二話 入学するんだって!
「なんか暑くない?」
「えー、ああ。まあ確かに」
二人の女子高生が、コンビニの前で駄弁っている。
買ったばかりのアイスも溶け始めるほどの猛暑だ。
「冷たくしたげる」
「やったー」
その子は異能持ちだった。
冷気を生み出す能力、異能の中でも強力なほうだ。
異能を抑える抑圧機をつけた今、凄まじい威力で運用することは叶わないが、少し涼むくらいなら丁度いい。
「ねえ、お父さんどうなった?」
「急に?遠慮とかないわけ」
一人は呆れたように笑う。
無遠慮だが、親しい関係なのか特に深く気にしている様子はない。
「だって気になるし」
聞いた方もそれをわかっているからだろう。
「うーん、そうだなあ。一応連れてかれたよ」
「…そっかぁ」
「私このまま施設いきっぽい」
施設、その単語にもう一人は絶句する。
「え、な、なんで?」
「なんでってなに?」
笑いを含みながら言う。
だがそんな軽い調子ではない片方が、突然異能持ちの女の子の手を取って駆け出した。
「え、え」
「おかしい!!」
一人が叫んだ。
「抑圧機も付けて、苦しんで、あんたは人よりも何倍も何倍も頑張ってるのに!」
異能持ちの女の子はその言葉に一瞬胸が詰まったような顔をして、しかしすぐに普通の表情へと戻す。
「…急にどうしたの」
「私が逃がす!あんたを!施設になんて絶対行かないように!」
熱く力強い。
普段はあまり積極的ではないのに。
今度こそ誤魔化せず、涙が滲むが、声でバレないように小さく、
「馬鹿じゃない」
そう呟いた。
◇◇◇
そして駅へと到着した。
「はいこれ、結構はいってるはず。あと水くらいしか用意できないけど…」
「ありがと」
「うん、落ち着いたら連絡ちょうだいね、じゃあ」
「またね」
改札を通る前に、そんな会話をした。
でもやっぱり不安で怖くて、車内で泣いていた。
泣いている顔はあまり見られたくなかったし、時間帯的に人が少なかったのは救いだったのかもしれない。
でも一人同じ車両にいて、そのお姉さんが心配でこえをかけてくれた。
そのまま異能持ちが多くいるっていうコンビニに住み込みバイトとして働かせてもらって、数年が経った。今思えばとても運が良かったのだと思う。
「そろそろ連絡しよう」
お姉さんに被せられた当初の借金を返し、新しく携帯も買った。
元のは居場所がバレる可能性ががあるからとお姉さんに捨てられてしまったから、結構触るのは久しぶりだった。
あの子のIDはきちんと覚えていた。そのアカウントも生きている。
やっとの思いでメッセージを送った。
[私のこと覚えてる?]
[やっとみつけた]
「え?」
その文字を認識した途端に、急激携帯の画面が暗くなり、思わず驚いて投げてしまった。
床に落ちた拍子に画面が割れ、そこから変な光が溢れてきた。
「ユキチャン、久シブリダネ?」
機械音声が自分の名前を呼ぶ。
同時に、ある予想が脳裏を巡った。
その噂を聞いたことがある。
異能を持たない人が、急に異能持ちへと変化するという噂。
曰く、異能持ちへと変えられた人は悉く精神がイカれており、人為的なものか、自然なものか、なにがトリガーになるのか、なにもは判明していないのだそう。
「ズット憎カッタ。アンタノセイデ、私ガ酷イ目ニアッタ」
白い光がやがて人型のようなものを型取り、頭上に光輪をつくった。
長いローブを羽織ったようなその姿は、異質と言わざるを得ない。
「幸セソウダネ?アノ時ハ私が助ケタ。ダカラ今度ハ、アンタガ助ケテヨ」
「いいよ」
ずっと考えていたこと。
私の存在はもう施設側に知られていた、私を逃がしたのも調べればすぐに分かることだろう。
だから、私を逃がして、どんなひどい目に会ってるんだって。
「私が助ける」
「ハハハ」
光は私を抱きしめた。
「なあ、それだと顔が見えないだろう?」
声がした。今度は自らの異能を発動する事も忘れて目を見開き、視線を向けると光を侵食するようにまた、黒い何かが現れた。
「な、なに」
「…」
黒は私に近づき、拒絶する気にもなれないまま、それを受け入れる。
次の瞬間、流れてくるかつての親友の記憶。
「ぁが…」
脳が締め付けられる感覚。引き裂かれて、無理矢理何かを注がれる。
脳のキャパを大幅に過ぎたようだ。
為す術もなく、力の抜ける身体をそのままに、意識が暗転した。
「…ふむ」
黒が口を開いた。
「唆らんな。実験にでもまわすか」
〈その様子だと余りお気に召さなかったようだ〉
黒の持つ簡易な通信機器から優しげな声がもれる。
それに心底意味不明だとでも言うように黒は眉をしかめる。
「本気か?コレが気に召すと、?」
〈君の好みが分からないからね〉
「分からない?大体同じだ」
黒は一人の精神を崩壊させるためだけにつくられ、先程の異能持ちに流し込まれた人造のそれの残骸をみて、ため息をつく。
〈もう少しいい反応すると思ったんだけど、やっぱり時間が空き過ぎたかな〉
「一段階で畳み掛けすぎたのもあるだろう」
〈まあでも、次のは結構だよ〉
「なんだ」
〈仕事なんだけどね、異能学校の教師だ〉
黒はそれに満足げに鼻を鳴らした。
人数と、異能の可能性と不明瞭さ、そして未知数な関係性。恋人になっても友人になっても、とても面白い。
話を聞く限り今度は他人視点ではなく自ら直接関わることもできるのだろう。
しかし、教師。
「俺に教養はない、お前がやれよ」
〈あはは、そんなことないと思うけど。まあ元からそのつもり、楽しみだなあ〉
通話の相手は愉快げに笑った。
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