第2話 あんたを癒してあげるんだから


(マンションの階段を登る音)

(玄関のチャイムを鳴らす)


(しばらくして、扉を開く音)


「はーい! あっやっと来た。もう待ってたんだからね。ちゃんと買ってきてくれた?」


(頷く主人公)


「それにしても遅かったわね。何かあった?」


(話す主人公)


「えっ? 女の人に道を聞かれて話してた。すごく可愛い子だった? むぅ」不機嫌になる


(最後小声になる)


「べっつに、なんでもないわよ。ただムカムカしただけだし」


「連絡先交換してないでしょうね?」


(主人公頷く)


「……ならいいけど、私の断りなく女の子と会っていたら許さないんだからね!」


(いっぱい頷く主人公)


「ならよし。じゃあ、早速つくりましょうか」



(お皿をテーブルに置く音)

(椅子に座る音(目の前に座る千歳))


「それじゃあ、あんたが引越してきたお祝いに……」



(手を叩く音)



「引越しそばをいただきます!」


(箸を持つ千歳)


「ふぅふぅ、うん美味しい! やっぱりあんたが作る料理って美味しいわね。蕎麦の茹で加減は完璧だし、天ぷらサクサクだし」


「何、キョトーンとした顔して。えっ? 素直に褒めるから驚いた? 別にいいじゃない、だって本当に美味しかったんだもん。それに久しぶりに食べられて嬉しかったし」


(頬をかく主人公)


「な、何照れてるのよ。本当のことでしょ? 昔からあんたの料理、本当に美味しかったから……小さい頃、よく何か作ってって駄々こねたわよね」


(頷く主人公)


「まぁ、最初はあんたに嫉妬してたのよ? 私よりも上手だったから」


「何でって? ……そんなの決まってるじゃない」


(千歳、立ち上がって主人公の隣に座る)

(主人公の服を引っ張る)


「……それは、私があんたに作ってあげたかったからよ。あんたのお嫁さんになりたかったから」


「て、照れた? ふふっ顔を真っ赤にしちゃって。かわいい」


「ん? キャラが違いすぎる? それはそうでしょ、あんたと別れて6年も経ってるのよ。私だって変わるわよ……ツンツンしたままじゃいられないの。もう、あんたと離れたくないし」


「……ぁっ、さ、さすがに自分で言ってて恥ずかしくなっちゃった。顔熱い。もう、どうしてくれんの! あんたのせいなんだから!」


(主人公を軽く叩く千歳)


「そうよ、あんたが悪い! まったく……さっそば食べましょ」


(お皿を持ち上げる音)

(お皿をテーブルに置く音)


「えっなんで隣の席に座ったままなのかって? いいじゃない。幼馴染なんだから減るもんじゃないでしょ! ふぅふぅ、んっ!あっ」


(少し間を置いてから)


「あれ? あんた全然食べてないじゃない。どうかしたの?」


(事情を話す主人公)


「……そう、辞めてから食欲がないの。少しでも食べなきゃダメよ」


「ほらっ海老の天ぷらだけでも食べなさい。あんたの料理は美味しいんだから。ほら、あーん」


(首を横に振る主人公)


「恥ずかしいって? だって私がこうやらないと食べないでしょ。ほっほら、あーん」


(覚悟を決めて天ぷらを食べる主人公)


「美味しいでしょ? 食べ物は生きるための力をくれるんだから食べなきゃダメよ。まだまたいくわよ、はい、あーん」


「ん、よし。ちゃんと食べれてえらいじゃない。いい子、いい子」




「……なんやかんやいって全部食べたわね」


「ううん、気にしなくていいのよ。あんたが食べてくれてよかったって思ったし」


(少し間を空けてから)


「……ねぇ、やっぱりまだ辞めた時の傷は癒えない?」


(少ししてから頷く主人公)


「そうよね。そう簡単には癒えないわよね」


(時計の針の音が聞こえる)


「……決めた。私あんたと暮らしている間、あんたの傷を癒す」


「何を言い出すのかって? だって、あんたには夢に向かって頑張ってもらいたいんだもん!」


「だから、あんたが次に立ち向かえるように、私頑張る」


「あんたは気にせず夢を追いかけて。大丈夫、あんたには私がついてるんだからね」


「そのためにも、あんたをたっくさん甘やかすんだから。ふふっ覚悟してよね?」


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