がんばれ!破壊計画!

ももたろ

一話 プロローグ

─このバケモノめ!

─貴様にどれほどの同胞が殺されたことか!


……


─素晴らしい、これほど優秀な人間はみたことがありません

─貴方こそ次代を継ぐ英雄だ!

─…お前は……人の皮を被っただけの怪物だ


……


─協力しようぜ、親友。理想の世界を創るために




◇◇◇




違う世界での記憶があった。


鮮烈な、嘘とも思えないそれは、自分の根底に根付いている。


一つは、戦の世界。きっとそれだけではないが、その自分にとってはそれしか無かった。


雑多な兵士としてありきたりな戦果を積み上げていくなかで、自分は平凡でない何かを掴んだのだ。


みるみるうちに尉官へと出世し、佐官になって、いつの間にか大将格も夢じゃないと言われるようになった自分にとって、有象無象はもはや塵芥に等しい。

傲慢に振る舞い、しかし敵を葬った数では負けなしであった自分に誰か逆らえるはずもなく、少しずつ助長されていった。


頭も人よりまわった自分、狡いやり方で各方面の金を抜き取り、戦から帰ってくるごとに高い女を抱いた。


ある日、いつもとは違う戦場へ派遣され、また猛威を振るったあと、同じように有り余る金で女を買う。 そいつが、自分を変えるきっかけになったのだと思う。つんとして妙に賢い女だった。


貴方乱暴ね。いやぁ最中の事を言ってるんじゃないの、普段敬語なんて使わないでしょ。私を買うと決めたときも、「この店で一番高い女はどれだ?」なんて!

良さよりも値段を気にするのね貴方。そうね、本当なら良さと値段は比例しているんでしょうけど、時期が合わなかったわ。残念ながらあの子じゃなくて私になっちゃった。

ねぇ貴方、お金抜き取ってるんでしょ。誤魔化しても無駄よ、反応してすぐに分かる。

ふうん、一応人は選んでるのね。変な正義感だわ。いらないとまではいかなくても、迷うわね。私が何かいうことでもないのでしょうけど?

貴方の噂は聞いたことがあるのよ、つい最近准将に上がったんですってね、すごいわ。でもその値段の給金じゃ 豪遊するまではいかないでしょ?絶対に足りなくなっちゃうわ、兵士さんなら尚更。

まあ。言いふらしたり、私に何のメリットがあるの。貴方が買ってくれなくなっちゃうじゃない。

ふふ、話を聞く限り、貴方まるで青族みたいな暮らししてるのね。でも戦に出てるんじゃ偉いわ。

そうね?けれど考えてもみなさい?戦果は差異があろうとも、戦に出てることに変わりはないわ。貴方と考えは 違うかもしれないわね、私は守られている側だから、兵士さんには無条件に尊敬を抱くわ。


その街へ再び派遣されたのはすぐの数週間後、みたのは無情にも荒れ果てた建物と、無数の遺体だけだった。


数年後国は負け、自分は国の軍の大将として敵国の民の目前で首を斬られた。


もう一つは華の世界。嫌悪感とともに誰しも夢見る貴族の人生。それを兵士だった頃の記憶を持ちながら経験した。


記憶が蘇ったのは十一歳のとき。他人の情報が知識としてインプットされる感覚だった。妙にしっくりきて、そこまで違和感はなかった。


兵士の頃は何もせず贅沢をしているだけだという印象が強めだったが、実際になってみてそう言う考えはより強くなった。想像していたそのままの祖父に嫌味ったらしい祖母。怒鳴り散らかしてばかりの母と、それらに言いなりの傀儡である気弱な父。


本来なら一番権力の強い筈の父、唯一まともな精神を持っているのにどうすることもできず金庫は使い潰されてしまう。


自分よりも先に生まれた姉は容姿共に父に似た気弱な性格で、しかも最初に生まれたとき男であること を期待されていたので女であることを否定され、もはや貴族社会では行き遅れと言われる年齢になった今でも、 両親は姉に縁談を一つも持ってこない。


逆に自分は元々母に似て無能な割にわがまま放題であったが、兵士だった頃の記憶が蘇り目が覚めたように優秀 な人間へと変貌したため、よくしてもらっている。元は良かったのだろう、母も。それについては時代に潰され た被害者とも言わざるを得ない。


安全地帯にいる自分は、姉を助けないのか?考えた時もあった。正義感がないわけではないから。しかし姉が家族殺害計画を立てているのを目撃して以来何もしていない。

そうするまでの何かが姉にとってあるのだろう。あそこまでいったら多分計画を遂行しないと姉はもやもやしたまま一生を過ごすこととなる。


幸い計画の標的は父と母のみであったのでまた傍観していようと思う。

父は不憫だ。何もしていないのに。いや、何もしていないからか。


あと祖父母については違う方法で早く死ぬようにしていた。可哀想な姉に同情して、料理人が一人手を貸したのだ。有害な粉末を少しずつ、料理に混ぜて長期間飲ませ続けることで自然死を装うそうだ。

自分も十一歳になるまで嫌がらせをしたことはあった筈だが、子供ということで見逃すそうだった。


甘く、優しい。姉はこれまであまり世間に触れさせてもらえずに来たから、中身がそこまで成長せずに来たんだろう。


そして当日、自分は使用人に連れられて一日だけだからと安めの宿に連れて行かれた。まあ実際値段は関係なく、場所が分かりずらいからだったんだろうけど。


そしてちょうど一日が経ったその時、報復を終えたのであろう姉が現れて、二人で親戚の家へ向かった。


姉曰く、両親の様子がおかしかったから一時的にに弟を避難させ、自分も部屋に閉じこもっていたところ、朝になって様子を見にいったら祖父母共々死んでいたと。


無理があるんじゃないか?とも思ったが、たとえその嘘がバレたとしても姉がそれを誰かに信じてもらおうとしたならば、自分が疑られることはないだろう。もしものときは、あの宿屋の受付を連れてくればいい。 見たところ何か姉が口止めをしている様子もなかった。本当甘い。


何事もなく自分たちの乗った馬車は目的地へとつき、親戚は作り泣きをする姉をみてすぐに家へ引き入れてくれた。

父方の祖父母の家だ。彼らの優しさが父に遺伝したのだろう。


姉は彼らへ事情 (作り話)を話し、知っていなくとも胡散臭さに吐き気がすると思うが、貴族らしくない彼らは 姉の言うことを全て鵜呑みにし、取り敢えず手紙を飛ばして王へ報告するため近日中に王都へ出向くそうだ。


家にいた使用人が複数確認で家を出、その間自分たちはここに泊まることとなった。


結果としていえば、姉の目論見は失敗した。

姉は使用人は全員自分に同情し協力してくれていると思っていたようだが、一人その場へ残り、事実を伝えたそうだ。


ちなみにその使用人というのは侍女長だったらしいが、そりゃあそうだろう。あれほど好き勝手にできるのは使用人の意見を操作できる人物が思想に賛成したとしかいえない。


正直聞いた時は驚いたが、予想はできるものだ った。

普通ならば使われないが、それなりに親が高い身分だったことと、姉が犯人かもしれないと言うことで、姉には真実の眼のもと証言をしなくてはならなくなってしまった。


真実の眼とは、王国を象徴すると言っても良いほど強力な道具で、それに手を当てながらものを言うことで、それが嘘かどうかがハッキリとわかる。そうだが、見たことがないのでわからない。


姉はそれを命令された直後逃走し、逃げた先で警備兵に斬殺されたそうだ。

自分は何も疑われず、そのまま父方の祖父母の家で過ごした後、貴族学校を卒業、祖父母を惨殺したが完璧なア リバイと証拠で微塵も疑われずそのまま王都で真っ当な貴族生活を終えた。

何故祖父母を殺したかって?それは戦争とはいけないことだと言ったから。真っ当な人たちだった。


いけないこと、それはわかる。多くの命が失われ、終わったあとに何も残らない。それが正しい。

けれど、なくなるべきだと言うのは違うと私は思う。あるべきだ、戦は。ものはなくなるからこそ輝き、力を振り絞る。 永久とは何と虚しいこと。燻んだ平和を磨く手段は戦しかない。戦をすれば、どの国も必死になり、活気がでて 輝き出すものだ。


兵士だったとき。たくさんの仲間が死んでいくのをみた。皆絶望しながら死んでいった。しかしいつまでも開けない暗い思考のなかで、戦う時だけは誰しも生きるために必死になった。自分も、必死だったんだ。


国が負ける時、貴族であろうと誰しもが重い腰をあげ、戦った。戦わないものはすぐに潰え、必死になったものだけが最後のこり、死んでいく。

魂の悲鳴を、自分はその時きいた。


姉も、ずっと必死に計画して、魂を軋ませて、壊れそうになっても頑張って繋ぎ止めて。ずっと聞いていた。それを、美しいと思った。


姉は特別綺麗な容姿を持っていたわけではなかったが、両親を殺したあと、そして自らの罪がバレそうになった時のあの表情、あれだけは心から美しいと思えた。


争いは絶えない。だからといって絶えさせようとする行為をやめるのもまた阿呆の考え。

争いを続けても、争いをやめようとしても、どちらも生き様は綺麗だ。

だがやはり、争いの末全てが息絶えるその様がみたい。自分はそう思っている。


そして、三度目の生。

今度はとても安全な国に生まれた。見たところ、争いは身近にありそうだが、皆拒絶しているのか?


それでは駄目だ。平和に慣れて仕舞えば絶えゆくだけだ。戦を経験すればするほど、人は強固になってゆく。 強くなり、 自信を持ち、戦に意味を見出した時、死ぬ。その時の感情がもう見れないと言うのは何よりも耐え難い。


自分はやはり、平和が似合わない。争いの中にいてこそ、自分は輝ける。もっと多くの人が戦って、沢山死に行けばいい。自分はどうしようもなくそう思う。




◇◇◇ 




特異技能、通称“異能”。

それは世界人口もおよそ一割以下。ごく一部の人にのみ発生する、通常ならば不可能なことも可能にする、魔法のような力だ。といっても、現実では差別する人も多くいるようだが、それでも特別なことに変わり無い。


各国にはそれぞれ異能持ちの学生を世間とは少し隔離して教育する普通科などと同じように“異能特別科”と言うものが作られ、同様に異能者を取り締まる専門の警察部署もつくられて、近年では異能が日常化しつつある。


異能が現れたのはおよそ一世紀と少し前、当時は微塵もそんなものはなかったそう。 しかし急に変な器官を持った赤ん坊やこれまで隠していたのだろう特殊な力を持った人間が現れはじめたのだ。


世界中が混乱する中、ある人物が出てきてこう言った。


“力を持っているものによる事件は今の所一つも起きていない。つまり今力を持っている人々は少なくとも理性の残っている人間だと言うことだ。だから今のうちに法律を整備させるため、混乱して様々な批判をする前に、 皆で手を取り合おうじゃないか”


その人はネット、テレビ、情報誌、それぞれの地域でも呼びかけた。

それに感化され、他の多くの人もそれを言うようになった。そのおかげか次第に混乱は鎮静化し、法律の整備が より強く呼びかけられるようになった。


やがて一人の異能持ちの協力によって本人の意思関係なしに力を封じ込めることのできる機械が発明された。

当時ヘルメットのような大型の機械であったが、今では小さなチョーカーのような形に落ち着き、異能持ちも関係なしに通常の生活を送れるようになった。

完璧に無くす訳では無いものの、多少特殊、程度に抑えられた。


とはいえど、反発する異能持ちが出てくるのも当然、一時期は異能犯罪は頻発し、問題となったが、各政府の迅速な対応によって今は、何事もなしに良い平和が実現している。


というのが主なメディア、また各国の主張。

しかし実際は異能を抑える道具なんて副作用なしに存在しているはずなんてないし、それを完全に協力で設置しているわけでもない。世界的な犯罪組織は発足して徐々に規模を拡大させている、それを政府は黙認しながら特に対策も打ち立たせてはいない。




◇◇◇



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