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「うん」
「たぶん、あの時のあたしは燃え上がってたんだよ。相手のせいで。好きだよ好きなんだよ好きすぎてもはや死にたいうわああああん、みたいな」
「死にたがってるじゃん」
「言葉のあやなんだから、いちいち拾うなし」
唇をとがらせながら、マヤは続ける。
「敢えて言うなら、相手のことが好きすぎて火だるまになってた感じ。相手という火種のせいで身を
自分の身体に火をつけたのは自分が好きになった相手だった、と。
成程、分からなくもない。なにより「恋い焦がれる」という言葉の意味は、恋しさのあまりひどく思い悩むことを指す。恋の炎に焼け焦げるのは、その身だけではなく心も同じ……ということか。
そういえば基本的にいつも明るいマヤだけど、ひどくテンションを落としていた時期もあった気がするな。
「そして最後に火が消えて真っ黒になった自分の焦げを削ぎ落とすのが、友達と遊んだり、新しい恋をすることだったりするんじゃない? ま、あたしにとってはミユと一緒に過ごす時間だけどね」
「あー、はいはい。ありがと」
「ミユ、違うって。あたしはバッサリ
「冗談だよ。そう言ってくれたのは素直に嬉しいよ」
一呼吸置いたあと、そっと訊いた。
「マヤ、その好きな人と別れたのって――」
いつも私が訊ねる前から「相手が◯◯だったので、振りました!」と自分で報告をしてくるマヤだったが、一度だけ、特に何も報告をくれないまま破局していたときがあった。私の記憶だと、それはマヤが落ち込んでいるように見えた、あの時期に合致する。
あまりにも普段のテンションとの落差がありすぎて、さすがの私も深く事情を訊くことができないままだった。たぶん、それがマヤにとっての「めっちゃ好きだった人」たる野球部の先輩と別れたあとだったのだろう。
マヤが無言で頷いたことによって、答え合わせはすんなりと完了した。
「好きすぎて、悩んで悩んで悩み抜いて……ってやってたら、自分で自分の気持ちについていけなくなったの。あたしは相手にうるさいこと言いたくないし、言われたくもないけど、やっぱ彼がマネージャーとか他の女子と喋ってるのを見たりしたら、途中から言いたくなってしょうがなくなったんだよね。あたし以外の女とLINEやりとりしないで、話したりしないで、遊んだりしないで……って」
相手のことが好きだからこそ、傍にいてほしい気持ちが大きくなりすぎたということみたいだ。私は未だに暗闇を手探りで進んでいる気持ちになりながら、マヤの言葉に耳を傾ける。
「でも、こんなに好きなのに、って毎晩布団の中で丸まって泣いてる自分のことも嫌いじゃなかったんだよ。それを自覚したとき、あたし気づいちゃったんだ。あたしの気持ちは知らない間に、相手じゃなくて、相手に恋してる自分にしか向いてなかったんだなって。最初はあんなに好きだったのに、いつの間にか相手のあれもこれも気に入らない、なんでこいつはあたしの思い通りになってくんないんだろう……って思うようになってた。それって相手も不幸にするし、自分にとってもよくないでしょ。だから、まだ好きな気持ちがあるうちに別れたの」
「――マヤから言ったんだ」
驚きが言葉になって出て行った。その人にも、という冒頭の言葉だけは礼儀として飲み込んだ。確かにいつもマヤが振る側だけど、ここで口にするのはあまりにも無慈悲だ。
「
ふへへへ、と照れ隠しのように笑うマヤは、ポンデリングにかじりつく。薄目で見れば鎖のような凸凹が、彼女の歯型の形に途切れた。
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