第2話 どこからツッコめばいいのか

 久しぶりにダンジョンに潜った翌日。

 俺は早速、ダンジョン産の食材を用いた料理の写真をY(旧Twatter)に載せてみることにした。


――――――――――――

ケンちゃん食堂@立川

 ハイオークとミノタウロスの合挽ハンバーグ定食、始めました! 一日限定100食まで!

 #期間限定 #1430円 #ダンジョン飯 #店主が狩りました

――――――――――――


「うーん、こんなものかな? 河北が言うには、文章はシンプルでいいらしいし」


 昨日ダンジョンの下層で狩ってきた、ハイオークとミノタウロスの肉を使ったハンバーグ定食。

 何度も撮り直したことで、我ながら美味しそうな写真になったと思う。


「頼む、どうにかバズってくれ」


 後はもう祈るしかない。


 ダンジョンで入手したものはすべて、持ち出し時に申請が必要になる。

 Fランクが下層の魔物を持ち帰ってきたせいでちょっとした騒ぎになったのだが、そんなことより俺が衝撃を受けたのは税金の支払いだ。


 税率は一律で20パーセント。

 これについては講習会で聞いていたのでいいのだが、問題はハイオークとミノタウロスの値段である。


 ハイオークが200万円、ミノタウロスが300万円と査定されたのだ。

 つまり税金は合わせて100万円。

 その金額を伝えられたとき、何かの冗談かと思ったほどである。


 後日、納税通知書が送られてくるらしい。

 二重課税の防止とやらで、一応この金額は消費税から控除されるそうだが、売り上げがなければ意味がない。


「もはや一か八かのギャンブルだ。それに食材の値段を考えたら1430円は破格すぎるが……庶民的な定食屋だから、できればリーズナブルな値段で提供したい。……おっ、早速、リポストされたぞ? 惰眠貴族……って、河北のアカウントじゃないか」


――――――――――――

惰眠貴族

 どこからツッコめばいいのか……

――――――――――――


 なんでだよ!?

 何かおかしなことをしてしまったかと思うが、まったく見当がつかない。


 ただ、河北のこのアカウントは、一般人のものなのにフォロワーが3万人近くもいる。

 お陰で「リポスト」や「いいね」が段々と増えてきた。


「もしかしてバズってきてる……?」


 次第にコメントもくるようになる。


――――――――――――

伝説の中野

 ハイオークとかミノタウロスがこんな値段で食えるわけないだろ。しかも限定100食て

――――――――――――

左寄りの右

 限定とは……

――――――――――――

ジップロッカー

 嘘吐くにしてももう少しマシなのにしろ

――――――――――――

地底イカ

 下層まで潜れる実力あったら定食屋なんかやらずに専業探索者やってるだろ。嘘松すぎ

――――――――――――

四代目パンナコッター

 食材偽装は犯罪ですよ。通報しました

――――――――――――


 思っていたのと違う。

 そのほとんどが批判的なコメントばかりだ。


 しかも拡散されていくにつれ、より厳しいコメントがつくようになっていく。


「く、口コミまで!」


 最悪だったのが、Boobleの口コミだ。

 今まで口コミなんて一件もなかったというのに、☆1の酷評レビューが大量に投下され始めたのである。


「こいつら絶対うちに食べに来たことないだろ!」


 最悪なバズり方に血の気が引いていく。

 俺は慌てて河北に連絡を取った。


「どうしてくれるんだよ! 完全に終わったじゃねぇか!」

『ハハハ、心配するなって、ケンちゃん。むしろこれはチャンスだ』

「チャンス?」

『ああ。今、ケンちゃんはめちゃくちゃ注目されてる。こんな馬鹿な店主がいるのかと、ネット上でおもちゃにされまくってる』

「ダメじゃん!」

『そんな今だからこそ配信をするんだ』

「配信……? それってまさか、ダンジョン配信ってやつか?」


 ダンジョン配信。

 それはここ近年、大いに盛り上がっている動画配信の一ジャンルだ。


 探索者がダンジョンに潜り、魔物と戦ったりトラップを潜り抜けたりする様子を、リアルタイムでXチューブなどに流すというものである。

 覚醒した有名人なんかも参戦していて、人気チャンネルなら同時接続数が十万を超えることもザラだとか。


「それを俺が?」

『そうだ。実際に下層まで潜って、ハイオークやミノタウロスを討伐しているところを視聴者に見せつけるんだ。そうすれば確実に手のひらを返してくるし、今回の比じゃないレベルで大バズりするはずだぜ』


 河北の提案に、俺はヤケクソ気味に頷いた。


「確かにこの批判の嵐を吹き飛ばすには、実際に自分で狩ってるところを見せるしかないか……けど、動画配信をするには相応の機材が必要になるはずじゃないか?」

『はいはーい。やるなら要らなくなった機材やるよー』


 ビデオ通話に新たに入ってきたのは、友人の東口だ。

 旅行好きの彼は普段からXチューブで旅動画を配信しているようで、使わなくなった配信機材を譲ってくれるらしい。


「それは助かる」


 そんなわけで、俺はXチューブにチャンネル『ケンちゃんネル』を新設すると、早速Yでライブ配信を告知した。


――――――――――――

ケンちゃん食堂@立川

 今週土曜日、Xチューブでダンジョン配信やります。ハイオークとミノタウロスを狩ります

――――――――――――


 悪い形ながら一度バズったお陰で、すぐに反応があった。


――――――――――――

田中の中田

 これマジ? ガチの探索者だったとか?

――――――――――――

アンビリバボル

 絶対見たい

――――――――――――

関東一の関西人

 むしろおっさんの嘘がバレて公開処刑映像になる可能性

――――――――――――

D館

 自分から後に引けなくしてて草

――――――――――――


 そして配信当日。

 東口が送ってくれた配信機材を持って、俺は再び立飛ダンジョンにやってきていた。


 先日のリポストは凄まじく拡散され、開設したばかりのチャンネルなのに登録者がすでに一万人を超えていた。

 この分だとかなりの視聴者数になりそうで、俺はめちゃくちゃ緊張している。


「人生初配信がこんなことになるなんて……」


 しかも河北のアドバイスで、完全顔出し予定だ。

 どのみち店に客が来るようになったら、顔なんてすぐ割れてしまうしな。


 これもせっかく作った店を存続させるため。

 機材のセッティングを終えた俺は覚悟を決め、配信開始ボタンを押すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る