第3話 ねっ、だからもう一度撫でてもいいかしら?

(包丁で野菜を切る音)

(扉の鍵を開け、扉を開ける)


「ただいまー! はぁ〜〜っすごく良い匂い」


 (床を歩く音)


「ふふっ、誰かにおかえりって言われるのとっても新鮮だから、凄く嬉しい」


(台所にいる主人公の横に並ぶ千歳)


「ねぇ、今日のご飯は何? へぇ〜カレーかぁ。すごく美味しそう」


「味見していい? ありがとう。あーん。ん〜〜っ美味しい」


「コクがあって、それでいてちょうどいい辛さ」


「ってかあんた、あーんに対して抵抗なくなってきたわね」


「えっ誰かさんのせい? さて、何のことやら」


「あっお皿出すの手伝うわ。それくらいさせてよ。ふふっ」


「ん? どうして嬉しそうに笑ってるのかって? それは、内緒よ」


「いつか教えてあげるわ! いつか。ほら、席について……今日もあーんってしてあげるから」




(蛇口を閉める音)

(床を歩く音)


「ごちそうさまでした。うん、今日のご飯もすごく美味しかったわ」


(主人公、マグカップを千歳に渡す)

 

「ハーブティー? ありがとう。あんたって凄く気が効くわね。隣どうぞ」


(ソファーに座った千歳が、空いたソファーの椅子を叩く)


(主人公、隣に座る)


「ふふっあんたに家事を任せて正解だったわ」


「部屋は常にキレイだし、料理は美味しいし、日用品も補充してくれるし……とんでもなく有能な家政婦を雇ってしまったかもしれないわ」


(ソファが軋む音)

(マグカップをテーブルに置く)


「あんたが来てから、なんだかまたもな生活をようやく出来たって気がする」


(主人公、頷く)


「こらっ前の話を持ち出さないでよ。たしかにあんたが来る前は悲惨だったけどさ」


「部屋中散らかってたって? う〜〜っ。は、恥ずかしいからやめてよ」


(隣にいる主人公の体を叩く千歳)


「……けどこうしてあんたが来てくれたから、助かってる。ありがとうね」


「もぅ、そこは黙んないでよね。こっちまで恥ずかしくなっちゃうんだから」


(少し間があいてから)


「……ねぇ、ちょっと頭を下げてよ」


(言われた通り、頭を下げる主人公)

(主人公の頭に手を伸ばす千歳。頭を撫でる)


「よしよし、えらいえらい」


「何をやってるのかって? 頭を撫でてるのよ。今日も家政婦の仕事を頑張ってくれたから」


(慌てて離れる主人公)


「あっ離れないでよ。これはあんたのためなんだから」


「ほらっあんたを甘やかすって言ったでしょ? 私が仕事に行ってた分、うんと甘やかさないと。ほらっジッとして」


(近づいてくる千歳)


「んっ髪の毛サラサラ。すごく触り心地がいいわね」


「すんすん。ふふっここまで近いとあんたの匂いまでする。私、この匂い好きだな」


(さらに顔を寄せる千歳)

(千歳、囁くように話す)


「よしよし、いい子、いい子。今日もお疲れ様。家事をしてくれてありがとうね」


「いい子いい子。よしよし」


(少し間が空いてから)


「えっ私の方が疲れてるから申し訳ないって? そんなことないわ。家事だって同じくらい大変なのよ? それに、あんたを癒すついでに私も癒されてるの」


(手を離す千歳)


「ということだから、気にしないで。私がしたいだけなんだから」


「ねっ、だからもう一度撫でてもいいかしら?」

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