上げはなんと100万円を超えたのだった。

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